Rakuten infoseek

辞書

記憶【きおく】

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

記憶
きおく
memory
過去の経験を頭のなかに残しておいて,ときに応じてそれらを思い起したり使用したりする過程,またはその機能を包括的に示す語。普通は,再生される場合に熟知感情ないし既知感を伴う表象,特に心像的なものについていわれるが,広くは,特別な既知感を伴わない習慣的動作や動作的なものも含む知識 (読字書字) や,過去の出来事に関しての時間的な位置づけなど,過去の経験に依存するすべてのものについて適用される。過程としては,印象を刻み込む記銘 impressionとそれを存続させる保持と再び意識化する想起との3段階に区分して考えられる。また,すぐに忘れられる短期記憶と長く存続する長期記憶があり,これら2つの記憶の背景には異なった機制が働くものとされている。

出典:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
Copyright (c) 2014 Britannica Japan Co., Ltd. All rights reserved.
それぞれの記述は執筆時点でのもので、常に最新の内容であることを保証するものではありません。

デジタル大辞泉

き‐おく【記憶】
[名](スル)
過去に体験したことや覚えたことを、忘れずに心にとめておくこと。また、その内容。「記憶に新しい出来事」「少年時代のことを今でも記憶している」「記憶力」
心理学で、生物体に過去の影響が残ること。また、過去の経験を保持し、これを再生・再認する機能の総称。
コンピューターに必要なデータを蓄えておくこと。

出典:小学館
監修:松村明
編集委員:池上秋彦、金田弘、杉崎一雄、鈴木丹士郎、中嶋尚、林巨樹、飛田良文
編集協力:田中牧郎、曽根脩
(C)Shogakukan Inc.
それぞれの用語は執筆時点での最新のもので、常に最新の内容であることを保証するものではありません。

栄養・生化学辞典

記憶
 感覚,感情,思考,印象,その他の精神的なことを思い出すことのできる能力

出典:朝倉書店
Copyright (C) 2009 Asakura Publishing Co., Ltd. All rights reserved.
それぞれの用語は執筆時点での最新のもので、常に最新の内容であることを保証するものではありません。

デジタル大辞泉プラス

記憶
日本のポピュラー音楽。歌は女性歌手、MISIA(ミーシャ)。2011年発売。作詞:MISIA、松井五郎、作曲:BZ4U。テレビ朝日系で放送のドラマ「遺留捜査 第1シリーズ」の主題歌。

出典:小学館
(C)Shogakukan Inc.
それぞれの用語は執筆時点での最新のもので、常に最新の内容であることを保証するものではありません。

世界大百科事典 第2版

きおく【記憶 memory】
一般に,過去の体験やできごとを記銘し,保持し,再生する働き,あるいは再生されたものをいう。しかし,これが広狭両様にいわれるところから,記憶をめぐる解釈上の問題が起こっている。例えばベルグソンは,習慣も過去に定着した運動機構の保持と再生であるとして,それを〈習慣‐記憶〉と呼んだ。さらに彼は,事物の時間的生成が過去の絶えざる累積であることを〈純粋記憶〉と言い表している。これなどは記憶という語の最も広い用法の一例であるが,ここまでくると,記憶という語の使用が意味を失うと思われる。

出典:株式会社平凡社
Copyright (c) Heibonsha Limited, Publishers, Tokyo. All rights reserved.

大辞林 第三版

きおく【記憶】
スル
経験した物事を心の中にとどめ、忘れずに覚えていること。また、覚えている事柄。 当時の事はよく-しています -にない
経験したことを覚えこんで保持しておき、のちに過去の経験として再生する働き、また、その内容。 → 記銘保持再生
コンピューターの記憶装置に必要な情報を一定期間保存しておくこと。

出典:三省堂
(C) Sanseido Co.,Ltd. 編者:松村明 編 発行者:株式会社 三省堂 ※ 書籍版『大辞林第三版』の図表・付録は収録させておりません。 ※ それぞれの用語は執筆時点での最新のもので、常に最新の内容であることを保証するものではありません。

