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意思決定【いしけってい】

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

意思決定
いしけってい
decision making
一般には,ある目標達成のための諸手段を考察し,分析し,その一つを選択決定する人間の認知的活動をいう。企業戦略の策定から日常業務の遂行にいたるまで,ほとんどの活動に意思決定が必要とされるので,経営学の分野ではきわめて重要な概念である。オペレーションズ・リサーチなどにも深く関連している。

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流通用語辞典

意思決定
意思決定とは、狭義の解釈では、所定の行動の代替の中から、特定のひとつの代替案を選び出すこと。意思決定論で有名なH・A・サイモンは意思決定に対する広義の定義をしている。意思決定には問題状況の識別・発見(インテリジェンス)、行動の代替案の選択(デザイン)、特定の代替案の選択(チョイス)の3つの基本的段階がふくまれるとした。意思決定の種類意思決定には定型的意思決定と非定型的意思決定の2種類があるという2分類論と戦略的意思決定、管理的意思決定、業務的意思決定の3種類があるとする分類法がある。

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世界大百科事典 第2版

いしけってい【意思決定 decision making】
個人,家族などの小集団,あるいは企業や政府などの組織は,ときに難しい選択をしなければならない。こうした難しい選択を適切に実現するための一連の行為を意思決定と呼ぶ。選択の難しさはそれに伴う〈リスク〉の大きさや,考慮に入れるべき要因の複雑さによってもたらされる。意思決定は効果的でなくてはならないから,(1)合理的であること,(2)選択が安定していること,(3)状況が要求する一定の時間内に実現されること,などの,相互に絡み合っているがときには矛盾する性質によって評価される。

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大辞林 第三版

いしけってい【意思決定】
ある目標を達成するために、複数の選択可能な代替的手段の中から最適なものを選ぶこと。

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日本大百科全書(ニッポニカ)

意思決定
いしけってい
decision-making
特定の状況あるいは将来おこると考えられる状況からの要求や要請に対応して、目標を選択し、その時点における利用可能な一群の手段のなかから特定の手段を選択すること。決定作成ともいう。この概念は、人間の行動や社会現象を把握するための重要な概念として、精神分析学、心理学、経営学、経済学、政治学、社会学など社会科学のさまざまな分野で用いられているが、ここでは第二次世界大戦後とくに研究が進められた政治学および経営学における意思決定について概観してみる。[谷藤悦史]

政治学における意思決定

政治学においては、この概念は、政治行動を理解するための重要な概念として重視され、とりわけ、1950年代にアメリカに勃興(ぼっこう)した行動論政治学の一分野として登場した意思決定分析の鍵(キー)概念となった。公共経済学者のアンソニー・ダウンズなどは、政治的意思決定とそれ以外の分野の意思決定との間に相違を認めず、まったく同じものとしてとらえるが、一般に、(1)集合的で集団過程が支配的であること、(2)実際的・潜在的な制裁の行使を伴うという点に、政治的意思決定の特質があるといえよう。政治学における意思決定分析は、政策の決定、投票、政策の実施や執行上の決定、政党・圧力団体・官僚機構などの組織内部の手続的決定などを扱い、(1)意思決定がなされる政治的状況、(2)意思決定への参加者、(3)意思決定がなされる組織、(4)意思決定の過程、(5)意思決定によってもたらされる政治的結果などに焦点をあて、そのなかから意思決定についての普遍的に妥当する仮説や法則を定立するものである。[谷藤悦史]

