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軌道【きどう】

日本大百科全書(ニッポニカ)

軌道(物体の運動)
きどう
orbit
物体が運動する道筋のこと。経路ともいう。物体の運動は一般に基準とする座標系のとり方で異なるので、他の物を動かないと定め、それを基準座標系にとることで軌道が定まる。周期運動(一定の時間ごとに同じ状態が繰り返される運動)では閉曲線(楕円(だえん)、円などの両端がつながって閉じている曲線)となり、これが一平面内にあるとき、その面を軌道面という。[大脇直明]

天文学の場合

天文学でもっとも一般的に軌道というときは、天体が運動していく道筋のことである。太陽系の惑星の軌道や、2星からなる連星系内のそれぞれの星の軌道は、基本的には別項に述べるケプラーの法則に従う楕円である。一方、3体以上の連星系、星団内・銀河系内の星、もっと大きくは銀河団内の各銀河の運動の軌道はきわめて複雑である。それはこれらの天体集団内では多くの天体が複雑に分布し、互いの引力が複雑に作用するからである。[大脇直明]
惑星の軌道
天体の一般的な軌道について述べるのは困難であるから、惑星の軌道に限定して述べる。この場合、惑星はただ1個で、他の惑星はないものとする。このような場合を二体問題(太陽と1個の惑星)という。現実の太陽系では、他の惑星との間に引力が働くが、その引力は太陽との間の引力に比べて著しく小さいので、近似的に二体問題と考えてよい。そのとき軌道はどうなるであろうか。この問題は天体力学の最初の問題である。以下、相対論的効果は無視して、古典力学の範囲で考察する。
 太陽と惑星との間には万有引力が働く。この引力の大きさは、両天体の質量の積に比例し、距離の2乗に反比例し、力の働く方向は両天体を結ぶ線分上である。ある力が一つの物体に働くとき、その物体の運動状態はニュートンの力学の法則、とくに第二法則によって定められる。ゆえに第二法則を用いると万有引力のもとの運動が厳密に求められる。その結果を軌道に関して略述すると次のようになる。
(1)惑星は太陽を通る一つの平面内を運動する。この平面が軌道面である。
(2)軌道面内での惑星の軌道は、太陽(厳密には太陽と惑星との共通重心。ただし太陽の質量が惑星の質量に比して著しく大きいので共通重心は太陽とほぼ一致する)を焦点とする楕円となる(ケプラーの第一法則)。軌道の形や大きさは、近日点距離を一定にしておくと、そこでの速度が大きいほど扁平(へんぺい)(つぶれた形)になり、また大きくなる。[大脇直明]
軌道要素
軌道の特徴を示す次の六つの量を軌道要素という。(1)長半径a 軌道の大きさを表す。(2)離心率e 軌道の形、すなわち楕円の扁平さを表す。楕円の場合、eは1未満の数で、e=0ならば円、eが0より大きくなるにつれて楕円は扁平となっていく。
 次は軌道面の空間における姿勢や向きを示す量で、一般に地球の軌道面(黄道面)に対する姿勢や向きで表す。すなわち、(3)昇交点(天球上、天体が南から北に動くときにその軌道が黄道と交わる点。北から南に動くときには降交点という)黄経Ω 軌道面と黄道面との交線の方向を示すもので、昇交点の方向を春分点から東回りに測った角で表す。(4)軌道傾斜i 軌道面と黄道面とのなす角。
 次は軌道面内での軌道の向きを示すもので、(5)近日点黄経(または近日点引数ω) =Ω+ωと定義する。(6)ある特定の時点(元期という)での惑星の位置、またはある特定の点(たとえば近日点)に惑星がある時刻。[大脇直明]
放物線および双曲線軌道
楕円軌道の天体がある限界(脱出速度)に達すると、天体は太陽との引力を振り切って飛び去ってしまう。このとき軌道は太陽(との共通重心)を焦点とする放物線となる。すなわちe=1。またaのかわりに近日点距離qを用いる。さらに速度が大きくなると双曲線軌道(e>1)となる。彗星(すいせい)のなかにはハリー彗星(ハレー彗星)のように楕円軌道のものもあるが、多くは放物線軌道上を運動している。[大脇直明]
軌道要素と軌道運動
ある時刻で惑星の位置(座標)とそこでの速度(大きさと方向)が与えられると、六つの軌道要素がすべて一義的に定まる。逆に軌道要素が与えられると、すべての時刻における惑星の位置・速度が定まる。ゆえに軌道要素は、惑星や彗星などの任意時刻の位置を計算するのに欠くことができない。[大脇直明]
衛星などの軌道
衛星の軌道も、惑星・衛星の二体問題と考えれば、太陽・惑星の場合と同じである。軌道要素の基準面にはその惑星の赤道面をとることが多い(とくに地球の人工衛星の場合)。[大脇直明]
軌道の決定
新しい彗星や小惑星などを発見した場合、その軌道の決定には、最低3個の時点での位置を観測し、6個の軌道要素を計算する。この方法などの理論を軌道論という。[大脇直明]
摂動
現実の太陽系には少なくとも8個の惑星があり、一つの惑星の運動は、多少なりとも他の惑星との間の引力の影響を受ける。したがって厳密には二体問題ではなく、軌道は楕円(または放物線・双曲線)軌道から少しずつずれた運動をする。この運動のずれを摂動という。惑星も摂動を受けるが、月や各惑星の衛星でとくに著しい。地球の人工衛星はそのもっともよい例で、その軌道運動はきわめて複雑である。[大脇直明]