日本大百科全書(ニッポニカ)

記憶
きおく
memory
経験を保持し、なんらかの仕方でこれを再現する機能を意味する。時間的な経過からみると、記銘memorization、保持retention、想起rememberの過程に分けられる。記銘は経験の獲得という意味で学習の側面ともみられるが、保持、想起の前提となる。つまり、学習と記憶とは不可分な関係にある。[小川 隆]

記憶の区分

今日の知見では、記憶は1000分の1秒単位で測られる瞬時の感覚的記憶すなわち直接記憶immediate memoryと、記銘後、復唱を許す程度の比較的短時間保持される短期記憶short term memoryと、長期にわたり永続的に保持される長期記憶long term memoryとに3区分して研究されている。[小川 隆]
直接記憶
直接記憶については古くから記憶の範囲が問題とされ、たとえば種々の長さの数系列や文字系列を1字ずつ継時呈示し、記銘直後に想起させると、約7個の数の限界が示されていたが、近来、数項目の行列を瞬間的に同時呈示し、2分の1秒以内に信号音を聞かせて任意の行列を想起させると、それ以上の数の項目が想起されることが実験的に明らかになった。このような瞬時の視的印象はアイコンiconと名づけられている。直接記憶は1秒以内で消失するが、若干の項目は短期記憶に残される。[小川 隆]
短期記憶
短期記憶の容量は、記銘項目の単位に規定される。たとえば数個の数字を連絡なく個々に記銘しても、想起する保持量は少ないが、年号とか有意味な言語に置き換えて記銘すれば、多くの数字を想起しうる。このようなまとまりのある結合単位はチャンクchunkといい、チャンクの数が保持量を示すことになる。記銘項目の復唱は保持に有効で、この機会をなくすと急速に保持量は低下する。たとえば、無意味綴(つづ)りの記銘後、3桁(けた)の数字236を233、230、というように3の差で数列を後ろ向きに数えさせ、記銘項目の自然の復唱を妨害したところ、18秒で90%を消失したという実験もある。また、短期記憶の記銘系列が長いほど想起に時間を要することが、数字系列の再認を検討した実験で明らかにされている。この際、記銘数字の有無の判断がいずれも同様な再認時間の経過を示したので、想起の検索過程が並列的に行われるのでなく、直列的に行われ、また、項目の照合が有無に関係なくことごとく尽くされるとして、この過程を悉皆(しっかい)直列検索exhaustive serial searchという主張もある。[小川 隆]
長期記憶
短期記憶からなかば永続的に残された項目が長期記憶であるが、さらに個人の具体的経験を想起するエピソード記憶episodic memoryと、いちいちの具体的経験を想起するのでなく、経験を重ねるうちに言語化され、知識となった意味論的記憶semantic memory、あるいは概念的記憶conceptual memoryとに分けることもある。また、長期記憶となるものは生活史のなかでつねに強化を受け、復唱の機会の多いことと関係する。この機会の少ない他人の名前を忘れても、自分や近親の名前は忘れないのはこの例である。[小川 隆]

記憶の研究法

記憶に関して伝統的な研究法があり、記銘に関して、系列予言法serial anticipation methodと、対(つい)連合法parallel association methodとが用いられる。前者はアイウエオ順に並べた人名簿の名前を次々に照合しながら覚えるように、一定の順序の項目を記銘、想起させる場合であり、後者は外国語を辞書を引いて確かめながら覚えるように、1対の項目の系列を、次々に一方を覆って他方を想起させる場合である。これらの方法で、系列の中間に位置する項目が、両端に比して想起しがたいことが確かめられている。記銘項目のなかに異質の項目があると、これが目だって保持されやすいこと、また、有意味語の記銘系列では、無作為な配列から語と語の自然の連なりを逐次増加させ、完全な文章に近づけるほど想起量が多くなること、などが確かめられている。
 想起については再生reproduction、再認recognition、再学習relearningの方法が用いられる。再認は辞書のなかから語を探すように、現前の項目についてそれが記銘項目か否かを区別する手続であり、再生は辞書なしで語を思い出すように、項目の呈示がなく想起する手続である。再学習は同じ記銘系列をふたたび学習する方法で、一般に原学習より速く学習されるのでその節約率が保持量を示すことになる。想起される保持量は再生、再認、再学習の順に大となる。[小川 隆]