経営学における意思決定

経営学で取り扱うのは、純粋の個人としての意思決定ではなく、企業などの組織における意思決定である。それは組織と管理における人間行動の基礎をなすものであり、とくに管理者にとって重要な職能である。企業の意思決定としては、価格、生産日程、在庫量などの通常業務を合理的に運営するための業務的意思決定、仕事や情報の流れ、資材や人材の開発など、企業が目的達成のために資源を効果的かつ効率的に活用するための管理的意思決定、財務戦略、多角化戦略など、企業の性格を左右するような戦略的意思決定などがある。
 意思決定論は、管理者の職能と管理のプロセスを意思決定に焦点をあてて考察するものであり、経営学のフレームワークを構築するための一つの有力な視点である。このような意思決定論に関する体系的な著作として宮川公男(ただお)著『意思決定論』がある。本書の分類に従って、次に意思決定論へのおもなアプローチの考え方や特徴をまとめてみよう。
(1)経済学的アプローチ 企業の意思決定についての体系的な議論を最初に展開したのは経済学であり、いわゆる「企業の理論」がそれである。この伝統的な理論に対する批判として多くの理論が展開されてきたが、その一つとして1951年にJ・ディーンによってマネジリアル・エコノミックスmanagerial economicsが提起された。マネジリアル・エコノミックスは現実の企業の意思決定のための規範的理論を志向するもので、企業システムにおける意思決定のための経済分析の体系といえるものである。そのおもな内容としては、意思決定の基本原理、企業の目標と利潤、競争的環境・需要・生産・費用などの分析、製品政策・価格政策など各種政策の分析、などが考えられる。
(2)経営科学的アプローチ 経営科学は、意思決定に対して数量的分析方法を応用しようとするものであり、OR(オペレーションズ・リサーチ)と同じと考えてよい。経営科学的アプローチの特徴は、モデルによるアプローチにある。現実の問題は、多くの要素が複雑な相互関係をもって絡み合っているため、そのままでは非常に理解しにくい。そこで、現実の問題を単純化したモデルをつくって、そのモデルによって答えを出し、それを現実の問題に適用する。こうしたアプローチがモデルによるアプローチである。主要なモデルとして、配分モデル、在庫モデル、待ち行列モデル、動的最適化モデル、シミュレーション・モデルなどがある。なお、経営科学的アプローチには、コンピュータの利用が不可欠である。
(3)決定理論的アプローチ 決定理論的アプローチは、将来の不確実性に対する意思決定を問題にするものである。不確実性の程度には、確定性、リスク、狭義の不確実性の三つが考えられる。確定性の場合とは、将来おこりうる状態がただ1通りしかないという場合である。この場合には、各行動案のなかで最善の結果をもたらす行動案を選択すればよい。リスクの場合とは、将来おこりうる状態についての確率分布がわかっている場合である。リスクの場合の意思決定原理としては、期待値原理、最尤(さいゆう)未来原理、要求水準原理、期待値・分散原理などがある。狭義の不確実性の場合とは、将来おこりうる状態について確率分布がまったくわかっていない場合である。この場合の意思決定原理としては、ラプラスの原理、マクシミン利益原理(またはミニマックス費用原理)、マクシマックス利益原理(またはミニミン費用原理)、ハービッツ原理、ミニマックス・リグレット原理などがある。
(4)システム分析的アプローチ システム分析的アプローチは、組織における高次のレベル、すなわち政策レベルの意思決定の問題に対して体系的な分析的アプローチを試みようとするものである。政策レベルの意思決定の問題は構造が複雑であり、明確になっていない部分が多い。したがってシステム分析的アプローチにおいては、意思決定の問題の構造を解明することに重点を置き、利用できる情報を組織化し、意思決定者がよりよい判断を下せるようにする。手段の検討のみでなく、目的の検討をも行うところに特徴がある。
(5)行動科学的アプローチ 行動科学的アプローチは、組織における意思決定と人間行動に関する諸問題を解明しようとするものである。ここでは、他のアプローチで欠落していた意思決定者の人間的側面とその置かれている組織的状況が重要な視点となり、パーソナリティーやリーダーシップの分析が必要となる。[野々山隆幸]
『J・C・チャールスワース編、田中靖政・武者小路公秀編訳『現代政治分析』(1967・岩波書店) ▽宮川公男著『意思決定の経済学』全2巻(1968、1969・丸善) ▽宮川公男著『オペレーションズ・リサーチ』(1970・春秋社) ▽A・ダウンズ著、古田精司監訳『民主主義の経済理論』(1980・成文堂) ▽宮川公男著『意思決定論――基礎とアプローチ』(2005・中央経済社)』

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最新 心理学事典

いしけってい
意思決定
decision making
問題解決に当たって,実行可能な行為の中から最適と思われるものを選択すること。行為選択ともいう。意思決定の心理学理論は大きく二つに分かれる。一つは,規範的意思決定理論であり,もう一つは記述的意思決定理論である。規範的意思決定理論で扱うモデルは,決定はかくあるべしという決定の手続きをモデル化するものである。記述的意思決定理論が扱うモデルは,実際の人間の決定行動をモデル化するものであり,記述モデルである。

