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肥満症【ひまんしょう】

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

肥満症
ひまんしょう
obesity
身体に脂肪組織が異常に蓄積した状態。通常,カロリーの摂取量が長期的に消費量を上回った結果,標準体重の 20%以上増加したものをいう。標準体重の算出法はいろいろあるが,日本では (身長-100) × 0.9が広く用いられている。肥満の原因は種々あり,過食および運動不足,体質,心因内分泌異常などがあげられる。疾病から二次的に起きる症候性肥満以外の単純性肥満の場合でも,糖尿病動脈硬化症,肝疾患などの合併率が高くなり,寿命も短い。

出典:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
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デジタル大辞泉

ひまん‐しょう〔‐シヤウ〕【肥満症】
脂質代謝異常高血圧脂肪肝など肥満に起因する健康障害があるか、またはその発症が予測され、医学的に減量を必要とする状態。

出典:小学館
監修:松村明
編集委員:池上秋彦、金田弘、杉崎一雄、鈴木丹士郎、中嶋尚、林巨樹、飛田良文
編集協力:田中牧郎、曽根脩
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栄養・生化学辞典

肥満症
 標準体重の+20%以上の体重を有する場合をいう.大半は外因性肥満で内因性肥満は少ない.単純性肥満ともいわれ,運動療法食事療法により治療される.成人病への罹患率が高い.

出典:朝倉書店
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生活習慣病用語辞典

肥満症
肥満が原因で糖尿病や高血圧、睡眠時無呼吸症候群高脂血症など、他の健康障害を起こしていると医師が診断したとき、肥満症という病名が付きます。これらの健康障害が起きそうだと医師が判断した場合も肥満症です。BMI が 25 以上の人は肥満です。

出典:あなたの健康をサポート QUPiO(クピオ)
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家庭医学館

ひまんしょう【肥満症 Obesity】
◎食べすぎと運動不足が原因
[どんな病気か]
[原因]
[検査と診断]
◎まちがった食事療法に注意
[治療]

[どんな病気か]
 肥満とは、単なる体重の増加ではなく、からだに脂肪組織が過剰にふえた状態です。
 筋肉がふえて体重が増加したスポーツマンなどは、肥満ではありません。
 肥満かどうかを調べるには、脂肪組織の量を測定することが必要で、弱い電流を流して、その伝導の状態から体脂肪の割合を測定するインピーダンス法など、多くの方法があります。
 目安としては、体重に対する脂肪の割合(体脂肪率(たいしぼうりつ))が、男性では25%以上、女性では30%以上あると、肥満といえます。
 しかし、肥満であれば医学的な問題がおこるとはかぎりません。太っていても、元気で活動している人はたくさんいます。
 減量を主とする治療を必要とするようになった病気が、肥満症です。そのため、肥満症とは「脂肪組織の過剰な蓄積という身体状況が、すでに医学的な管理を必要とするようになった状態である」と定義できます。
 肥満症は、肥満に基づく病気(糖尿病、高脂血症(こうしけっしょう)、高血圧、動脈硬化症(どうみゃくこうかしょう)、心不全(しんふぜん)、ピックウィック症候群、脂肪肝(しぼうかん)、胆石(たんせき)、変形性関節症(へんけいせいかんせつしょう)など)をともなうか、減量しなければ、将来ともなうであろう可能性が高い肥満(内臓脂肪型肥満(ないぞうしぼうがたひまん)、上半身肥満)です。
●標準体重
 現在のところ、体脂肪率をかんたんに、正確に測定する方法は確立していません。
 ふつうは、身長と体重から基準値(標準体重)を計算し、それを何%か上回れば肥満とする方法がとられます。
 計算法 標準体重を計算する容易な方法として、
 (身長cm - 100)× 0.9kg
の式で求められるブローカの桂変法があります。
 この方法は簡便ですが、理論的な根拠がなく、低身長の人にきびしすぎる欠点があります。
 BMI 現在、世界でもっともよく使われている方法(成人の体格指数)は、BMI(ボディマスインデックス)と呼ばれるものです。これは、
 体重kg ÷(身長mの2乗)
という式で計算します。BMIが25以上の場合、肥満と判定されます。
 徳永(とくなが)・松沢法(まつざわほう) 日本人の30歳から60歳の成人で、もっとも病気にかかる率の少ないBMIは、男女とも約22であることがわかっているので、
 標準体重kg = 身長 × 身長m × 22
という計算式が提案されました。これが徳永・松沢法です。
 この標準体重の計算法は、病気になることが少ないという医学的な根拠に基づいており、BMIを基盤としているため、国際間の比較ができること、22という数字を覚えていれば簡単に計算できること、などの利点があります。日本肥満学会でも研究者の共通の尺度として採用され、広く普及しつつあります。
 肥満度 各人の標準体重から、どの程度の肥満かを知ることができ、
 (実測体重 - 標準体重)÷ 標準体重 × 100
という式によって計算します。
 この値が、プラス20%以上の人を「肥満」、プラス10%以上でプラス20%未満の人は「過体重」、マイナス10%以上でプラス10%未満の人は正常体重とします。
●どんな肥満が悪いのか
 体脂肪率や体重は、肥満を判定するうえでたいせつですが、近年それにもまして成人病と関連があると注目されているのが、からだのどの部分に脂肪がついているかということです。
 最近、体重と同時に体脂肪率もはかれるというインピーダンス法を使った器具などが出ていますが、同じ体脂肪の数値が出ても、脂肪のつき方(体脂肪の分布)によって、病気のおこりやすさはちがってきます。
 皮下(ひか)に、まんべんなく脂肪のついている皮下脂肪型肥満(ひかしぼうがたひまん)(下半身肥満、洋ナシ型肥満)は、割合に病気をともなうことがないのですが、腸の膜(まく)についた脂肪が多い内臓脂肪型肥満(ないぞうしぼうがたひまん)(上半身肥満、リンゴ型肥満)は要注意です。
 外見はそう太っていなくても、おなかが非常に出ている人は、内臓脂肪がついている可能性があります。
 おなかの中に脂肪が蓄積した内臓脂肪型肥満では、皮下脂肪型肥満に比べて、糖尿病や高脂血症、高血圧、さらには冠動脈硬化症(かんどうみゃくこうかしょう)をおこしやすいことが明らかになっています。
 内臓脂肪型肥満の診断には、CTで腹部の断層像をとり、その内臓脂肪の面積(V)と皮下脂肪の面積(S)の割合(V/S比)が0.4以上を内臓脂肪型肥満とします。
 内臓脂肪、腸間膜(ちょうかんまく)や大網(たいもう)(胃から腸にたれ下がった腹膜(ふくまく))についた脂肪は、遊離脂肪酸(ゆうりしぼうさん)に分解されると、直接肝臓に流れ込みます。そのため処理しきれない状態になって、肝臓のはたらきの異常がおこり、糖尿病や高脂血症、高血圧などがおこりやすくなります。

