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概念【がいねん】

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

概念
がいねん
conceptus; Begriff; concept
一般にAの概念といえばAについての経験的事実内容ではなく,Aに関する論理的,言語的意味内容をさす。概念思惟の発生は古くギリシア,中国,インドの哲学にみられ,ことにギリシアのソクラテスの帰納法は普遍的概念規定導出の試みとみることができる。これを受継いだプラトンやアリストテレスの普遍的価値や普遍的本質としてのイデアやエイドス (→形相 ) 探究についても同様である。経験論における概念は,感覚的個別的表象の共通内容を反省的に抽象した結果として得られる。この抽象された内容はいわば事物の本質的特徴であるが,論理学では概念の内包と呼ばれ,それの適用される存在者の範囲を概念の外延という。概念は通常言語表象であり,この言語的表現を名辞という。複数の概念間の関係から判断が成立し,複数の判断の関係として推理が成立する。概念の成立に関して,理性論はこれを理性または悟性の概念に基づく認識 (概念認識) のみを真の認識とする。カントの概念は直観の多様な必然的総合的統一としての純粋悟性概念 (範疇) と呼ばれ,悟性が先天的に所有する思惟形式である。ヘーゲルの概念は,いわゆる形式論理学とは逆に,有から絶対的理念へと具体化することによって普遍性を得る。デューイは概念を生活経験の発展に伴いつつ変化し,これを推進する道具であるとする (概念道具説) 。概念の実在性は古くから論議の的となり,中世の普遍論争はその著しい例で,アベラールの概念論はこれを調停する学説とされる。概念および命題の意味を論理的に明晰なものとすることを哲学の課題とする,現代の論理実証主義も,唯名論に傾きつつも,経験的所与のみを実在とする立場からは去っている。なお立場によっては概念,観念理念表象が相互に区別されない場合もあるが,基本的には観念はイデー (理念) として概念と意義を異にし,表象は抽象的対象を表わす概念に対して具体的直観的対象を表わす。

出典:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
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デジタル大辞泉

がい‐ねん【概念】
物事の概括的な意味内容。「概念をつかむ」「文学という概念から外れる」
concept》形式論理学で、事物の本質をとらえる思考の形式。個々に共通な特徴が抽象によって抽出され、それ以外の性質は捨象されて構成される。内包と外延をもち、言語によって表される。

出典:小学館
監修:松村明
編集委員:池上秋彦、金田弘、杉崎一雄、鈴木丹士郎、中嶋尚、林巨樹、飛田良文
編集協力:田中牧郎、曽根脩
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世界大百科事典 第2版

がいねん【概念】
概念に相当する現代西欧語(英語,フランス語concept,ドイツ語Begriff)の語源が〈包括する〉〈把握する〉等を意味することからも明らかなように,概念とは,個々の対象,いわゆる個物(個体)よりも複数の個物を包括的,概括的に捕捉する,人間,広くは生物体の対象把握の一根本的形式とその成果をいう。観念,思念,想念等も同類語と考えられ,また,たとえば〈犬〉という概念が単数,複数の犬の心象イメージを想い起こさせることなどもあって,概念は心象,イメージも合わせて意味し,あるいはそれらと同一視されることがまれでない。

出典:株式会社平凡社
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大辞林 第三版

がいねん【概念】
ある事物の概括的で大まかな意味内容。
〘哲〙 〔 concept; ドイツ Begriff〕 事物が思考によって捉えられたり表現される時の思考内容や表象、またその言語表現(名辞)の意味内容。
形式論理学では、個々の事物の抽象によって把握される一般的性質を指し、内包(意味内容)と外延(事物の集合)から構成される。
経験論・心理学では、経験されたさまざまな観念内容を抽象化して概括する表象。
合理論・観念論では、人間の経験から独立した概念(先天的概念・イデアなど)の存在を認め、これによって初めて個別的経験も成り立つとする。 〔西周にしあまね「致知啓蒙」(1874年)にドイツ語 Begriff の訳語として載る〕 → 観念(補説欄)

