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考証学【こうしょうがく】

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

考証学
こうしょうがく
Kao-zheng-xue
中国,清代学風の一般的特色をさす語。実証できる根拠を儒家古典のなかに求めて立論しようとする学風,言い換えれば,考証という方法を重視する学究の傾向,を意味する。現代ならば,文献学 philologyに含まれよう。中国では「考据之学」と称したように,この「学」は学風の意味であって,現代的意味での学問ではない。,明の儒学が心,性に関する抽象的議論に流れたのに対して,清朝の経学はその傾向を排斥して,「実事求是」をモットーに,古義の考証を厳密にし,実証的な検討を重視した。これに伴って,史学音韻学,文字学などの学問も盛んになった。そこで,考証学といえば,清朝の経書の学問をさしていう代名詞のようになった。しかし,考証学の究極の目的は古聖賢の心を正しく理解しようとするものであったから,目的が方法を初めから規制してしまい (たとえば,仏典異端の書として研究資料には加えない) ,客観的方法にまでは発展しなかった。

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デジタル大辞泉

こうしょう‐がく〔カウシヨウ‐〕【考証学】
中国の明末におこり清代に盛行した学問。四書五経などの古典の解釈を、古書古文書などから証拠を引き、実証的に行うもの。顧炎武(こえんぶ)黄宗羲(こうそうぎ)らに始まり、日本では、江戸時代の狩谷棭斎(かりやえきさい)伊沢蘭軒(いざわらんけん)渋江抽斎(しぶえちゅうさい)らが影響を受けた。

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世界大百科事典 第2版

こうしょうがく【考証学】
中国,清代の学界主流をなした学問の方法。漢代の古典研究を尊重したことから漢学ともいう。宋代の思弁哲学である朱子学や,明代の観念論哲学である陽明学とはおよそ対照的に,広く資料を収集し,厳密な証拠にもとづいて実証的に学問を研究しようとするもので,〈実事求是〉がその信条であった。対象とする領域は,経学を中心に,文字学,音韻学,歴史学,地理学,金石学などきわめて広範にわたっている。 清代の学問の開祖となったのは,経学の方面では顧炎武,史学の方面では黄宗羲である。

出典:株式会社平凡社
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大辞林 第三版

こうしょうがく【考証学】
中国、明末におこり、清代に盛行した実証的・文献学的な学問。宋・明代の理学・心学に対して、漢代の訓詁を重視する古典の研究方法を継承・発展させたもの。清初の黄宗羲こうそうぎ・顧炎武こえんぶ、中期の戴震たいしん・段玉裁だんぎよくさい・王念孫おうねんそんらが代表的。江戸後期の皆川淇園きえん・太田錦城・松崎慊堂こうどう・狩谷掖斎えきさい・渋江抽斎しぶえちゆうさいなどに影響を与えた。

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日本大百科全書(ニッポニカ)

考証学
こうしょうがく
清朝(しんちょう)一代の儒学において中心をなしていた学問の称。考証とは客観的な証拠をあげて事実を明らかにすること、したがってそれは学問研究の一過程としていつの時代にもあり、清代にのみ限るものではない。ただその当時に「実事求是(じつじきゅうぜ)」(事実によって真理を明らかにする)をスローガンとして掲げ、自らを「考拠の学」と誇称する学問が盛行し、事実それにふさわしい著作の続出したことから、清儒の学を特定する称呼となったのである。ちなみに、歴代中国における儒学の特色をとらえて、「漢唐訓詁(くんこ)学」「宋明(そうみん)性理学」「清朝考証学」と称することが一般であるが、これは江戸時代中期の太田錦城(きんじょう)(『九経談』序)に発するものであるらしく、同時に清学を考証学とよぶこともこれに始まり、その後、中華民国初期の梁啓超(りょうけいちょう)(『清代学術概論』序)がこの語を使用したことによって定着したものと考えられる。[楠山春樹]

考証学の内容

考証学は、推進者自らが漢学と称しているように、宋明の性理学を空疎として退け、訓詁学(とくにその典型としての後漢(ごかん)の古文経学(こぶんけいがく))に復(かえ)るべきことをいう。しかしそれは単なる復古ではなく、要は経書を通して古聖賢の真意に迫ろうとするにあり、それには、古聖賢の世に近く、なおその真意を残存する漢代の経学を基盤とすべきである、というのである。そこで考証学は、まず古代言語のもつ意味を的確に把握する手段として、小学(文字(もんじ)学・音韻(おんいん)学)に通ずることが必須(ひっす)とされた。一方古代言語研究には、同じく古代の文献である諸子の書をも参考とすることが必要とされたが、それらは多年学習する人もなく放置されてきたため、文字の誤りが目だった。そこで諸本を校合して正確なテキストをつくる作業が行われ、ここに校勘の学が発達する。さらに経書と同時期もしくは先行する時期の文字を刻んだ金文石文にも関心が寄せられ、これを研究する金石学が盛行する。一方経書を徹底的に読解するためには、そこにみえる人名、地名、官職名から日月星辰(せいしん)の天体現象、動植物、器物に至るまで、それを正確に知らねばならず、そのための補助学として歴史、地理、典章制度、天文などの諸学が興起する。
 考証学とは、以上のような広範な学問を総称するものであって、もちろん中心は経書研究にあるが、その対象はかならずしも経書にのみ限るものではない。それだけに古聖賢の真意に迫るという本来の趣旨がときに忘却され、考証それ自体が目的化したきらいもなくはないようであるが、しかしその成果は、現今の学的批判に堪えうる精密さを備えている。[楠山春樹]