[原因]
 満腹感や空腹感は、胃で感じるように思いますが、胃自体に感覚があるわけではなく、胃からの情報は内臓に分布する、迷走神経(めいそうしんけい)をとおって、脳の視床下部(ししょうかぶ)というところにある満腹中枢(まんぷくちゅうすう)、摂食中枢(せっしょくちゅうすう)と呼ばれる部分に送られます。
 この情報は、血糖の増減などの情報とともに2つの中枢に送られ、その神経細胞のはたらきによって、満腹感や空腹感がおこります。ヒトでは、食欲は精神的なものも大きく影響します。
 遺伝や病気など、肥満の原因がはっきりしているものを、二次性肥満(にじせいひまん)(症候性肥満(しょうこうせいひまん))といいます。
 しかし、内臓脂肪型肥満を含めて、肥満の大部分は、食べすぎや運動不足による原因のはっきりしない肥満で、これを原発性肥満(げんぱつせいひまん)(単純性肥満(たんじゅんせいひまん))といいます。
 二次性肥満には、ホルモンの異常による内分泌性肥満(ないぶんぴつせいひまん)、視床下部の異常による視床下部性肥満、遺伝性肥満、薬剤性肥満があります。
 内分泌性肥満の原因にはクッシング症候群、インスリノーマ(インスリン産生腫瘍(しゅよう))などがあります。
 遺伝性肥満の原因にはプラッダー・ウィリ症候群、バーデット・ビードル症候群などがあります。
 薬剤性肥満の原因にはステロイドホルモン薬や精神科の薬があります。

[検査と診断]
 肥満検査の目的は、原発性肥満か二次性肥満かを判断するためと、病気をともなっていないか知るためです。
●原発性か二次性かをみきわめる検査
 肥満の95%以上は原発性肥満が占めていますが、もとの病気を治療すれば治る二次性肥満であるかどうかを診断し、二次性肥満なら治療する必要があります。
 視床下部性肥満を見つけるには、脳内のトルコ鞍(あん)のX線撮影などをします。
 内分泌性肥満を見つけるには、各種の内分泌臓器(甲状腺(こうじょうせん)、副腎(ふくじん))の検査や基礎代謝(安静時のエネルギー消費量など)の検査などをします。
●肥満にともなう病気の検査
 肥満にともなう病気では、糖尿病と高脂血症(「高脂血症(高リポたんぱく血症)」)がもっとも重要で、これらをさがす検査をします。
 肥満者には、体内に入った糖をうまく処理できない(代謝異常)ものが多く、ブドウ糖などを使った糖負荷検査もされます。肥満度があがると、コレステロール、中性脂肪の増加、HDLコレステロールの減少がおこります。
 また、高尿酸血症(こうにょうさんけつしょう)、脂肪肝、高血圧、睡眠時無呼吸症候群(「睡眠時無呼吸症候群」)などの病気がないかを調べます。

[治療]
 肥満の食事療法の原則は、食事全体が低エネルギーであること、たんぱく質、ビタミン、ミネラルなどが不足しないこと、長期間続けることの3つが基本です。同時に、不適当な食習慣を改め、正しい食生活を確立していくこともたいせつです。
 多すぎる食事摂取量の制限は、絶食療法(ぜっしょくりょうほう)、超低エネルギー食(半飢餓療法(はんきがりょうほう))、低エネルギー食(減食療法(げんしょくりょうほう))の3種類に大きく分類されます。
 軽度から中等度の肥満であれば、低エネルギー食で十分に効果がありますが、高度の肥満になると、超低エネルギー食治療が必要なこともあります。
●絶食療法
 この方法では、急速に体重が減少します。内臓脂肪や皮下脂肪が減るだけでなく、脂肪以外の組織がかなり失われてしまい、たいせつな筋肉や内臓の組織が障害を受けます。
 いったん体重が減っても、また体重がもとにもどることが多く、現在ではほとんど行なわれていません。
●超低エネルギー食
 超低エネルギー食は、一般に600kcal以下の食事療法で、絶食療法の副作用をできるだけ少なくし、しかも絶食に近い減量ができるようにと生まれたものです。
 からだにとって必須(ひっす)なたんぱく質、糖質、ビタミン、ミネラルなどを含むダイエット食品が開発され、発売されています。しかし、実施するには、医師による注意深い観察下で行なわないと危険です。また、実施期間も約3か月までとされています。
●低エネルギー食療法
 これは、肥満の食事療法としてもっとも広く用いられているものです。
 1か月に1~3kg程度の減量ができます。通院の場合は、各個人の肥満度、年齢、性別、活動量に対応して、1000~1600kcalの食事療法を行ないます。
 たんぱく質は、筋肉、内臓、血液、ホルモン、酵素(こうそ)など、からだをつくるものとして重要で、ほかの栄養素でおきかえることができません。
 したがって、低エネルギー食でもたんぱく質を十分にとることが必要で、標準体重1kgあたり少なくとも1gは必要です。
 とくに日本人の肥満は、炭水化物のとりすぎによることが多く、甘いものはできるだけ制限する必要があります。
 低エネルギー食の場合、たんぱく質とビタミンやミネラルを確保すれば、脂肪や炭水化物は自然に摂取できるので、とくに考える必要はありません。
 満腹感が得られる食品(野菜、こんにゃく、海藻類、キノコ類)を用い、低エネルギーの甘味量などをうまく利用すると、量や味にある程度満足して長く食事療法を続けられます。
●運動療法
 運動によるエネルギー消費で減量を行なうことは、あまり期待はできませんが、運動は脂肪以外の筋肉などの組織を保つ意味で重要です。
 また、運動の継続によって、血清(けっせい)トリグリセリド(中性脂肪)の低下や、HDLコレステロール(いわゆる善玉(ぜんだま)コレステロール)の増加がみられ、糖や脂質の代謝によい影響を与えます。
 毎日、どこでも、いつでも、ひとりでもできる運動(歩行1日1万歩)を習慣とするとよいでしょう。
●薬物療法
 肥満治療において、薬物療法は補助的手段です。現在、日本で発売されているのは食欲抑制剤であるマジンドール剤1種類だけですが、エネルギー消費を促進する薬が開発中です。
●まちがったダイエット
 炭水化物をまったく食べないとか、油はとらないとかいった、極端なダイエットは避けるべきです。
 リンゴだけとか、キャベツだけとか、ゆで卵だけといった極端なダイエットを2~3か月間も行なうと、たんぱく質やビタミン、微量金属などが不足して、脱毛、爪(つめ)の変形、貧血、末梢神経障害(まっしょうしんけいしょうがい)などをおこすことがあります。
 からだには、ビタミン、ミネラルが2~3か月分は蓄えられているので、どんなに極端なダイエットでも、2週間程度で止めておくと、こうした欠乏症はおこりません。
 意志が強く、極端なダイエットを長期間続ける人ほど、これらの障害をおこします。ダイエットは、正しい栄養学の知識をもってすべきです。
 若い女性のなかには、下半身(おしりや太もも)についた脂肪を気にしている人がいますが、下半身についた脂肪は、女性にとって、非常にたいせつな脂肪です。女性は妊娠したり、授乳期がくると、ふだんよりも多くエネルギーを必要とするため、そのエネルギー源になる脂肪をあらかじめ体内に蓄えておかなければなりません。下半身の脂肪は、そのためのものなのです。
 太っている人はカロリーは少なめにし、必要な栄養素は十分とり、運動も加えて、健康的に減量してください。