【規範的意思決定理論normative decision theory】 規範的意思決定理論のモデル(以下,規範モデルと略記する)の代表的なものが,主観的期待効用モデルsubjective expected utility model(SEU)である。このモデルに従えば,個々の行動の望ましさは,その行動が引き起こす結果の効用によって測られる。ある行動が引き起こす結果が複数ある場合には,それぞれの結果の効用をその結果が生起する確率によって重み付けしたうえで平均を取った値がその行動の効用である。この行動の効用は,主観的確率分布による効用の期待値であり,主観的期待効用とよばれる。最適な行動とは,いくつかの選択肢の中でこの主観的期待効用が最も高いものである。規範モデルが,主観的期待効用モデル,あるいは期待効用最大化モデルmaximization of expected utility modelといわれることがあるのはこのためである。

 主観確率も効用も主観的な評価値であるにもかかわらず,なぜこれが規範モデルといわれるのであろうか。その理由は,この主観的期待効用理論が少数の公理から導かれるからである。すなわち,物事の確からしさや望ましさの判断が推移律(たとえばa=bかつb=cならば,a=cであるという法則)を満たすなどの前提を認めるならば,主観確率も効用も数学的確率で定義することができる。

【記述的意思決定理論descriptive decision theory】 実際のわれわれの意思決定は,規範モデルが示唆するようになされているとは到底考えられない。まず,主観確率や効用を数値化して(すなわち,測定して),そのうえで期待値(重み付き平均)を計算していない。人間の意識的思考は言語によるところが大きい。数式も形式的には言語の一部であるが,通常のケースでは,数式的展開は利用可能ではないし,利用可能であるとしても当座には間に合わない。したがって,期待値を計算せず,最も高い期待値を示す選択肢(代替案)を選ぶという期待効用最大化も満たさない。このため心理学的研究においては,実際の意思決定行動の記述モデルとしての規範モデルに対する批判が数多くあり,また,心理学的プロセスや事実を記述するモデルも数多く提案されている。

 サイモンSimon,H.A.が,人間が意思決定において必ずしも効用の最大化や決定の最適化をめざしていないことを指摘し,その代わりに,満足化satisfyingを提唱したことは有名である。これは限定合理性bounded rationalityとよばれる。規範モデルが想定しているのは,1回限りの決定において,選択肢の数と種類がすでに明示されており,それぞれの選択肢の後に起こる結果もわかっていて,数値的に評価できる状況であった。しかし,時間的に限られている実際の意思決定場面では,ベストを選ぶために多大な時間をかけるよりも,とりあえず,ベターを選ぶ決定をし,その決定が良い結果を生じなければその後の決定で修正すればよい。人間の実際の認知リソースを想定するときは,このような考え方が現実的である。

 なお,限定合理性を制約条件下の最適化追求と解する立場もある。制約条件は種々考えられるが,一つの制約条件は,意思決定主体(人間や動物)のもつ認知能力の限界である。この場合は,サイモンのいう満足化原理と同じと考えてもいいであろう。別の制約として,利用可能なデータを考えることができる。全知全能ではない人間の場合,すべてを知って決定を行なうことができないので,決定のために使う情報が手元にあるデータからの情報に限られるという意味では現実的であるが,そのデータの情報の利用の仕方(たとえばベイズの定理を用いる)やどの程度どのようなデータを得るかという決定を含めると規範モデルのもつ現実性のなさと同じ問題を抱えている。

【主観確率や効用の不都合】 主観確率や効用は数学的な概念である(公理システムから導かれる効用は,本来確率である。ただし,通常は適当な線形変換をして,すなわち,尺度を変えて使われる)。したがって,これらは数学的概念として整合的でなければならないが,実際の日常的に行なわれる心理的確率や効用の評価は整合的であるとはいえない。また,客観的なデータが利用できるときにも,心理的確率評価値はこのデータからベイズの定理などによって数理的に導かれる予測値からずれることが多い。この点を早くから指摘しているのは,トベルスキーTversky,A.やカーネマンKarhneman,D.である。彼らの指摘のうちでも次の3点はとくによく知られている。