物理学の場合

物体の1点(多くは重心)に着目して物体の運動をその点の運動で表すとき、それが空間に描く道筋の曲線をいう。物体の運動を調べる動力学では、軌道の形と、その上の各点を物体が通る時刻とを求めることがおもな目的であることが多い。ニュートン力学は、天体のうちで特殊な運動をする惑星の軌道に関するケプラーの法則の説明から始まった。ニュートンが万有引力と運動の法則とを用いて、惑星は太陽を焦点の一つとする楕円(だえん)軌道を描くことなどを導き出すことに成功して、古典力学が確立された。地上の物体の場合には、万有引力は一様な重力として扱ってよいから、空気の抵抗がなければ、投げた物体の軌道は放物線になる。また、1点からの距離に比例する引力をその点に向けて受けている物体の運動は、その点を中心とする楕円軌道を描く楕円振動(周期的な動き)になる。軌道の概念は電子などの微視的粒子にも拡張して適用される。広い空間で場所による変化の緩やかな力を受けて運動する粒子(ブラウン管内の電子など)は古典力学で計算できる。しかし、原子や分子内の電子は量子力学で扱う必要があり、運動状態は波動で記述される。周期的軌道運動に相当するものは定常波で表される。そのような定常波を表す波動関数のことを、原子軌道とか分子軌道とよんでいる。惑星の運動に対応するのは、原子核から距離の2乗に逆比例する引力を受けて1個の電子が運動する水素類似原子の波動関数である。[小出昭一郎]
『堀源一郎著『宇宙法則の謎――なぜ宇宙は万有引力をえらんだか』(1986・丸善) ▽吉田政幸著『分子軌道法をどう理解するか』第2版(1986・東京化学同人) ▽長谷川一郎著『天体軌道論』改訂版(1986・恒星社厚生閣) ▽D・タタースフィールド著、大西洋訳『軌道計算テクニック』(1988・地人書館) ▽G・W・F・ヘーゲル著、村上恭一訳『惑星軌道論』(1991・法政大学出版局) ▽江沢洋著『物理は自由だ1 力学』(1992・日本評論社) ▽冨田信之著『宇宙システム入門――ロケット・人工衛星の運動』(1993・東京大学出版会) ▽古在由秀著『天文学講話――太陽系天体の動きを追って』(1997・丸善ライブラリー) ▽木下宙著『天体と軌道の力学』(1998・東京大学出版会) ▽広田穣著『分子軌道法』(1999・裳華房) ▽長沢工著『軌道決定の原理――彗星・小惑星の観測方向から距離を決めるには』(2003・地人書館)』

出典:小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)
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