忘却

時間経過によって記銘項目の想起量は低下するが、エビングハウスの古典的研究では、無意味綴りの記銘項目を分、時、日、週、の時隔で1か月にわたって想起量を比較した結果、約1時間後に50%の保持量の低下を示し、その後は負の加速度をもって漸近線に近づくことを確かめている。これは、忘却曲線forgetting curveまたは、保持曲線retention curveといわれるが、保持曲線を詳しく検討すると、記銘直後よりも時間を置いて保持量が増すことが認められた。この現象はレミニセンスreminiscenceといい、無意味項目では数分後に現れるが、有意味項目では数日後に現れることもある。
 また、記銘と想起との間が覚醒(かくせい)時か睡眠時かで、保持量が異なることが確かめられている。無意味綴りの記銘実験では、睡眠時は覚醒時に比して保持量が低下せず、2時間後に覚醒時より高い漸近線に達することがみられている。覚醒時に干渉効果があることが予想されるが、実験的に認められている干渉効果は、たとえば、2種の項目系列を継時的に記銘した場合、前後に互いに干渉しあうことである。前系列の後系列への干渉は順向抑制または前進禁止proactive inhibition、後系列の前系列への干渉は溯向(そこう)抑制または後退禁止retroactive inhibitionという。干渉の効果は記銘項目が類似しているほど著しいが、似て非なるものの干渉で完全に同一であれば効果はなく、むしろ類似性が中程度で大であるという報告もある。一般に前系列の記銘直後、また想起直前、後系列が挿入される場合の効果は大きい。
 忘却は記銘内容の様相によって異なり、視覚的記憶が薄れて、聴覚的記憶に移行する場合や、言語化が進行し、聴覚的類似性よりも意味的類似や連想が効果をもつこともある。また、動機づけとも関係し、精神分析では不快な記憶が抑圧によって忘却されるという。[小川 隆]

記憶の再構成

想起を繰り返すと記銘項目の細部が薄れ、一定の方向に強調されたり、変化して想起されることがある。これを記憶の再構成という。図形の記憶で、たとえば、弧が、わずかに欠けた円となり、ついに完全な円となるように、不完全な図形が完全な図形にあわせるように近づく常態化、ゆがんだ図形が均衡のある図形に近づく対称化、特定の見方が図形の一部を目だたせる強調化などがみられる。なお、再構成は、碁石を持って以前に経験した局面を碁盤の上に再現するように、素材や部分を与えられて全体の配置を想起する場合にもいう。
 記憶は項目の意味、構造について記銘される論理的・概念的記憶と、それに関係なく反復して記銘される機械的暗記による場合とがあるが、後者は10歳前後までに多くみられ、その後は前者が増大する。再構成にとって主要な枠組みとなるのは感性的な面だけではなく、論理的記憶のなかでの知識や態度による意味づけで、それに従って記銘項目が変化する。この枠組みはスキーマschemaといわれることもある。[小川 隆]