1.典型性representativeness 代表性ともいう。典型性によって評価する例として,いわゆるリンダ問題Linda problemを取り上げる。これは,リンダという人物の特徴(たとえば,率直で聡明,反核運動にも参加)などを知ったうえで,リンダが銀行の出納係であるか,出納係でありフェミニスト運動に参加しているかのどちらが可能性が高いかと問う場合,多数が,後者だと答える現象である。すなわち,それぞれのカテゴリーにリンダがどれほど近いか,典型的であるか,その程度によって可能性が評価されている。当然のことながら,後者は前者の下位集合であり,論理的に考えればつねに前者の可能性の方が高い。別の例としては,統計学の基本的な定理の一つであるところの大数の法則に対して,小数の法則law of small numbersとよばれる問題がある。たとえば,5回硬貨を投げたとする。二つの結果,A:表,表,表,表,表,B:表,裏,表,裏,裏のうち一つが得られたことがわかっている。いずれが事実であったか問われると通常はBと答える人が圧倒的に多い。しかし,もし,硬貨を投げた結果が互いに独立でかつその確率は変化しないとすると,この二つの結果が起こった可能性は等しい。特別なパターンをもっている事象と,適当に表と裏がばらついて分布するという事象とに分けた場合,適当にばらついているという事象の方が数も多く典型的である。そのため,事象の確率がその概念の典型性の程度によって影響されたと考えられる。小数の法則というのは,大数であれば,表の確率は0.5に近づくが小数ではその限りではないということからくるらしいが,本質的にはこの間違いは大数の法則には関係がない。

2.利用可能性availability この性質を説明するための有名な設問は次のとおりである。「英単語において,最初にrが来る単語と3番目にrがある単語ではどちらが多いか?」。通常の答えは,最初にrが来る単語が多いというものであろう。しかし,実際に辞書で調べてみると3番目にrが来る単語の方が多い。事象の確率を問う場合,想起できるケースをカウントする方略を取ると,想起できるケース,すなわち,確率評価者に利用可能なケースの数は前者が多いことが理由である。

3.調整と係留adjustment and anchoring 確率評価(割合の評価を含む)の際に,判断のよりどころとなる数値が事前に与えられるとき,その値に影響されることをいう。規範モデルが,経済学で応用されるとき,当然のことながら,金額は額面そのものの価値と同じではないことは認識されている。金額の効用は効用関数で評価されるべきであり,これは線形ではなく,一般に非線形である。ただし,経済学の応用の多くの場合,効用関数は状況によって変わらないとされる。しかし,実際場面での効用の評価は状況によって左右される。同じ金額でもそれが損失とみなされる場合,利益だとみなされる場合,あまり労力をかけることなく手に入れた場合,本来の目的と異なる支出の場合等々で容易に異なる効用値を取る。これを根拠とし,規範モデルに対する批判の理由とされることがある。

【プロスペクト理論prospect theory】 トベルスキーやカーネマンは,規範モデルが適切ではないとし,それに従わない事象を統一的に説明しようとして,プロスペクト理論を提唱した。たとえば,意思決定者にとって,状況によって効用が変化することを考慮して,効用の代わりに,価値関数value functionという用語を用いる。また,主観確率も意思決定状況によって決定に及ぼす影響が異なるため,さらに確率を修正する加重関数を導入する。たとえば,金額の価値関数は,損失分岐点を参照点として,損失は凹の関数であり,利益は凸の関数であるとされる。加重関数は,確実なものに規範モデルが予測する以上の価値を見いだすことの説明(確実性効果)などのために用いられる。

 繰り返しになるが,主観確率は数学的確率であり,互いに背反な事象において,どちらかが起こる確率はそれぞれの確率の和である。これは当然のように見えるが,実際の確率評価においてこの法則をあらゆる組み合わせにおいて成立させるのは難しい。ファジィ測度(ショケ積分。すなわちファジィ積分の一手法)を利用して,この加法性を緩め,より一般的に人間の意思決定を叙述するための理論が累積プロスペクト理論cumulative prospect theoryである。