考証学の諸派と流れ

考証学は、明末清初の顧炎武(こえんぶ)が『日知録(にっちろく)』を著して考証の祖型を示し、門人閻若(えんじゃくきょ)が『古文尚書疏証(こぶんしょうしょそしょう)』を著して、伝統的な経書のなかに、実は4世紀につくられた偽書の混じっている事実を指摘したことに端を発する。しかしその最盛期は18世紀後半から19世紀前半にかけての乾隆(けんりゅう)・嘉慶(かけい)年間である。この時期の考証学には2系統があって、すなわち呉派(蘇州(そしゅう)学派)には恵棟(けいとう)(『易漢学』)、銭大(せんたいきん)(『十駕斎(じゅうがさい)養新録』)、王鳴盛(めいせい)(『十七史商(しょうかく)』)らがあり、皖(かん)派(安徽(あんき)学派)には戴震(たいしん)(『孟子(もうし)字義疏証(そしょう)』)、段玉裁(だんぎょくさい)(『説文解字注』)、王念孫(おうねんそん)(『読書雑志』『広雅疏証』)、王引之(おういんし)(『経伝釈詞』)らが輩出した。なお明末清初の黄宗羲(こうそうぎ)(『明儒学案』)の門流から出た万斯同(ばんしどう)、全祖望(ぜんそぼう)は史学を中心とする成果を示し、江藩(こうはん)(『国朝漢学師承記』)、阮元(げんげん)(『皇清経解』)は、当時の学問を集成して後世に伝える役割を果たしている。
 乾隆・嘉慶を過ぎると清儒の関心は後漢の古文経学から、さかのぼって前漢の今文(きんぶん)経学に移っていく。しかし今文経学はもともと訓詁学というよりも政治的色彩が濃厚であり、おりしも清末の動乱期に際会したこともあって、その主流は改革運動の理論的根拠をこれに求めることに傾いていった。清朝公羊(くよう)学がそれである。しかし考証学の伝統はなお孫詒譲(そんいじょう)、兪(ゆえつ)、王先謙(おうせんけん)らの学問に残り、中華民国以後におこる古典の科学的研究に引き継がれていった。[楠山春樹]
『内藤湖南著「経学」「史学及び文学」(『清朝史通論』所収・1944・弘文堂/『内藤湖南全集 第8巻』所収・1969・筑摩書房) ▽梁啓超著、小野和子訳『清代学術概論』(平凡社・東洋文庫)』

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精選版 日本国語大辞典

こうしょう‐がく カウショウ‥【考証学】
〘名〙
① 古文書などから証拠を求めて研究する学問。
② 中国、明末におこり清代に発展した学問。儒教の経書の研究で、古代言語や文字の学を基礎とし、その上に立って万事を実証的に検討することを目標とした。訓詁、文字、音韻の学から、輯佚、校勘の事業、歴史、地理、金石文の研究にまで発展し、中国古典に対する文献学的研究の基礎を築いた。黄宗羲(こうそうぎ)・顧炎武(こえんぶ)・王夫之らにはじまり、閻若璩(えんじゃくきょ)・恵棟(けいとう)・戴震(たいしん)・段玉裁(だんぎょくさい)・銭大昕(せんたいきん)・王念孫(おうねんそん)らをその推進者とする。その学風は、日本の江戸時代後半の儒学にも影響し、それは皆川淇園・渋江抽斎・太田錦城・松崎慊堂・狩谷棭斎らに著しい。

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旺文社世界史事典 三訂版

考証学
こうしょうがく
明末期〜清初期におこった経学の一派。古文献を客観的・実証的に解釈し,そこから納的に結論を出す研究法をとる
宋代以後学問が空疎に陥ったことの反省として,明末期に顧炎武・黄宗羲 (こうそうぎ) らにより実践の学問として唱えられ,清代中期恵棟 (けいとう) ・戴震 (たいしん) らにより大成された。この学派は歴史・地理・音韻・書誌など多くの分野で多大の成果をあげたが,清朝の思想弾圧が激化すると学者は実践から遠ざかり,古典の研究に埋没するようになった。

出典:旺文社世界史事典 三訂版
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