哲学における記憶の問題

記憶の問題の原型は、プラトンのうちにみいだすことができる。プラトンは心のうちにある蝋(ろう)を考え、経験がその蝋に刻印されることを記憶とし、刻印されなかったり消えたりした場合を忘却とした。また心を鳩(はと)小屋と考え、さまざまな鳥をとらえその鳩小屋に入れることを記憶とし、鳩小屋の鳥を手にとらえることを想起とした。プラトンの蝋の比喩(ひゆ)、鳩小屋の比喩のうちに、いかにして過去の経験が保持されるのか、過去の想起とはいかなることか、についての困難な問題をみることができる。過去が鳩小屋の中の鳥のようにそのままの形で残っており、それを手にとらえることが想起だとすれば、過去の想起は現在の知覚と区別できないことになる。現在の知覚も外にいる鳥をとらえることなのだから、とらえられた鳥は想起と知覚との区別を与えることはできない。過去がそのままの形で保持されるのではなく、鳩小屋の鳥が多少生気を失っていると考えるとしても、やはり現在の知覚と区別されないだろう。生気のない鳥をとらえるような現在の知覚もあるし、逆に生き生きとした記憶もあるのだから。それに対し過去が鳩小屋の鳥のようにそれ自体が保持されるのではなく、記憶を蝋の比喩のように過去の写しと考えることができる。
 しかし想起とは、過去の写しをあたかも過去に撮った写真のようにみて、それを通して過去を想起するのではなく、過去そのものに直接にかかわることである。しかも過去の写しが「過去」の写しという意味をもつためには、その原型である過去をなんらかの仕方で知っていなければならない。それゆえ想起とは過去そのものにかかわること、過去そのものに達することと考えねばならない。思い出せないという忘却も過去との欠如的なかかわりであるがゆえに、想起によって過去へと開かれていることを前提にしている。
 さらに記憶は現在の経験、知識を可能にするものとして哲学の問題となる。この問題もまたプラトンの想起説にその原型をみることができる。それはア・プリオリ(先天的)の問題であり、生得(せいとく)観念(デカルト)、ア・プリオリな認識(カント)のうちに継承された。ヘーゲルの『精神現象学』(1807)は、忘却された意識の経験を想起することとして展開された。ハイデッガーはア・プリオリの問題を存在論のうちで、存在の先行的了解として展開した。[細川亮一]
『小谷津孝明編『現代基礎心理学講座4 記憶』(1982・東京大学出版会) ▽小谷津孝明編『認知心理学講座2 記憶と知識』(1985・東京大学出版会)』

出典:小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)
(C)Shogakukan Inc.
それぞれの解説は執筆時点のもので、常に最新の内容であることを保証するものではありません。

最新 心理学事典

きおく
記憶
memory
記銘,保持,想起という三つの段階からなる心的機能。記銘memorizationとは,符号化encodingともいい,外界の情報を保持できるように変換して取り込むことである。記銘された情報は必要な時点で取り出されるまで蓄えられている必要があるが,こうして情報を保管しておく働きを保持retention,または貯蔵storageとよぶ。そして,保持情報が利用されるためにはこれを取り出す必要があり,この過程を想起rememberingあるいは検索retrievalという。忘却forgettingとは,一度記銘された情報が後に想起できない状態を指す。その原因には二つが考えられる。一つは保持の失敗で,その情報が失われてしまったことによって想起できないもの,もう一つは想起過程そのものの失敗で,情報が保持されているのにもかかわらず検索できない場合である。前者は情報の利用可能性availabilityの問題であり,後者はアクセス可能性accessibilityの問題であるとされる(Gregg,V.,1986)。記銘されなかったことが原因である場合の記憶の失敗は,忘却とはよばない。

【記憶の測定方法】 記憶の働きを調べる場合,上記の三つの段階を人工的に設定することが多い。まず,実験の参加者に対して覚えるべき材料を提示し,記銘を求める。これを学習段階study phaseという。学習段階から一定の時間の経過後に,なんらかの方法で想起を求める。これをテスト段階test phaseとよぶ。学習段階とテスト段階の間の時間を保持期間retention intervalとよぶ。テスト段階で用いられる課題にはさまざまなものがあるが,再生recallと再認recognitionが代表的な課題である。

 再生課題では,学習段階で経験した記銘材料を,口頭,筆記,あるいは行為によって生成することが要求される。とくに,記銘材料を提示された順序で再生することを求める課題を系列再生serial recall課題,順序に関係なく再生する課題を自由再生free recall課題とよぶ。また,たとえば,記銘材料の一部や属性を手がかりとして与えて再生を求める課題を,手がかり再生cued recall課題とよぶ。一般に,数個以上の記銘材料を一つずつ順に提示された場合,これらの材料を再生すると,最初の方に提示された材料と後の方で提示された材料の再生率が高い。前者を初頭効果primacy effect,後者を新近性効果recency effectとよび,さらに,これらの再生成績を提示順にプロットして描かれる系列位置曲線は,上述の系列位置効果serial position effectを視覚的に示すことができる。これらの効果は頑健であるとともに,種々の実験操作の影響を受けることが知られており,長く心理学における重要な研究対象の一つであった。