【ヒューリスティックスheuristics】 規範モデルが指示する決定の方略自体は,必ずしも日常的な決定を描写しているわけではない。また,規範モデルを合理的なものとして受け入れるとしても,行動の選択には,それが引き起こす結果をリストアップし,それぞれの結果の効用を評価する必要がある。それぞれの結果は数多くの属性をもっており,それらの属性をここに評価し,それらの相互作用を加味しつつ総合して結果の効用を評価するのは不可能に近い。規範モデルを実践的なモデルとして使うためには,なんらかの簡便化が必要である。完璧ではないが,ある程度正しい答を得ることのできる実践的な方法をヒューリスティックスとよぶ。たとえば,それぞれの効用の重み付き加算点を考えることは,最も単純な総合方式である。しかし,属性の効用はもともと加算的ではなく,総合された加算点が真の効用と一致しないことも多い。属性の効用が線形的に表現されることを(属性の)効用独立というが,効用独立が成立する条件は現実的ではないことが多い。因子分析などを利用して,属性の直交化を行なった後に加算するなどの工夫が必要であろう。効用の評価と選択確率を結びつけるモデルとしては,以下のようなものがある。

1.BTLモデルBradley-Terry-Luce model BTLモデルは,個々の選択肢の効用の評価から選択確率を導く有名なモデルである。このモデルは,選択される確率がそれぞれの効用に比例するという単純なモデルであるが,元々は実際の意思決定のモデルとして提案された記述モデルである。

2.属性消去モデル(EBAモデルelimination by aspects model) 現実の意思決定はある瞬間に起こるものではなく,ある程度の時間の枠内で時系列的に行なわれる。EBAモデルは時系列的なモデルである。たとえば,複数の商品から一つ選ぶとする。まず考えつくある商品の属性(たとえば金額)を選び,その属性において望ましい商品のみを残す。EBAモデルでは,重要な属性として思いつく確率が,それぞれの効用に比例するとされる。それでもまだ複数の選択肢が残っているならば,別の属性を選ぶ。たとえば,その商品の色について,望ましいもののみ残す。このようなプロセスを繰り返し,一つに絞られたときに決定が終わる。

3.後悔の理論 人間の意思決定が,意思決定時の効用評価によるのではなく,将来のある時点を想定し,その場での後悔を評価し,その後悔を最も小さくするような決定の仕方をする。効用の直接的評価値そのものではなく,将来の時点から見て後悔するであろうというふうに複雑に変形された形で決定に影響する。

4.高速・倹約ヒューリスティックスfast and furgal heuristics ギゲレンツァGigerenzer,G.らのグループが提唱する単純なルールの集まりである。人間が現実に行なっていることは,進化的な裏づけをもち,現実への適応のため瞬時に決定するために有効なものであるとされる。

【ベイズ的モデルの復興】 ここまでの記述においては,規範モデルが実際の意思決定行動の記述モデルとして役に立たないという主張を紹介した。しかし,この主張に対する批判もある。この批判の正当性を吟味するためには,規範モデルのベイズ的アプローチの原点に戻る必要がある。ベイズ統計学の創始者たち,たとえばド・フィネッティde Finetti,B.,ジェフリーズJeffreys,H.,ド・グルートde Groot,M.H.などがまとめたベイズ的体系においては,理性的な人間ならば当然遵守すべきいくつかの公理を掲げ,そこから数学的確率と効用を導出している。さらに,期待効用を最大化する選択肢を選ぶことが良い決定であることも,公理論的に導いている。

 本項の記述では,合理性ということばを意思決定の目的を遂げるために有効であるという意味で用いているが,「ある系において,前提を認める限り,整合性(首尾一貫性)がある」という意味で用いることもある。整合性をもつという意味ではベイズ統計学は合理的である。整合的である限り,主観確率も効用も意思決定者が自由に値を定めてよい。主観確率や効用が,状況によって数値や順序が変化することは合理的体系としてのベイズ的アプローチを批判したことにならないのである。実際,自由に確率や効用の値を定められるならば,ベイズ的アプローチは規範にはなりえないという意見すら存在している。