出典:三省堂
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日本大百科全書(ニッポニカ)

概念
がいねん
conceptiラテン語
concept 英語 フランス語
Begriffドイツ語
特定の個人のことを考えるときには、その人の顔や声などが浮かんでくるように思われることもある。これに対して、人間一般を考えるときには、この一般の顔とか声とかいったものを思い浮かべることはむずかしいように思われる。そこで、伝統的論理学の教科書のなかには、個々の物について、知覚・記憶に現れる表象とは別に、一般的なものを考えるときに心のなかに生ずるものを「概念」とよび、これが判断の基本要素となる、としているものもある。だが、心のなかでおこる事柄については、個人差があると思われるので、これをもとに客観的な議論を展開するのはむずかしいことである。伝統的論理学でいう概念は、むしろ、普通名詞のようなものだと考えたほうが理解しやすい。普通名詞は、一般に複数の個物に当てはまる。たとえば、世界には何十億の個人がいるが、このすべてに対して「人間」という普通名詞、つまり概念が当てはまるのである。しかし、特定の個物についての概念を考えることもできる。たとえば、夜空に毎夜輝いていた光片を、観察を重ねた結果、それはみな特定の星の姿だったと決めたときには、その星をさす言語表現ができる。この表現は、その光片の観察のすべてに当てはまる概念だといえるのである。なお、新しく接した一つの事柄についての経験を重ね、その事柄によく通ずるようになることを、その事柄についての「概念をつかむ」といった言い方をすることもある。[吉田夏彦]

出典:小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)
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精選版 日本国語大辞典

がい‐ねん【概念】
〘名〙 (Begriff の訳語)
① 個々の事物から共通な性質を取り出してつくられた表象。内包(意味内容)と外延(適用範囲)とからなり、名辞と呼ばれる言語によって表わされる。
※致知啓蒙(1874)〈西周〉上「神てふ念は吾人如何にも其外形内質を、尽すへき由あらねと、唯宇宙の主宰として、万有の元始たるを、知る耳、〈略〉こは、度量観〔 quantity 〕に就て、概念〔 notion 〕といひ」
② 言葉で表わされる大まかな意味内容。
※追儺(1909)〈森鴎外〉「抒情詩と戯曲とでない限の作品は、何でも小説といふ概念の中に入れられてゐるやうだ」

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最新 心理学事典

がいねん
概念
concept(英・仏),Begriff(独)
本質的特徴により区別された事物の類,また類別する思考様式。本質的特徴とその連関を概念の内包connotation,intension,内包を共有する事物の集合を概念の外延denotationとよぶ。たとえば「少年」は,「年少」(おおむね5~6歳から11~12歳),「男性」という内包をもち,その外延は隣接する概念,「青年」などとを区切る境界をなす。概念は判断・推理と並ぶ古典論理学の基本機能であり,思考作用はこの階層をなす三次元に沿って進行するとされたため,思考心理学でも基本概念となった(矢田部達郎『思考心理学1概念と意味,2関係と推理』1948~49)。多様な経験をなんらかの基準により抽象化して類別し整序する機能を概念作用conceptionとよぶ。概念作用は分類,理解,予測,推論などの役割をもち(Eysenck,M.W.,1990),安定し秩序だった認知形成を可能にする。しかし,矢田部は,概念・判断・推理は相互循環的に規定し合うことから,古典論理学的な概念の定義は現実の多様な思考様式には必ずしも適合しないことを指摘した。心理学的には概念は過去経験の圧縮された表象に過ぎないとする見解もある。また,ウィトゲンシュタインWittgennstein,L.(1953)は,ゲームや椅子のような日常的概念も本質的属性によって定義するのは困難であることを示した。このような情勢を受けて,概念という硬い用語に対しより柔軟な「カテゴリー」がしだいに多用されるに至っている。