 再認課題は,学習段階で提示された記銘材料を,テスト段階で示される材料の中から同定することを求める。諾否型再認では,学習段階に提示された記銘材料か,あるいは未提示であった材料が一つずつ提示され,その一つひとつについて旧項目(提示された記銘材料)であるのか新項目(未提示の材料)であるのかについての判断を求める。強制選択型再認では,複数の材料が一つの旧項目を含めて一度に提示され,その中から旧項目を選択することが求められる。バッチ型再認では,実験参加者は,複数の旧項目と複数の新項目を含む選択肢の中から旧項目を選択する。これらの再認課題からは,旧項目を正しく旧項目であると判断するヒットhit,旧項目を新項目であると誤って判断してしまうミスmiss,新項目を正しく新項目であると判断する正棄却correct rejection,新項目を誤って旧項目であると判断してしまう虚再認あるいはフォールスアラームfalse alarmの四つのタイプの反応が得られる。強制選択型再認やバッチ型再認では,複数の項目への判断を並行して行なうことになるため,これら四つのタイプの反応を正当に評価することが難しい。そのため心理学の実験においては,諾否型の再認課題が用いられることが多い。

 経験的には,再生よりも再認の方がやさしい課題のように感じられ,また再生と再認が類似したメカニズムによって成り立っていると考えられる。しかし,再生できる記銘材料が再認できないという再認の失敗現象(Tulving,E.,& Thomson,D.M.,1973)や,再生率を上昇させる実験の操作が再認成績を低下させるといった結果からは,再認が単に再生のやさしいものとは考えられず,二つの課題にはある程度異なるメカニズムが関与していると結論できる。そのほか,間接プライミング,直接プライミングという方法で記憶の働きを測定することも多い。

【記憶の種類】 記憶には,いくつかの種類があり,さまざまな分類方法が存在している。大きくは,「保持の時間」を基準にした分類と「想起の性質」に着目した分類がある。保持の時間による分類においては,保持時間が数秒以下ときわめて短いと考えられている感覚記憶,数秒から数十秒と考えられている短期記憶,そして数分から数時間,数ヵ月から数年(場合によっては永久)という長い期間が仮定されている長期記憶がある。

 感覚記憶sensory memoryは,カテゴリー化される前の感覚的情報を保持しておく働きであり,各感覚モダリティに対応した別々の感覚記憶システムがあると考えられている。視覚情報の保持には数百ミリ秒しか持続しないアイコニックメモリiconic memoryが,聴覚情報の保持には数秒間持続するエコイックメモリechoic memoryがそれぞれ対応している。保持時間は短いが,一度に保持されている情報は膨大であると考えられている。

 短期記憶short-term memoryには,数秒から数十秒という短い時間しか情報を保持できないという制約に加えて,一度に保持できる容量に厳しい限界があるという特徴がある。この短期記憶の容量の限界は,記憶範囲課題memory span taskによって見積もられることが多い。この課題は,多くの場合,数字か単語を記銘材料とし,提示した材料の直後系列再生を求める。最大で何個の項目を正確に再生することができるのかが指標となり,この値が記憶範囲memory spanとよばれる。ミラーMiller,G.A.によれば,個人差は存在するが,通常,7±2の間に収まるとされる。ただし,この値は,提示された材料を能動的にリハーサルするなどの方略を用いた場合のものであり,なんらかの方法でそうした方略が妨害された場合には,4程度の値となり,これを真の記憶範囲の値であるとする研究者もいる。

