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馴化-鋭敏化【じゅんか-えいびんか】

最新 心理学事典

じゅんか-えいびんか
馴化-鋭敏化
habituation-sensitization
生得的な反応を誘発する刺激を短時間に連続して経験すると,反応は減弱していく。たとえば,警報音は驚愕反射を引き起こすが,繰り返しそれを聞いていると驚きは小さくなっていく。このような現象を馴化habituation(馴れ),または慣化(慣れ)という。馴化とは逆に,生得的な反応を誘発する刺激を短時間に連続して与えることで,その反応が増強することがある。これを鋭敏化sensitization,または感作という。馴化と鋭敏化は,単一事象の繰り返し呈示によって生じる行動変化であるので,条件づけのような連合学習と対比させ非連合学習non-associative learningとよばれることがある(ただし,鋭敏化に関しては,刺激特定性が見られないことや,持続時間が短いことなどから,一時的に喚起された全般的興奮状態とみなして,学習現象に含めないこともある)。反応の減弱が,感覚器の順応や効果器の疲労によらない場合,馴化は学習の一種である。

 馴化には,刺激特定性stimulus specificityがあり,特定の刺激に対する反応が馴化しても,他の刺激はその反応を引き起こす。上の例でいえば,もはや警報音には驚かなくなっていても,車のクラクションには驚くであろう。しかし,警報音とクラクションが似ていれば,あまり驚かない。このように,似た刺激に対しては,馴化の効果は波及する。すなわち刺激般化stimulus generalizationである。馴化の刺激特定性と般化の性質を利用して,言語報告が困難な対象者(乳児や動物)の知覚研究を行なうことができる。たとえば,視覚刺激Aに対して生じる注視反応は,刺激Aの繰り返し呈示によって減少するが,異なった刺激Bを呈示すると注視反応が生じる。このことから,刺激Aと刺激Bは弁別可能であると推定される。なお,ラットやマウスを用いた実験で,物体に対する探索反応の馴化を利用して,既知物体と新奇物体の弁別をテストする方法を物体認知学習object recognition learningの課題という。物体の弁別ができていれば,新奇物体には探索反応が見られるはずである。

 刺激に対する馴化が,他の刺激によって解除されることを脱馴化dishabituationとよぶ。たとえば,警報音に十分慣れた後,床の大揺れを体験すると,警報音への驚愕反応が再び見られることがある。なお,脱馴化という用語の本来の意味は,このように刺激Aへの馴化が生じた後,刺激Aを刺激Bと同時に呈示するか,あるいはB→Aの順で呈示した場合に,刺激Aへの反応が一時的に増大することである。しかし発達心理学などにおいては,脱馴化という用語が馴化の刺激特定性(刺激Aへの馴化後,刺激Bに反応する)に対して当てられることが多いので注意を要する。

 反応の馴化後,しばらく刺激を与えるのを休止してから再び当該刺激を与えると,馴化していた反応が復活する。これを,馴化の自発的回復spontaneous recovery(自然回復)とよぶ。この手続きを繰り返すと,自発的回復は小さくなってゆく。このことから,速やかに生じるが持続時間の短い短期馴化short-term habituationと,形成は遅いがなかなか消失しない長期馴化long-term habituationの2種類に区別することがある。つまり,反応の自発的回復は短期馴化からの離脱を意味し,訓練の繰り返しによる自発的回復の減少は長期馴化を示唆している。

 一般に鋭敏化には顕著な刺激特定性は見られない。たとえば,強い恐怖喚起刺激を経験した直後では,かすかな物音にもひどく驚くことがある。

 グローブスGroves,P.M.とトンプソンThompson,R.F.(1970)は,行動表出としての馴化現象・鋭敏化現象と,直接観察できない仮説構成体としての馴化過程・鋭敏化過程を区別した。彼らの二重過程理論dual-process theoryでは,刺激の繰り返し呈示は,刺激-反応間の神経回路における抑制性の変化によって生じる馴化過程と,刺激によって喚起される短時間の興奮状態としての鋭敏化過程を引き起こすとされる。刺激が弱い場合には馴化過程が優勢であり,刺激が強い場合には鋭敏化過程が優勢になる。行動表出はこの二つの過程の所産であり,結果的に反応減弱(馴化現象)と反応増強(鋭敏化現象)の様相を呈する。

 二重過程理論による馴化と鋭敏化のとらえ方は,図のようになる。刺激が弱い場合(左パネル)には,鋭敏化過程(S)は弱く,馴化過程(H)が強いため,刺激の繰り返し呈示によって実線のように反応の減弱(馴化現象)が生じる。刺激が強い場合(右パネル)には,鋭敏化過程(S)は強く,馴化過程(H)が弱いため,刺激の繰り返し呈示によって実線のように反応の増強(鋭敏化現象)が生じる。刺激が中程度の場合(中央パネル),鋭敏化過程(S)と馴化過程(H)がほぼ同程度生じるが,前者の効果は短期的であるため,実線のように反応はまず増強(鋭敏化現象)を示してから減弱(馴化現象)する。

 なお,とくに医療場面において,馴化のことを脱感作desensitizationとよぶことがあるが,これは,鋭敏化すなわち感作により生じた(あるいは生ずるはずであった)過敏反応が,逆に弱まっていくという意味で使用される表現である。また,薬物の繰り返し投与によって薬理効果が減弱することを耐性toleranceといい,薬理効果が増強することを逆耐性reverse toleranceとよぶ。これらは,それぞれ馴化および鋭敏化に対応する。しかし,一般に馴化は非連合学習であるとみなされるのに対して,耐性は生理学的変化としてとらえられることが多い。ただし,ワグナーWagner,A.R.(1981)のように,馴化も耐性もともにレスポンデント条件づけだと解釈する研究者もいる。 →動機づけ →般化 →レスポンデント条件づけ
〔中島 定彦〕

出典:最新 心理学事典
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