【概念とカテゴリー】 概念とその表象は,依然として認知科学における究極の問題の一つといってよいが,一般的には概念はカテゴリーとの関係で考えられている。カテゴリーcategoryは「類似したモノや事象の集まり」あるいは「なんらかの目的,有用性のためのモノや事象の集まり」と定義することができる。また,認知科学では「概念」をより広義にとらえ,「知識knowledge」とほぼ同義に使う場合も多い。例えば「幼児の生物概念」は「幼児のもつ生物についての知識」と同じ意味であり,カテゴリーよりもさらに広い。

【カテゴリーの役割】 われわれは何のためにカテゴリーを作るのだろうか。まず,異なる事例を「同じもの」としてまとめることで記憶の負荷を軽減するというのは,カテゴリーの重要な役割である。自分の家のポチ,隣の家のタロー,道で遭遇する多くのイヌたちを「イヌ」として認識せず,すべて別々の個体として互いを区別して認識し,そのために細かい特徴をすべて記憶しなければならないとしたらその負荷は膨大なものになる。

 カテゴリーのもう一つの役割は,カテゴリーが,実際には見たことがない,あるいはあまり知識がないモノの性質についての推論のベースとなることである。モノの性質を知るためにモノ一つひとつについて逐一属性を学習するのは効率が悪すぎる。人は実際にはあるモノに○○という属性があることを知ると,それを帰納的に一般化して他のモノもその属性をもつと推論し,そのことによって概念を構築していく。ただし,帰納的推論をする場合,特定の事例についての知識をどの範囲で一般化するかが重要である。わたしたちは同じカテゴリーを帰納的推論の基盤に用い,同じカテゴリーに属するモノはなんらかの意味ある属性を共有すると考える。それによって,あるモノがXという属性をもっているかどうか知らなくても,それと同じカテゴリーに属する別のモノがXをもっていることを学習すれば,当該のモノがXをもつことを推論する。ただし,当然のことながら,ここで,属性の帰納的推論の基盤になるカテゴリーとはどのようなカテゴリーなのかという問題が生ずる。これ自体が重要な問題であるが,そのためには,どのような種類のカテゴリーが心に存在するのか,という問題を考えなければならない。

【分類学的カテゴリーtaxonomic category】 有用性をもつカテゴリーとして最もよく知られているのは分類学的カテゴリーである。世界に存在するモノは存在論樹木ontological treeとよばれる,概念のまとまりによって階層性をもつ樹木構造に分類できる。存在論樹木は具象概念と抽象概念に分岐し,具象概念の下位で自然物と人工物に分岐し,自然物の下位でさらに生き物とそれ以外,生き物がさらに動物と植物に分岐する。階層構造の中で最もよく使われ,有用性が高いのは基礎レベルbasic levelとよばれるカテゴリーで,たとえば「イヌ」「ネコ」「リンゴ」「イス」などは基礎レベルである。このレベルは,カテゴリーにおける成員(モノや事象)間の類似性が最大になり,隣接するカテゴリー成員との類似性が十分に低くなるので,ロッシュRosch,E.は「世界が自然に自らを分割している」カテゴリーであると言った。基礎レベルカテゴリーはまた,文化・言語をまたいで最も普遍性が高く,子どもが最も早くにそのラベルを覚えるカテゴリーである。上位レベルsuperordinate levelになるとカテゴリー成員の知覚的特徴が多岐にわたるようになり,知覚的類似性で成員を推測することは難しくなる。反対に下位レベルsubordinate level(リンゴの種類,ネコの種類など)は隣接するカテゴリーの成員の類似性に対しての弁別が難しくなる。

 分類学的カテゴリーは階層的にそれぞれの枝が分岐するノード(節)nodeにおいて,そのノードで対比されるカテゴリーと区別される属性が共有されると考えられ,樹木構造の下のレベルのカテゴリーはそのノードより上にあるノードの属性を受け継ぐと考えられている。