出典:小学館
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それぞれの用語は執筆時点での最新のもので、常に最新の内容であることを保証するものではありません。この事典によって自己判断、自己治療をすることはお止めください。あくまで症状と病気の関係についてのおおよその知識を得るためのものとお考えください。

大辞林 第三版

ひまんしょう【肥満症】
体脂肪が過剰に蓄積された状態。体重が標準体重より30パーセント以上多い場合をいう。生活習慣病を合併しやすい。肥胖ひはん症。脂肪過多症。

出典:三省堂
(C) Sanseido Co.,Ltd. 編者:松村明 編 発行者:株式会社 三省堂 ※ 書籍版『大辞林第三版』の図表・付録は収録させておりません。 ※ それぞれの用語は執筆時点での最新のもので、常に最新の内容であることを保証するものではありません。

日本大百科全書(ニッポニカ)

肥満症
ひまんしょう
obesity
肥満症とは肥満に起因ないし関連する健康障害(医学的異常)を合併する場合で、医学的に肥満を軽減する治療を必要とする病態をいい、疾患単位として取り扱う、と定義される。厚生労働省によって1996年(平成8)に成人病という名称が生活習慣病と改められ、その急増に肥満が大きく関与していることが注目される。肥満の判定には、成人では体重(キログラム)を身長(メートル)の2乗で除したbody mass index(BMI)が国際的標準指標として広く使用されている。欧米人でのBMI≧30という肥満の基準とは異なり、日本人成人ではBMI≧25から健康障害が増加する。成人では基準値の設定が可能であるが、成長期では正常値が年齢で大きく変動するので、BMI自体は小児期・思春期の基準には用い得ない。日本の医療現場では1990年度の文部省学校保健統計調査に基づく年齢別、性別、身長別標準体重から肥満度(現在体重-標準体重/標準体重×100%)を算出して肥満児の判定基準として用いている。幼児では肥満度15%以上、学童以降では20~30%が軽度、30~50%が中等度、50%以上が高度肥満と判定される。体格指数(カウプ指数=体重(キログラム)/身長(センチメートル)×104、ローレル指数=体重(キログラム)/身長(センチメートル)×107)の場合と異なり、肥満度は年齢に関係なく一定であり、実際に治療するときに便利である。肥満は体に脂肪が異常に蓄積した状態であり、体脂肪率の測定が行われる。以前から皮下脂肪厚を測定して推定する方法が使われており、上腕伸側と肩甲骨下部の脂肪厚を測定する。しかしこの方式では皮下脂肪のみから体脂肪率を推定するため、より病的意義が強い内臓脂肪を計算に入れてないという理論的な問題がある。また水中体重秤量法やアイソトープ法は日常診療には用いられない。二重X線法Dual Energy X-ray Absorptiometry(DEXA法)は理論的に優れた測定法である。また生体インピーダンス法(bio-electrical impedance method:BI法)は簡便で精度の点で優れており、体脂肪率測定法として小児にも適している。着衣のままで測定が可能で、測定に熟練を要しない利点がある。体脂肪率による肥満の判定は、男子25%、女子11歳未満30%、11歳以上35%である。腹部から上に脂肪が蓄積される上半身肥満と、腰部から下に蓄積される下半身肥満も問題視されており、前者は生活習慣病罹患の頻度が高い。上半身肥満と下半身肥満の区別はウエストとヒップの比(W/H)で表わされ、男子1.0以上、女子0.8以上を上半身肥満と判定する。また肥満の判定に成長曲線を利用する場合もある。身長および体重を年齢ごとに記録したものを成長曲線とよぶ。日本では、身長と体重を0歳から18歳までの平均値およびISD(標準偏差)、±2SDの計5本の線で表示されている。その成長曲線から体重の異常な増加や、やせを早期に見い出して対応が開始できる。
 メタボリックシンドロームは内臓脂肪の過剰な蓄積(内臓脂肪型肥満)を中心の病態として、心筋梗塞や脳卒中に代表される動脈硬化性病変の高リスク群として注目されている。メタボリックシンドロームは予防医学上の疾患単位であり、リスクの高い人を早目にスクリーニングしておこうという概念である。内臓脂肪とは胃腸で吸収された栄養が肝臓に流れ込む道筋、すなわち門脈の環流域に分布する脂肪組織のことで、大網脂肪や腸間膜脂肪などの総称である。2005年の日本内科学会での診断ガイドラインでは、腹囲(臍(さい)周囲長)男性≧85センチメートル、女性≧90センチメートルに加えて
(1)血清脂質:中性脂肪≧150ミリグラム/デシリットルかつまたは低HDLコレステロール<40ミリグラム/デシリットル
(2)血圧の上昇:収縮期血圧≧130mmHgかつまたは拡張期血圧≧85mmHg
(3)空腹時血糖≧110ミリグラム/デシリットル
の3項目のうち2項目以上が該当する場合、としている。