 長期記憶long-term memoryは,長時間情報を保持できるという特徴に加え,その容量に限界がないという性質をもつと仮定されている。その記憶の内容から,言語的に表現が可能であるとされる宣言的記憶declarative memoryと,言語的な表現が困難である非宣言的記憶non-declarative memoryに分けられる。前者はさらに,エピソード記憶episodic memoryと意味記憶semantic memoryに分類される。非宣言的記憶の代表的なものは,手続き的記憶procedural memoryであり,たとえば,泳ぎ方,自転車の乗り方,ワープロの入力方法といった行動の方法に関する記憶を指す。

 想起の性質に着目した分類によれば,再生や再認のような記憶課題によって測定される,学習エピソードの回想recollectionを伴う記憶を顕在記憶explicit memoryという。これらの課題では,実験参加者は,「思い出すように」という教示を受け,学習エピソードの想起を求められる。すなわち,意識的な想起が要求されるのである。一方,学習時のエピソードの意識的想起を伴わない記憶を潜在記憶implicit memoryとよぶ。潜在記憶は,知覚同定課題や単語完成課題といった,「思い出すように」という教示を与えない課題によって測定される。典型的な単語完成課題では,「し□り□く」のような未完成の単語が提示され,この単語が何であるのか,同定するよう求められる。事前に「しんりがく」という単語を見ていた場合には,そうした経験がない場合に比べて,正答できる割合が高くなる。これを直接プライミング効果direct priming effect,または反復プライミング効果repeated priming effectという。興味深いことに,事前に「しんりがく」という単語を見たということを想起できなくてもこの直接プライミング効果は見られる。このことは,意識的なエピソードの想起(顕在記憶)と直接プライミング効果(潜在記憶)が独立していることを意味している。直接プライミング効果は,環境から求められる必要な情報処理を効率よく行なうことを可能にしている現象で,知覚表象システムperceptual representation system(PRS)の働きを反映していると考えられている。

【想起と記憶の再構成】 記憶の想起の特徴は,それが能動的であり,結果的に,再構成過程reconstruction processからなるというところにある。知覚においても,過去経験や期待によって能動的でトップダウン的な処理が影響を及ぼすが,このことはとくに記憶において顕著である。バートレットBartlett,F.C.(1932)によれば,われわれが想起するのは,過去の出来事についての具体的な経験そのものではなく,その全般的な主題であって,想起を試みる場合には,そうした主題やスキーマに一致する事柄によって細部を補うことになる。再構成過程とは,不十分な記憶を補完するこのような過程を指す。スキーマschemaとは,経験の積み重ねによって形成された知識の構造あるいは認知的な枠組みのことであり,これは,これまでの経験から逸脱しない日常的な生活においてはうまく機能し,再構成過程を有効なものとする。スキーマの存在によって,われわれの認知システムは膨大な情報を過重に負荷なく処理することができるのである。その一方で,スキーマに一致しない情報は,スキーマに適合するように変容することが多い。バートレットは,イギリスの大学生に,なじみのない物語を2回,自己ペースで読ませ,さまざまな保持期間をはさんで繰り返し何度も再生を求めた。この反復再生の結果,一貫した傾向として,文章が短くなることなどに加え,超自然的でイギリス人の期待に合わないものは変容することがわかった。たとえば,「黒いものが口から出てきたsomething black came out of his mouth」は,「口から泡を吹いたfoamed at the mouth」へ変容する。スキーマや知識,先入観に基づいた記憶の変容は,目撃者の証言における記憶の歪みや偽りの記憶といった現象にも見られる。 →記憶の進化 →スキーマ →知識 →日常記憶 →符号化 →プライミング効果
〔齊藤 智〕

出典:最新 心理学事典
Copyright (c) Heibonsha Limited, Publishers, Tokyo. All rights reserved.
それぞれの記述は執筆時点でのもので、常に最新の内容であることを保証するものではありません。

記憶」の用語解説はコトバンクが提供しています。

記憶の関連情報

他サービスで検索

(C)The Asahi Shimbun Company /VOYAGE MARKETING, Inc. All rights reserved.
No reproduction or republication without written permission.