 上記の構造のため,同じカテゴリーの成員は,ほかの対比するカテゴリー成員と当該カテゴリー成員とを区別するうえで重要な属性を共有すると考えられる。よって,分類学的カテゴリー,とくに基礎レベルカテゴリーは属性の帰納的推論を最もよく支えるカテゴリーであるとされている。また,分類学的カテゴリーはどの言語でも慣習的なラベルをもっている。このため,子どもはラベルを頼りに,同じラベルを共有するモノ同士は重要な属性を共有すると考える。この思い込みによってモノ一つひとつについてその属性を逐一学習しなくても急速にモノの属性を学習し,概念を構築していくことができると考えられている。ただし,後に述べるように属性を帰納的推論によって学習するためにはある程度の先行知識をもち,それに制約されなければ意味ある推論はできないはずである。たとえばある特定の事例(たとえばウサギ)に見られる特徴(たとえば片方の耳が折れている)がほかのカテゴリー成員に一般化できる特徴なのか,あるいは,ある種類のウサギが多産であるという属性を一般化するのはその種類のウサギに限るのかウサギ一般なのか,あるいは見た目がウサギに似たハムスターなどにも一般化されるのか,という問題はある程度の知識がないと決定できない。このような問題を解決するには,ラベルを手がかりとしながらも先行知識との相互作用によって多様な処理過程を同時に発動しながら概念を発達させていくようなモデルを考えなければならない。

【連想カテゴリーと目的カテゴリー】 カテゴリーというと分類学的カテゴリーのみを考えがちであるが,人は連想関係に基づくカテゴリー(連想カテゴリーthematic category)や,用途・目的に基づいたカテゴリー(目的カテゴリーgoal directed category)も作る。概念発達の分野ではこれらのカテゴリーは子どもに特有の未成熟なカテゴリーとして扱われ,成人にとって規範的なカテゴリーは分類学的カテゴリーであると考えられてきた。連想カテゴリーから分類学的カテゴリーへの移行が概念の発達であると考えられたのである。しかし成人でも日常的に用途・目的に基づいたカテゴリーを作る。たとえば災害用品,ゴルフ用品,ペット用品などはその例で,これらのカテゴリーに含まれるモノは共通した属性をもつことによってではなく,災害時に必要なモノ,ペットのケアのために必要なモノという目的やテーマ性のみでまとめられているが,人(成人)が自分を取り巻く日常世界を整理するためには非常に重要なカテゴリーである。

 このように考えると連想関係・目的に基づいたカテゴリーと分類学的カテゴリーはそれほどはっきり境界をもつわけでない。たとえば「家具」「ペット」「食品」は概念研究や概念発達研究において分類学的カテゴリーとして扱われてきたが,その性質は目的に基づいたカテゴリーにずっと近い。したがって,これまでの分類学的カテゴリーのみが成人にとっての規範的カテゴリーであるという見方は考え直されるべきで,人は用途に応じて複数の仕方で世界を整理し,分類していてそれを柔軟に使い分けているのである。概念発達にとって大事なのも,分類学的カテゴリーを習得することのみではなく,用途に応じて自分を取り巻く文化の中でおとながしている複数の世界の整理の仕方を学び,おとなのように状況や目的に応じて柔軟に複数の基準でカテゴリーを作っていくことを学ぶことであると考えた方がよい。

【概念の意味の諸理論】 1960~70年代には,概念とは,これ以上分割できない意味素性で構成される特徴リストとして心の中に表現され,与えられた世界において一義的に真偽が決まる,という論理学の真理値に依拠した考え方が支配的であった。この特徴リスト理論は,表現が簡潔であり,計算機における記述がしやすいことも相まって,概念の意味の標準理論と考えられたが,人の概念を扱うには,後述のようなさまざまな問題がすぐに浮上した。概念をめぐる現在の諸理論,諸モデルは特徴リスト意味論の問題点を克服すべく提案されたものであるが,ここにおいて二つの研究の流れがあった。一つの流れは典型性理論,さらにその問題を克服するために提案された事例ベース理論と説明ベース理論である。もう一つの流れは概念と身体性の関係である。特徴リスト理論の根底には,概念や語の意味は,身体と切り離された抽象的な表象であるという考えがある。近年の概念研究者の一部はこの根本的な考え方を覆し,人の概念表象に身体がどのようにかかわっているかを明らかにする方向に向かっている。