 内臓脂肪の面積は臍レベルのCT断層写真によって測定し、内臓脂肪面積(V)が成人では100平方センチメートルか、またはVと皮下脂肪面積(S)の比であるV/S比が0.4を越える場合を内臓脂肪蓄積型と定義されている。小児では身体のサイズが異なるので成人と比較することは困難であり、この診断基準は設定されていないが内臓脂肪面積の60平方センチメートル、腹囲80センチメートル、V/S比0.276が求められている。小児においても内臓脂肪型肥満はメタボリックシンドロームの引き金となり健康障害につながるため、診断と管理が重要である。小児のメタボリックシンドロームの診断基準として、2006年に暫定案が示された。
(1)腹囲:小学生75センチメートル以上、中学生80センチメートル以上もしくは腹囲センチメートル÷身長センチメートル=0.5以上
(2)血清脂質:中性脂肪120ミリグラム/デシリットル以上またはHDLコレステロール40ミリグラム/デシリットル未満
(3)血圧:収縮期血圧125mmHg以上または拡張期血圧70mmHg以上
(4)空腹時血糖100ミリグラム/デシリットル以上
とし、このなかで(1)があって(2)~(4)のうち2項目を有する場合をメタボリックシンドロームと診断する。小児の肥満症治療が必要となる医学的問題として、(1)高血圧(2)睡眠時無呼吸などの肺換気障害(3)2型糖尿病、耐糖能障害(4)腹囲増加または臍部CTで内臓脂肪蓄積、などがあげられる。[井上義朗]
 肥満の原因の95%くらいまでは過食であって、単純性肥満という。食欲を抑制するレプチンleptinの異常でもおこる。脳腫瘍(しゅよう)、脳外傷、クッシング症候群、甲状腺(こうじょうせん)機能低下症などの基礎疾患によるものは比較的少ない。いずれにしても、体の消費エネルギーを超えてエネルギー摂取が行われると体の脂肪量は増加する。肥満には各種の合併症がおこりやすく、これが寿命を短くさせている。内科的には高血圧、脂質異常症、糖尿病、痛風、胆石、脂肪肝、狭心症、心筋梗塞(こうそく)、肺換気不良などが代表的で、外科では手術時出血、麻酔操作の不良、変形性関節症、変形性脊椎(せきつい)症などが多い。そのほか、不妊症、月経不順、子宮体部癌(がん)、皮疹(ひしん)などがある。
 肥満の治療の基本は、エネルギー摂取の制限である。まず食事療法が重要で、標準体重1キログラム当り25~30キロカロリーを与える。とくに糖質やアルコール類は控えめにすることがたいせつである。脂肪量は摂取エネルギーの25~30%でよく、植物油と動物性脂肪の比率はだいたい2対1くらいがよい。そのうえにペクチンやセルロースなどの繊維を増やすことが望まれている。食行動についての注意もたいせつで、ゆっくり食べること、食事の回数を減らさないこと、互いに牽制(けんせい)しあって減量するよう努力することも必要である。重症の場合には、腸バイパス術や胃手術などが行われる。できるだけ体を動かしてエネルギー消費を増すことも重要である。[中村治雄]
『日本肥満学会編『小児の肥満症マニュアル』(2004・医歯薬出版) ▽月刊「食生活」編集部編『やさしくわかる肥満&肥満症――栄養指導の実践に役立つ予防活動と治療』(2004・フットワーク出版) ▽武城英明編『症例から学ぶ肥満症治療――専門医が教える25のチェックポイント』(2006・診断と治療社) ▽日本肥満学会編『肥満症治療ガイドライン ダイジェスト版』(2007・協和企画)』

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精選版 日本国語大辞典

ひまん‐しょう ‥シャウ【肥満症】

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六訂版 家庭医学大全科

肥満症
ひまんしょう
Obesity
(代謝異常で起こる病気)

どんな病気か

 肥満とは単に体重が多いことではなく、脂肪組織が過剰に蓄積した状態のことです。しかし、体内の脂肪組織の量、すなわち体脂肪を正確に測定する方法は簡単ではないので、身長、体重に基づく指数が肥満の基準として用いられてきました。

 最近、体脂肪計として市販されているものは、生体インピーダンス法といって、微弱な電気を人体に流して体脂肪量を計算するものですが、その正確性はまだ不十分です。

 肥満自体は病気ではありません。体脂肪は、エネルギー補給機能、体温を維持するための断熱作用、内臓の保護作用などのよい役割ももっています。しかし、肥満があるとさまざまな健康障害(合併症)を起こしやすいことが問題です。肥満に基づく健康障害を合併した場合や、その危険が高い場合を「肥満症」といいます。

 最近の研究から、肥満の合併症は肥満度が高いことのみで起こるのではなく、むしろ内臓脂肪が蓄積する「内臓脂肪型肥満(上半身肥満)」で起こりやすいことがわかってきました。くわしくは後述します。

●標準体重と肥満度

 「標準体重」とは、その身長における最も生理的な状態にある場合の体重を意味します。また、その体格における死亡率が最も低い体重という意味で「理想体重」という表現が用いられることもあります。従来、日本では「(身長­100)×0.9㎏」で求めるブローカ・桂変法による標準体重の計算が用いられていましたが、これは簡便ではあるものの誤差が大きいなどの欠点がありました。