 心理学的研究においてもベイズ的アプローチの心理学的意味を再吟味し,その意味を深く探ろうとする動きが,オークスフォードOaksford,M.やチェイターChater,N.などの議論から出されている。規範モデルであれ,記述モデルであれ,モデルと現実のデータの間に乖離があるのは避けがたいことであり,その乖離の心理学的意味を問うことが意思決定において大事である。この規範モデルと現実データとの乖離は,主観確率と効用の分離,確率の加法性などの数学的要請,数値的な最適化などが人間の思考のプロセスと合致しないことが本質であり,この違いが人間の意思決定のプロセスの特徴を明らかにしている。さらに,ベイズ統計学では,データによる学習はベイズの定理によってなされるが,ベイズの定理の前提は,種々のデータのそれぞれが得られる確率,すなわちデータ発生モデルがあらかじめ与えられており,データによる学習による確率の変化はこの発生モデルから得られたデータからのみに依存するとされる。この点も実際の人間の学習と大きく異なる点である。いずれにしろ,規範モデルと記述モデルの関係は二者択一的な単純な問題ではなく,議論すべきことが多い。

【処方モデルprescriptive model】 規範モデルか記述モデルかという議論ではなく,心理学的応用の場面で意思決定のモデルが役に立つことが重要であると考える立場もある。応用のために用いられる意思決定のモデルを処方モデルという。記述モデルといえども,モデルである以上,現実と完全に一致することはありえない。また規範モデルといえども,現実から遊離したモデルであれば,実質科学では受け入れられない。

 そのような中で最初から役に立つことを目的とする実践的数理モデルも存在する。多属性効用モデルmulti-attribute utility modelは,効用を評価したい結果が複数の属性(多属性)をもつとき,それらを総合するためのモデルである。

 線形的な効用の評価としては,階層構造を用いて属性の重要度とそれぞれの属性における各選択肢(代替案)の望ましさを総合する巧みな方法があり,階層分析法analytic hierarchy process(AHP)とよばれる。また,マーケティング分野でも消費者の意思決定プロセスの描写に関心があり,その代表的なモデルとして多項ロジットモデルmultiple logit modelがある。

【数理モデルとしての展開】 心理測定法やマーケティングでは,モデルを数理的に扱う習慣がある。意思決定に関するここまでの説明を数理的に整理する。

 選択肢(代替案)がm個あるとする。これらはどれか一つを選べばそのほかの代替案を取る可能性は消えるというふうに整理されている。これらを,12,…,mとする。代替案jの効用は,その代替案を立てた場合に生起するj個の結果j1j2,…,jnの効用j1),j2),…,jn)とそれぞれの結果が起こると予想する主観確率j1),j2),…,jn)によって次のように期待効用として表現される。



 規範的意思決定理論によれば,意思決定とはこの期待効用を最も大きくする代替案を選択することである。しかし,現実の意思決定行動は規範モデルが指し示すようにならないことは明らかである。効用や主観確率が一意的に定められることはありえないし,われわれの決定は状況によって容易に変わる。結果がほぼ完璧に予想され,代替案が一つの結果のみに対応するとき,たとえば商品の選択のような場合には商品を選ぶことが,すなわちその商品が得られるという結果につながるが,このような簡単な場合でも,その選択は一意ではなく,確率概念を用いてこのばらつきを表現する。今n個の結果(たとえば商品)={12,…,n}のうち,jを選ぶ確率は,サーストンThurstone,L.L.の一対比較の法則law of paired comparisonが有名であるが,これもそれぞれの結果の効用が正規分布に従って分布するというモデルであるとみなされる。心理学の選択モデルとして有名な別の例は,前述のBTLモデルである。={12,…,n}からjを選ぶ確率は,



となる。今,結果jがp個の属性j1j2,…,jpによって成り立っているとする。それぞれの属性の値の効用が測定可能だとする。結果jの効用をこれらの属性によって表現するとき最も簡単なのは線形結合である。すなわち,



となる。この重みを計算する方法の一つが階層分析法である。マーケティングにおける消費者行動のモデルは実用的な観点から見てもある程度複雑になっている。たとえば,商品の集合={12,…,n} のうち,jを選ぶ確率は



となる。もし,各商品の効用が属性の効用の線形和である場合には,



となる。 →思考
〔繁桝 算男〕

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