【特徴リスト理論feature list theory】 特徴リスト理論は古典的意味理論ともよばれ,また,この理論を批判したフィルモアFillmore,C.J.の用語ではチェックリスト意味論ともよばれる。この理論は,論理学の意味論に依拠しており,概念は外延(カテゴリー成員)を決定するために必要にして十分な意味素性で構成される特徴リストとして心の中に表現されると考える。所与の世界では,このリスト(内包)によって,外延の真理値(つまりその世界における個々の事例が概念の外延に含まれるか否か)は例外なく決定できるとする。

 しかしひとたび日常的なカテゴリーについて具体的に考えると,ほとんどのモノについて外延を一義的に定義できるような素性リストを見つけ出すことができない。たとえば「トラ」をほかの大型ネコ科動物と区別する特徴は黒の縞模様だが,この縞模様のないアルビノのトラも「トラ」であるので,必要十分な素性リストには入れられない。しかし,「トラ」のすべての事例に共通する属性のみでは(その属性が何なのか,ほんとうにそれらがそれ以上分解可能な概念素性なのか自体も問題であるが),「トラ」と「ライオン」や「ヒョウ」などと区別ができなくなってしまう。第2の問題は,カテゴリー成員が曖昧性なく決まる概念も全体から見ればごく一部しか存在しないということである。たとえばフロアランプや絨毯は「家具」なのかそうでないのかは,同じ言語の話者の間でも一致を見ない。第3の問題は,特徴リスト理論では,概念の構造をまったく考えないことである。つまり,特徴リストによって事例の真偽が一義的に決まるので,外延カテゴリーに含まれる事例の中で明らかに良い(事例としてふさわしい)と感じられる事例,カテゴリー成員とはみなせるがあまり良い事例だと感じられない事例があることは考慮しない。カテゴリーの良い事例は典型prototype(プロトタイプ)とよばれ,プロトタイプを中心に周辺に向かうにつれてカテゴリー成員としての「良さ」が薄れていく,中心傾向central tendencyをもった連続的構造gradient structureを多くのカテゴリーがもっている。たとえば,「鳥」というカテゴリーにおいて,多くの人はカナリアやスズメ,ツバメは非常に鳥らしい鳥,つまり典型的な鳥であると思うが,ニワトリやペンギン,ダチョウは鳥であることを認めても,典型的な鳥であるとは思わない。「ツバメは鳥である」という文と「ペンギンは鳥である」という文の是非を判断するように求められると,前者の方が後者よりも速く判断できる。このような現象を特徴リストモデルでは説明できない。

【典型性理論と事例ベース理論】 前述の特徴リストモデルの問題を回避できる概念モデルとしてロッシュによって提唱され,1970年代後半から広く受け入れられてきたのが,典型性理論prototype theory(プロトタイプ理論)である。この理論では,前述のように,概念はプロトタイプを中心にした連続的構造をもつ心的表象と考える。個々の事例がその概念の成員に含まれるかどうかはプロトタイプからの類似度で決まる,と考える。語の指示対象となるカテゴリー成員は,プロトタイプのもつ特徴をすべてもつ必要はなく,より多くもつものがその語の指示対象としてより良いものとなり,プロトタイプとの特徴の重複が少ないものはカテゴリー成員に含まれるかどうかは曖昧になる。また,特徴自体も,必ずしも前述の特徴リストモデルのように,概念の原素的な(これ以上分けられない)ものである必要はない(したがって,トラの縞模様は典型性理論では立派に特徴になる)。