 そこで日本肥満学会は、「体重(㎏)÷身長(m)の二乗」で計算されるボディマス指数(BMI)が22の時に病気の合併率が最も少ないという統計成績に基づき、「身長(m)の2乗×22」によって求められる体重を、標準体重とするよう勧告しました。このように計算された標準体重は、厚生労働省(旧厚生省)の「日本人の肥満とやせの判定表」の数字ともよく合っています。

 標準体重に基づいて、肥満度は「(体重­標準体重)÷標準体重×100%」で計算されます。この式によれば、標準体重よりも少ない体重の人は肥満度がマイナスで表されます。

 肥満の判定基準は、従来、肥満度20%以上、BMI換算で26.4以上ということでしたが、日本肥満学会は肥満の判定基準をBMI25以上とすることを提唱しました。肥満およびやせの判定表を表17に示します。

原因は何か

●体重の調節メカニズム

 体重は、エネルギーの摂取と消費のバランスで決定されます。エネルギーの摂取は食事によりもたらされ、エネルギーの消費は基礎代謝(体温の維持と呼吸や血液循環など生命の維持に使われているエネルギー)、食事摂取時の熱産生、生活活動や運動によるエネルギーによります。

 成人では、このバランスが維持され、体重は変化しないように調節されています。すなわち、体重が減少すると食欲が亢進してエネルギーの消費は減少し、逆に体重が増加すると食欲が低下してエネルギーの消費は増加します。

 最近、こうした調節にはさまざまな因子が関わっていることがわかってきました。そのなかで、食欲の調節には脂肪細胞から出るレプチンという蛋白質が重要な役割をしています。レプチンは脳の視床下部(ししょうかぶ)というところの満腹中枢にはたらいて食欲を抑えるはたらきがあり、レプチンがなくなった動物では著しい肥満になることがわかっています。

 また、胃から産生されるグレリンという蛋白質が視床下部にはたらいて、レプチンとは逆に食欲を増進させることもわかってきました。「腹ぺこ」で食欲が出るしくみはグレリンによるものだったのです。

 さらに、熱産生を行う蛋白質が新たに発見され、熱産生に伴う消費エネルギーの低下が肥満の原因のひとつになることから、注目されています。

●遺伝と環境

 いろいろな病気が起こる原因には、遺伝と環境の両方が関わっています。肥満に関しても、人類の歴史のほとんどが飢餓(きが)と寒さとの戦いであり、獲得したエネルギーを脂肪として蓄える体の仕組みが発達した結果、いわゆる倹約遺伝子(けんやくいでんし)(肥満遺伝子)が保存されてきたと考えられています。

 遺伝因子について世界中で研究が行われています。現在のところ、複数の遺伝子の関与が明らかになり、遺伝子を調べて肥満になりやすい体質かどうかをある程度判断できるようになってきましたが、高い確率で肥満を予測できるまでには至っていません。

 一般には、肥満の原因としては環境因子のほうが重要と考えられています。環境因子としては、以下に述べる、食べすぎ(過食)、食べ方の誤り、運動不足が重要です。食べることに不自由がなく運動量が少ないという欧米型ライフスタイルが浸透するとともに、これらの環境因子は日本でも増加し、肥満が急激に増えています。

●食べすぎ

 なぜ食べすぎになるのでしょうか。通常は、すでに述べたレプチンなどによって満腹中枢が刺激され、私たちは食べすぎないようになっています。

 遺伝的にレプチンに異常があるために肥満が起こってくることはまれです。むしろ、肥満した人の多くではレプチンは増えていることがわかってきました。おそらく、レプチンのはたらき、あるいは満腹中枢の機能が障害されているものと考えられています。

 食べすぎを引き起こすきっかけとしては、ストレスが重要と考えられています。強いストレス状態におかれると、手元にある食べ物を手あたり次第に食べてストレスを解消しようとする「気晴し食い症候群」といわれる状態がありますが、多くの肥満者が食べることでストレス解消を図っていることがわかっています。

 さらに、食べすぎが続くと胃が大きくなって、たくさん食べないと満腹感が得られないようになることも問題です。さらに食べすぎて、肥満が進行する原因になります。

●食べ方の誤り

 意外にも、肥満者のかなりの人は食べすぎではないことがわかっています。こうした場合、食べる量よりも食べ方が問題です。食事回数と肥満との関係をみてみると、食事回数が少ないほど太りやすいのです。

 すなわち、朝食を抜いて夜に多く食べるなどの「かため食い」は、食べた栄養が吸収されやすく、過剰エネルギーをもたらすことで肥満につながりやすいのです。食事の回数が減ることで、食事摂取時の熱産生が減ることも原因と考えられています。

 1日の摂取量の半分以上を夜に食べる「夜食症候群」も太りやすい食べ方です。夜は消化管の機能が活発になり、食べた物が貯蔵エネルギーになりやすいと考えられます。また、「早食い」もよくありません。満腹感を感じにくく不必要に食べすぎることになります。

●運動不足

 運動不足では、消費エネルギーが低下してエネルギーが体のなかにたまりやすくなりますが、それよりもエネルギーを体のなかにためやすいという代謝状態をつくるほうが重要です。

 すなわち、運動不足は、血糖値を下げるはたらきをもつインスリンというホルモンのはたらきを低下させて、血糖を正常に保つのに必要なインスリン量を増やしてしまいます。この時のインスリンは、血糖値を下げる力は弱まっているのに、脂肪をつくる作用は弱まっていないために、体のなかで余分なエネルギーを脂肪に変えることを促進することになります。

 さらに運動不足は、筋肉量を減らし、安静にしていても体温を維持し生命活動を保つために使われる基礎代謝で使われるエネルギーを少なくしてしまいます。また、脂肪合成酵素のはたらきも高まるので、脂肪が体のなかでつくられやすくなります。

肥満のタイプ

 摂取エネルギーから消費エネルギーを差し引いた過剰エネルギーが脂肪として蓄積され、脂肪細胞が増加あるいは肥大して太りすぎ(過体重)になります。小児期からの肥満では脂肪細胞が増加し、成人してからの肥満では脂肪細胞が肥大することが多くなります。

