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研究者倫理【けんきゅうしゃりんり】

最新 心理学事典

けんきゅうしゃりんり
研究者倫理
researcher ethics
倫理ethicsとは人間同士のつながりを支える理のことであり,研究者倫理は,研究者が研究活動の実践において留意すべき行動の原理を意味する。近代社会においては,研究活動もまた対等な個人の間で生じる社会的行為の一種とみなされる。したがって個々の研究者は,学問に対してのみならず社会に対する責任と義務を自覚し,研究にかかわる人びととりわけ研究協力者の基本的人権を尊重しなければならない。心理学の研究では動物を被験体とする場合もあるが,その場合も過剰な苦痛を与えないなど,動物にも相応の配慮が望まれる。

 研究者倫理は,研究計画,データ収集,データ処理,結果の公表と続く研究プロセスの全体にかかわっている。研究計画の段階では,データ収集以降の段階も含めて研究協力者が不利益を被らず,負担が最小になるような事前の配慮が求められる。また,可能な限り協力者や協力者を含む集団が恩恵を被るような研究にする努力もなされなくてはならない。データ収集の段階においてとくに重視されるのは,研究の手順や目的,結果の公表の仕方,途中で協力を中止する権利などに関し事前に説明して研究協力の許可を得るインフォームド・コンセントinformed consentの手続きである。そうした説明の理解が難しいと考えられる子どもや知的障害者等を協力者とする場合,保護者らの代諾者から許可を得る。なお,社会心理学実験の一部のように,前もって真の研究目的を伝えることが難しい場合には,事後できるだけ早い時点で事後説明に努めるデブリーフィングの機会を設け,研究の全体像を改めて正確に研究協力者に説明しなければならない。

 得られたデータを分析し,その結果を公表する段階においては,研究協力者やその関係者のプライバシーを守る努力を怠ってはならない。得られた情報を数値的に処理したり,回答において個人名などの固有名が現われている部分は仮名に変えるなどの配慮は,データを扱う際に最低限必要とされる。その上で,研究協力者の個人情報が直接の研究者以外の目に触れないよう,厳重にデータの管理を行なう。研究結果を公表する段階においても,協力者のプライバシーが侵害されないように注意しなければならないが,加えてこの段階では,他の研究者との関係における倫理も問題になる。他人の著作からの剽窃やデータの捏造を行なわないこと,二重投稿を行なわないことなどはその一部である。

 近年では多くの心理学関係の学会において,倫理綱領や倫理規定など,倫理の原則や個別の配慮等を明文化した倫理基準ethical standardが定められている。それらは罰則規定を伴う法令とは異なり,研究活動を外部から一方的に規制するものではない。基本的には個々の研究者の良識に基づいて,具体的な研究場面においてなされるべき配慮を自律的に考えてもらうための参照枠として有効活用すべきものである。ただ,こうした倫理は研究者本人の判断のみに頼るのではなく,規律を遵守するコンプライアンスcomplianceをより確実にする組織的な取り組みも求められる。たとえば欧米では,各研究機関に倫理委員会institutional review boardが設けられ,研究機関もまた研究に責任を負うシステムが確立している。わが国でも,同様のシステムは導入される機運にあり,研究計画の段階で委員会のチェックを受けることが義務づける機関もある。しかし,すべての組織に倫理委員会があるわけではないし,委員会の許可を得ることのみが目的化した場合,具体的な場面における研究者の責任意識が希薄になるとしたら本末転倒である。研究者個人が,そうしたシステムを利用しながら自律的に倫理的な行為を選択する姿勢が最も重要であろう。
〔能智 正博〕

出典:最新 心理学事典
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