 典型性理論で問題になるのが,「典型的な事例」はどのように決まるのかということである。特定の事例にどれだけ遭遇するかという頻度やなじみ度では説明できない。たとえば「鳥」の場合,ヤマガラ(シジュウカラの仲間の野鳥)のように里に生息し,都市部に来ない野鳥はほとんどの人にとってなじみが薄いのに対し,ニワトリは日常的に非常になじみ深い。それにもかかわらず,人はニワトリは非典型的な鳥だと思い,ヤマガラは典型的な鳥だと思う。ロッシュは,特定の事例自体の頻度ではなく,その事例がカテゴリーのほかの成員とどのくらい家族類似性family resemblanceとしてたくさんの特徴を共有し,かつ,ほかのカテゴリーの成員とどれだけ類似性が低いか,ということで典型性が決まると主張した。「ヤマガラ」はカナリア,スズメ,ツバメと共有する特徴を多くもっているので「典型性が高い」と判断されるが,ニワトリは「鳥」カテゴリーの中心部にいる成員たちと特徴の共有が多くないため非典型的であると判断されるのである。このように,典型性理論では概念はカテゴリーの中心に近い成員の特徴を平均化した重み付けをされた特徴集合として表象されていると考えられている。この場合,プロトタイプは必ずしも具体的な事例とは一致しない。「鳥」カテゴリーの場合はこの考えである程度うまくいく。しかし「家具」カテゴリーのように,プロトタイプとされる成員(机,イス,ベッドなど)が知覚的にも機能的にも多岐に及ぶ場合,平均化された特徴集合としてプロトタイプを想定するのは難しくなり,特定の事例がプロトタイプとなっている可能性も考えられる。平均化された特徴集合をプロトタイプにすることが困難なことから,事例ベース理論exemplar based theoryが提唱された。この理論では,人はカテゴリー成員の個々の事例を表象しており,抽象化された特徴ではなく個々の成員との類似性でカテゴリー成員が判断されるとする。しかし,典型性理論にしろ,事例ベース理論にしろ,基準で類似性を決めているのかということ,さらに,そもそもプロトタイプあるいは個々の事例のどのくらいの抽象度で表象されているのかということが本質的な問題として残る。

【説明ベース理論theory based theory】 前述のように典型性理論,事例ベース理論はともに人がどのようにしてプロトタイプなり事例なりとの類似性を決めるのかが鍵になる。典型性理論,事例ベース理論の枠組みで類似性を計算するさまざまなモデルが提唱されたが,これらは主に知覚ベース,あるいは事前に決められた特徴ベースで類似性を計算するものであった。いわば,カテゴリー成員を決定する類似性は文脈とは独立に存在し,機械的なアルゴリズムで類似性が決定できる前提で考えられていた。しかしここで,文脈独立の類似性が存在するかということ自体が問題になる。人はいろいろな基準でいろいろな関係を「類似」とみなし,類似性は文脈に大きく影響されるからである。たとえばイギリス,アメリカ,フランス,ドイツという集合の中でのイギリスとアメリカの類似性は低いと判断されるが,集合がイギリス,アメリカ,オーストラリア,サウスアフリカという集合の中では,前者の場合よりずっと高くなる。類似性が必ずしもカテゴリー成員の決定に寄与しない場合もある。たとえば直径が3㎝の未知の丸い物体を見せられ,これが500円硬貨とピザのどちらに似ているかと聞かれたときには人は500円硬貨により似ていると判断するが,その物体が500円硬貨なのかピザなのかと聞かれると,ピザであろうと答える。3㎝のピザは典型的ではないにしろその大きさで作ることは不可能ではなく,500円硬貨の大きさは2.65㎝で,1㎜の逸脱もないことを人は知っているからである。このような現象は,属性の共有の度合いで類似性を計算する典型性理論や事例ベース理論におけるモデルでは説明が困難になる。つまり,人は既存の知識を用いて文脈に応じて異なる類似性を用いてカテゴリー成員を決めているのであり,知識がカテゴリー形成やカテゴリー成員に大きな役割を果たすという見方が説明ベース理論である。説明ベース理論は特徴リスト理論,典型性理論のように人が概念の意味表象として命題的な特徴リストをもつこと自体を否定するものではない。ただし,それらの理論での特徴リストは特徴同士の関係性が考慮されておらず,特徴が独立に存在するという前提であった。説明ベース理論では,説明枠組みによって特徴同士が有機的・因果的に関係づけられていると考える。この点もそれ以前の理論と異なる。