 脂肪の分布は、上腕部、腹部、臀部(でんぶ)~大腿部の皮下の場合と、腹部の内臓周囲の場合とがあり、それぞれ「皮下脂肪型肥満」、「内臓脂肪型肥満」と呼ばれます。あるいは、体型から「上半身肥満(リンゴ型肥満)」と「下半身肥満(洋ナシ型肥満)」に分けられることもありますが(図12)、前者は内臓脂肪型肥満、後者は皮下脂肪型肥満にほぼ対応します。

肥満の症状と合併症

 肥満の自覚症状として頻度の高いものは呼吸障害です。睡眠時に、いびきや10秒以上の無呼吸が頻繁に認められ(睡眠時無呼吸(すいみんじむこきゅう)症候群)、日中の注意力障害、居眠りを起こしたりします。さらに重症になると、チアノーゼ(皮膚などが紫色になる)、多血症(たけつしょう)右室肥大(うしつひだい)右心不全(うしんふぜん)などを起こすこともあります(ピックウィック症候群)。

 また、過度の体重負担により、下肢の関節(()関節、(しつ)関節)、腰椎(ようつい)が障害され、腰痛、下肢痛などを起こします。

 さらに、肥満によりさまざまな健康障害を起こしやすくなります。2型糖尿病高血圧脂質異常症(ししついじょうしょう)高尿酸血症(こうにょうさんけつしょう)痛風(つうふう)動脈硬化症(心血管障害、脳血管障害)、脂肪肝は肥満により2~5倍合併しやすくなります。これらの合併症は、皮下脂肪型肥満よりも内臓脂肪型肥満のほうに起こりやすいことがわかっています。

 内臓脂肪蓄積に基づいて複数の病気が集積した病態は、最近は「内臓脂肪症候群」あるいは「メタボリックシンドローム」と呼ばれており、動脈硬化から心筋梗塞(しんきんこうそく)などを起こしやすいものとして注目されています。こうしたことから、内臓脂肪型肥満はハイリスク肥満とも呼ばれています。日本でもメタボリックシンドロームは激増しており、警鐘が鳴らされています。

 そのほかに、肥満に合併しやすいものとして、胆石、生理の異常(無月経、月経不順)などがあり、最近は悪性腫瘍(大腸がん胆嚢(たんのう)がん乳がん、子宮がん、前立腺(ぜんりつせん)がんなど)が合併しやすいといわれています。

 極度の肥満の場合は、上腕部、腹部、大腿部に皮下脂肪の断裂による皮膚線条が現れることもあります。また、うなじや腋窩(えきか)などに黒い色素沈着が現れることもあります(黒色表皮腫)。

検査と診断

 肥満があるかどうかは見ただけである程度見当はつきますが、より正確な判定のためには、身長と体重を測定し、前述のボディマス指数(BMI)を算出します。日本肥満学会の基準では、25以上を肥満と判定します。

 すでに述べたように、肥満があるだけでは病気ではありません。肥満に基づく健康障害を有するもの、あるいはその危険が高い場合を肥満症として区別します。

 合併症の危険が高いハイリスク肥満である内臓脂肪型肥満のスクリーニングとして、立位、呼気時のへその位置での腹囲を測ります。日本肥満学会の基準では、男性では85㎝以上、女性では90㎝以上であれば、内臓脂肪型肥満の可能性が高いものとします。内臓脂肪を正確に測定するためには、へその高さで腹部CT検査を行い、内臓脂肪面積を計算します。100㎡以上であれば内臓脂肪型肥満と診断します(図13)。

 また、簡便に体脂肪率を測定する方法として、生体インピーダンス法による体脂肪計による測定があります。男性は体脂肪率20~25%以上、女性は体脂肪率30~35%以上を、肥満の目安と考えてよいと思われますが、同じ器械でも計測する時間、飲食、運動、身体状況などによって計測値が変化する場合があり、注意が必要です。

 なお、別の病気が原因で肥満が起こることがあり、二次性肥満と呼ばれます。二次性肥満の場合は、主としてもとの病気の治療が必要になるので、二次性肥満かどうかの検査が行われることがあります。

 二次性肥満としては、クッシング症候群などの内分泌性肥満、ステロイド薬、抗うつ薬などの薬物使用による薬剤性肥満、視床下部の腫瘍(しゅよう)などによる視床下部(ししょうかぶ)性肥満、遺伝性疾患に伴う遺伝性肥満などがあります。

治療の方法

 二次性肥満に対しては、原因となっている病気の治療が中心になります。通常の肥満の治療の基本は、食事療法と運動療法です。薬物療法、外科療法は日本ではほとんど行われていませんが、補助的な手段として使われることがあります。

 食事療法と運動療法は、いっしょに行うことが重要です。食事療法だけでは、途中から減量効果がなくなる「適応」と呼ばれる現象が現れやすく、挫折することが多いのです。この現象は生体防御機構のひとつと考えられており、減量に伴って基礎代謝で使うエネルギーが低下することが原因です。また、食事療法だけでは、脂肪ではなく大切な体のなかの構成成分が減ってしまうことにもなりかねません。

 肥満の治療は長い期間にわたります。一時的に体重が減ることはあっても、その後の体重増加(リバウンドと呼ばれる)を起こすことが多く、理想的な体重を維持できる割合は非常に少ないのです。減量した体重を維持するためには、肥満の原因になった食習慣などの生活習慣を改善することが重要です。

 具体的には、1日の食事の時間、内容、摂取状況などをくわしく記録して、肥満の原因となる食行動や習慣を明らかにします。同時に体重を1日に数回測定してグラフにして記入しておくと、問題となる食行動がわかりやすくなります。こうした方法は行動療法と呼ばれ、最近注目されています。

 さらに、減量を行うにあたっては、無理のない治療目標を立てる必要があります。体脂肪を1㎏減らすためには、約7000k㎈のエネルギーを減らすことが必要です。食事療法だけでは、1日にごはんを3杯減らしたとしても、2週間くらいかかる計算になります。よく減量できたように思っても、水分が抜けているだけの場合も多いのです。1カ月に1~2㎏程度の減量が無理のないところです。

●食事療法

 肥満症の治療では、食事療法がその中心的役割を占めます。ただし、摂取する食事内容だけではなく、食習慣にも注意を払う必要があります。また、運動療法と並行して行うことが必要であることは、前に述べたとおりです。

 食事療法を行ううえで考えなければならないのは、健康に障害を与えないで体脂肪を減らすことです。無理な食事療法は体脂肪だけでなく、体のなかの蛋白質、骨量などを減らすことになります。そのために重要な事項は、①摂取エネルギーの設定、②栄養素の配分、③食習慣の改善です。

①摂取エネルギーの設定

 体脂肪を減らすためには、摂取エネルギーを消費エネルギーより低く設定する必要があります。しかし、健康な日常生活を送るうえで必要なエネルギー摂取量があります。

 糖尿病の食事療法のところでも述べましたが、1日の必要エネルギー量は、標準体重に身体活動強度に基づく必要エネルギー量をかけることで求められます。通常の仕事の人では、標準体重に25~30k㎈をかけたあたりが必要エネルギーとなり、それからさらに低く設定することで減量効果が得られることになります。

 外来で行う、通常の日常生活での食事療法では、こうした減食療法として1200~1800k㎈の範囲で摂取エネルギーの設定を行うのが普通です。減量のために入院した場合には、医師の管理下で、さらに低いエネルギーでの食事療法を行うこともあります。

 とくに肥満の程度が強い場合は、超低エネルギー食療法(VLCD)と呼ばれる、1日に200~600k㎈しか摂取しない半飢餓(はんきが)療法を行うこともあります。

②栄養素の配分

 摂取エネルギーを抑えるためには、3大栄養素である糖質(炭水化物)、蛋白質、脂肪、およびビタミン、ミネラルについての適切な配分が必要です。

 糖質は制限しすぎると、体の蛋白質や脂肪からエネルギーが急激に動員されるため、体蛋白質の減少やケトン体が血液中に増えることがあります。そこで、糖質は1日に100g以上とるようにします。ごはんなら軽く1膳くらいです。

 逆に、糖質を過剰にとると、体のなかで脂肪になるので注意しましょう。過剰の糖質の約3割が脂肪として蓄積します。

蛋白質は、内臓、筋肉などの蛋白質でできている活性組織の萎縮を防ぐために、標準体重1㎏あたり1.0~1.2gの摂取が必要です。

 脂肪については、ビタミンA・D・E・Kなどの脂溶性ビタミンは脂肪といっしょに吸収されるので、1日に20gくらいの摂取が必要です。しかし、蛋白質食品を必要量とっていれば脂肪も十分に含まれているので、高脂肪食品をとる必要はありません。

 ビタミン、ミネラルの不足は体の機能異常、疲労感を起こすので、必要量をとらなければなりません。そのためには、緑黄色野菜、豆類、乳製品を十分に摂取するとよいでしょう。

 ダイエット中は、水溶性ビタミンの補給のために総合ビタミン剤を併用するのもひとつの方法です。また、便通を整えるために食物繊維を十分に摂取します。

③食習慣の改善

 食事の量・内容だけではなく、食習慣を正しく改善する必要があります。1日3食の規則的な食事、かため食い・早食いの是正、1日の摂取量の半分以上を夜にとる夜食症候群の改善などです。

●運動療法

①運動療法の目的と効果

 肥満の治療として運動療法を行うことのねらいの第1は、体脂肪を減少させることです。運動を行うと、脂肪組織に蓄積されていた中性脂肪が分解し、そこで生じた遊離脂肪酸が筋肉で効率よく利用され、体脂肪が減少することになります。

 さらに、合併症を起こしやすい内臓脂肪型肥満にとって、運動はとりわけ効果があります。内臓脂肪は皮下脂肪に比べて、運動によって燃焼しやすいからです。

 運動療法の第2の目的は、太りにくい体質をつくることです。運動によって、生命活動に最低限必要なエネルギーである安静時の基礎代謝が上昇します。

 また、運動によりインスリンのはたらきがよくなり、糖尿病になりにくくなります。インスリンのはたらきがよくなることで、インスリンの分泌量が下がるので、インスリンによる体脂肪蓄積作用を軽くすることができます。さらに運動は、脂肪合成酵素のはたらきを抑えることで脂肪をたまりにくくします。

 運動には、そのほかにも次のような効果があります。

・心肺機能の増強と筋力の増強により、体力と運動能力を向上します。

・骨のカルシウムを保持し、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)を予防します。

脂質異常症高血圧を改善し、動脈硬化を予防します。

・運動による爽快感とストレス解消が得られ、ストレスによる過食を防ぎます。

 なお、狭心症(きょうしんしょう)や下肢の関節障害などがある場合は、運動を制限あるいは禁止したほうがよい場合もあります。疑わしい場合は、運動療法を始めるにあたってメディカルチェックを行って、主治医と相談することが必要です。

②運動療法の実際

 運動療法によるエネルギーの消費自体は、それほど大きなものではありません。適度な運動は食欲を増進するため、食事療法を同時に行わないとかえって体重増加を招いてしまうことも少なくありません。

 いろいろな運動の消費エネルギーは、糖尿病の運動療法のところ(表14)に示しましたが、体脂肪を減らすためには運動による消費エネルギーを、1日200~300k㎈程度とするのがよいでしょう。歩行(ウォーキング)では1時間くらいです。

 先ほど述べた運動による体質改善作用は3日以内に低下するため、運動は週に3回以上、1日合計30~60分行うのが望ましいと考えられます。

 運動の強さは、最大限に体力を使った時の50%前後の強さがよいとされています。脈拍数でいうと1分あたり110~130になるくらいの運動で、早足での歩行などがこれに相当します。しかし、運動習慣がない場合に、いきなり長時間早足で歩いたりすると、(ひざ)や足などを傷めることが多いので、徐々に運動を強くしていき、時間を延ばすようにします。

 運動の時間がうまくとれない場合は、通勤で歩いたり、なるべく階段を使うなどの工夫で運動量を増やすようにします。歩数計をつけて1日に7000歩以上を目標にするのもよい方法です。

 運動の種類には、歩行、ジョギング、自転車、水泳など全身を使う有酸素運動と、筋力トレーニングなどの無酸素運動がありますが、有酸素運動は脂肪を燃焼させる効果があり、体脂肪減少のためには無酸素運動より適しています。有酸素運動のなかでも、自転車、水泳、水中歩行などは、膝と足への負担が少なく肥満者に適しています。