 以上,特徴リストモデルの欠点を克服すべく典型性理論,事例ベース理論,説明ベース理論が提唱されてきたが,これらの理論のどれが最も優れているかを決めることは困難である。既存の知識がカテゴリー成員決定の際に用いられるのは自然なことであるが,この理論の枠組みでなんらかの数理モデルを作ることは非常に困難であり,結局人はどのような知識をもち,どのような状況で使うか,という問題に帰着してしまう。また,乳幼児も成人も事前知識がほとんどなくても知覚類似性をベースにしてカテゴリーを形成する。この場合,学習の当初は事例ベースにならざるをえないが,事例が増えるに従ってカテゴリーの中心が形成され,プロトタイプが形成される。ただし,個々の事例が記憶から消失するわけではなく,一つの事例との類似性でカテゴリー成員が決まる場合もある。結局これらの理論は排他的なものではなく,相互補完的なものであると考えた方がよい。

【概念の身体性】 特徴ベース理論のように特徴リストで概念を表現しようとする場合,想定する概念表象は身体感覚から分離した,命題的かつ抽象的なものになる。それに対して,概念表象はイメージで,密接に身体感覚を伴っており,ある概念を想起する際に脳は身体的なシミュレーションを行なっているという考え方が提案された。これは命題-イメージ論争として取り上げられ,注目されたが,近年は身体性認知enbodied cognitionの問題としてさらに脚光を浴びるようになった。近年の脳機能イメージング研究ではこの考えを支持する結果が多く報告されている。たとえば色の名前を想起するだけで色を処理するV4野の賦活が確認され,舐める,蹴る,触るなどの身体の部分で行なう動作の語を読むと意味処理を行なう領野と同時に語の意味に対応する感覚運動野の賦活が認められるという。しかし,概念処理に身体シミュレーションを伴うこと自体は,心が命題的な特徴をもっていることを排除するものではない。近年の脳科学の成果は,概念は脳のある部位にまとまって存在しているのではなく,脳全体に分散的に表現されていることを示しているが,ネットワークのある部分では個別の経験から抽象化された情報が表現されていることはあり得ることである。しかし,いずれにせよ,身体性認知の理論的枠組みの中での情報表現がイメージベースのアナログ的表象なのか,一部は命題的なものなのかということはわかっていないし,そもそもイメージとは何なのかということは未だに大きな問題として残されている。

【概念と語の意味】 従来の概念研究では単語が概念の単位として扱われてきた。人は「イス」という語に対応する「イス」という概念をもつ,と考えられてきたのである。しかし,ことばが概念の単位だとすると大きな問題が生じる。言語相対仮説の主張するように,ことばによる世界の切り分け方は言語によって大きく異なる。

 言語相対仮説に関するさまざまな研究は,ことばによってわれわれの概念が影響されることを示唆している。一方,ことばによる概念の切り分けが言語によって大きく異なっても普遍的な共通性があることも示されている。たとえばオランダ語は日本語の「歩く」に対応する単語はもたず,「歩く」に対応するアクションをスピードと様態によって四つの語で言い分けている。しかし,ランニングマシンでゆっくり歩いているスピードからシステマティックにスピードを上げていき,それぞれのスピードでの動作の名前を聞いていくと,英語話者,スペイン語話者,オランダ語話者すべてが,日本語話者が「歩く」から「走る」に切り替えたまったく同じ所でそれぞれ動作の名前を切り替えていた。つまり,「歩く」と「走る」のような人のバイオロジカルモーションbiological motionの分節は言語に普遍的に存在するのである。これはことばを学習する以前の乳児がさまざまなバイオロジカルモーションを弁別することからも示唆される。

 このことは,人が言語や文化と独立に普遍的な概念をもちうるのかという問題とともに,「概念」の単位をはたして「単語」としてよいのかという問題を浮上させる。言語に応じて知覚あるいは概念領域のことばによる切り分けが異なるのに,言語普遍的な共通性があるのなら,記述すべき「概念」の単位を,「言語によってその意味が大きく食い違うことの多い単語」としてきた前提自体を見直すべきだという考えも最近では出てきている。 →意味論 →概念学習 →言語相対仮説 →心的イメージ →知識
〔今井 むつみ〕

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