 運動をする時間はいつでもよく、空腹時のほうが体脂肪が分解しやすい利点があります。しかし、糖尿病の人でインスリンや糖尿病ののみ薬を服用している場合は、低血糖の用心のため、運動はなるべく食後1~2時間に行うようにします。

病気に気づいたらどうする

 どんな病気でも、早期発見、早期対策が重要です。肥満に気づいたら次のようなことに気をつけましょう。

●摂取エネルギーの計算を覚える

 エネルギー計算は一見難しそうですが、慣れればそれほど難しくないことがわかります。『糖尿病食事療法のための食品交換表』(日本糖尿病学会編、文光堂発行)は減量のためにも役立ちます。自分が実際に摂取エネルギーを理解し、エネルギー制限を正しく実行できるようにします。

●食事のポイントをおさえる

 食事の量だけではなく、その質も問題です。肉類には蛋白質だけではなく脂肪も多く含まれているので控えます。ハンバーグ、フライドチキン、揚げ物なども控えます。

 一方、野菜は低エネルギーでビタミン、ミネラルや食物繊維を多く含むので、たっぷり食べます。ただし、ノンオイルのドレッシングはよいのですが、油を含んだドレッシングやマヨネーズは高エネルギーなので使わないようにします。

 果物はビタミン、ミネラルや食物繊維を多く含みますが、含まれる果糖が脂肪に変わりやすいので、食べすぎないようにします。

 調理あるいは盛りつけにも工夫が必要です。調理の際には、油や調味料は計量する習慣をつけ、おかずはなるべく薄味にします。味つけが濃いとごはんの食べすぎにつながります。

 調理方法は、「(いた)める」「揚げる」よりも「ゆでる」「焼く」にしたほうが、エネルギー量が少なくなります。また、調理器具として、テフロン加工のフライパンを使うと油の量を減らすことができます。

 盛りつけは、必ず1人分づつ分けて盛ります。大皿などからとるようにすると、自分が食べた分量がわからなくなり、人につられて食べすぎになりやすいのです。また、茶わんを小ぶりにして皿数を多くするといった工夫をすることで食事の充実感が得られ、食べすぎを防ぐことができます。

●食べ方の工夫をする

 早食い、ドカ食いにならないように、ゆったりとした気分で食事を楽しみます。

 食べる順番としては、まずスープなどの汁物、野菜類など、低エネルギーのものから食べ始めます。よくかんで、味わいながらゆっくりと食べるように心がけます。ゆっくり食べることにより満足感も得られ、過食を避けることができます。

 また、主婦の場合、残り物を自分で食べてしまわずに、冷蔵庫にしまうなどします。

●間食、清涼飲料水は慎む

 食間にだらだら食べる習慣を改めます。間食で食べるスナック菓子、せんべいなどは炭水化物や脂肪が多く高エネルギーなので、そうしたものを手の届くところに置かないようにします。

 また、コーラ、ジュースのような清涼飲料水は糖質を多く含むのでとりすぎないようにして、なるべくお茶や水にします。

 なお、最近「カロリーオフ」「低カロリー」の飲料が普及してきていますが、これらは100mlあたり20k㎈以下であれば表示できるため、大量に飲用すれば肥満の原因となります。「カロリーゼロ」は100mlあたり5k㎈未満と少ないですが、含まれている代用甘味料の害が完全にないとはいい切れないので、大量の飲用は控えたほうがよいでしょう。

 間食はしないことが原則ですが、どうしても空腹になった場合は、コンソメスープなどの温かい飲み物をゆっくり味わって飲むか、ところてん、コンニャク、きのこ、トマトなどの低エネルギーの食品をとりましょう。

●外食、ファストフードに注意する

 外食やファストフードは一般的にエネルギーが高く、脂肪、炭水化物が過剰で野菜が足りません。一部を食べ残し、サラダを追加するなどの工夫が必要です。食事はなるべく家でとるようにして、外食の回数を少なくするようにします。

●アルコール摂取に注意する

 アルコールは高エネルギーで肥満や脂肪肝を助長するので、できれば避けます。また、自制心がゆるんで食欲が亢進(こうしん)する点でも注意が必要です。つまみには低エネルギーのものを選びます。

●ストレスを食べること以外で解消する

 食べることでストレスを解消するのは、肥満の原因になることの多い生活習慣です。ストレスをためないようにし、趣味などの手段で解消するようにします。

●運動をする習慣をつける

 運動不足と肥満の関係はよく知られた事実です。運動不足は肥満の原因であるとともに、肥満が原因で体を動かすのがおっくうにもなるという結果でもあり、悪循環を形成します。

 現代人のライフスタイルはどうしても運動不足になりやすく、それによって太りやすい代謝状態になってしまいがちです。運動療法のところで述べたことを参考に、1日の決めた時間に自分でやりやすい運動をするようにします。日常生活のなかで、通勤の行き帰り、会社内の移動、仕事のための移動、買い物など、できるだけ歩く機会を増やす工夫も大切です。

●さまざまなダイエット法にとびつかない

 ちまたには、さまざまなダイエット法の情報があふれています。正しいものもありますが、誤ったダイエット法も多いので気をつける必要があります。

 たとえば、特定の食品(リンゴ、ヨーグルトなど)ばかり食べる方法がありますが、体に必要な栄養素が欠乏するため、貧血、肌荒れ、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)などの健康障害を起こしたり、体脂肪ではなく体の構成成分である蛋白質が減少したりします。

 また、体重減少効果があるとして、さまざまな健康食品や民間薬が通信販売やインターネットで売買されています。基本的に怪しいものには手を出さないのが賢明です。死亡者の出た中国のやせ薬のように重い副作用を起こすこともあります。健康食品の安全性・有効性の情報は、独立行政法人国立健康・栄養研究所のホームページ(http://hfnet.nih.go.jp/)に最新情報を含めてまとめられていますので、参照するとよいでしょう。

 これまでに述べてきたように、正しい知識のもとに食事療法・運動療法で徐々に体重を減らすのが、医学的にもすすめられる方法です。

粟田 卓也

出典:法研「六訂版 家庭医学大全科」
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