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心電図【しんでんず】

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

心電図
しんでんず
electrocardiogram; ECG
心臓の収縮に伴って発生する心筋活動電位の時間的変化を,電極,増幅器記録計などから成る心電計によってグラフに記録した波形をいう。正常心電図はP,Q,R,S,T,などと名づけられた棘波から成り,その電圧としては,数十 μV から数 mVという微弱なものである。心電図によって不整脈,心筋の興奮伝導障害,心筋障害,心臓肥大,薬物や電解質の代謝異常など多くの疾患が診断されるので,普及度は高い。一定の運動負荷を与えたのちに検査して潜在的な冠動脈血流の障害をみる負荷心電図,心筋活動電位のベクトルの時間経過を表示したベクトル心電図,心臓の刺激伝導系をみるためのヒス束心電図などもある。

出典:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
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デジタル大辞泉

しんでん‐ず〔‐ヅ〕【心電図】
心臓の拍動に伴う心筋活動電位または活動電流心電計でとらえて記録したもの。心筋梗塞(しんきんこうそく)不整脈などの心臓疾患の場合、特有な波形を描く。ECG(electrocardiogram)。

出典:小学館
監修:松村明
編集委員:池上秋彦、金田弘、杉崎一雄、鈴木丹士郎、中嶋尚、林巨樹、飛田良文
編集協力:田中牧郎、曽根脩
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とっさの日本語便利帳

心電図
心臓から発せられる電気的変化をとらえるもので、心臓内を伝わる電気的刺激の伝導異常(不整脈)、心筋異常(狭心症、心筋梗塞など)の診断に威力を発揮する。

出典:(株)朝日新聞出版発行「とっさの日本語便利帳」

栄養・生化学辞典

心電図
 心臓の周期的運動によって心筋が作る活動電位の時間経過を記録したもの.

出典:朝倉書店
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生活習慣病用語辞典

心電図
心臓の収縮の際生じる電流を図形化したものをいい、心臓の病気をみる検査です。心筋梗塞や不整脈などの診断に用いられます。

出典:あなたの健康をサポート QUPiO(クピオ)
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世界大百科事典 第2版

しんでんず【心電図 electrocardiogram】
略称ECG。心臓の活動電位の時間的変化をグラフに記録したもの。心臓を構成する個々の筋細胞の興奮により活動電流が発生するが,それを空間的,時間的に合成された電位変化として体表面に貼布した電極により導出した波形であり,心周期に一致した特有の波形様式が得られる。それぞれの波は万国共通の名称P,QRSTがつけられている。P波は心房の興奮に,QRST波は心室の興奮に由来するため,波形の変化(形や大きさ),位相のずれ,各波の出現の有無および各波相互の関係から,心臓の活動状態を推測する手掛りが得られる。

出典:株式会社平凡社
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大辞林 第三版

しんでんず【心電図】
心筋の興奮により生ずる活動電流を増幅して記録したもの。心臓疾患の診断に役立つ。

出典:三省堂
(C) Sanseido Co.,Ltd. 編者:松村明 編 発行者:株式会社 三省堂 ※ 書籍版『大辞林第三版』の図表・付録は収録させておりません。 ※ それぞれの用語は執筆時点での最新のもので、常に最新の内容であることを保証するものではありません。

日本大百科全書(ニッポニカ)

心電図
しんでんず
心筋は興奮すると膜の脱分極が生じ、250~300ミリ秒続いて再分極し、元の静止電位に戻る。これが活動電位である。心臓の興奮は右心房の洞結節(ペースメーカー細胞)から発した興奮が刺激伝達系を介して心房、心室中隔、心室へと次々に伝播(でんぱ)されるが、このとき、興奮部位と未興奮部位との間に電位差が生じて電流が流れる。このため、体表面においても電位差が生じるが、これを記録したものが通常の心電図である。体表面の心電図波形には、心房の興奮によって生じる波(P波)、心室の興奮によって生じる波(QRS波)、心室の興奮消退によって生じる波(T波)が記録される。このほかに、心房の興奮消退に基づくTa波や、いまだ発生源が不明なU波が記録されることもある。
 心電図の診断学的意義は、(1)不整脈や刺激生成伝達異常の診断、(2)心筋疾患、ことに狭心症や心筋梗塞(こうそく)の診断、(3)心臓肥大の診断、などにある。とくに前二者に関しての心電図の診断学的意義は他の検査法をしのいで重要である。狭心症や心筋梗塞ではQRS波とT波の移行部(ST部という)に変化が現れる。これは虚血部と非虚血部の心筋との間に膜電位の差に基づく異常電流(傷害電流という)が流れ、これが心電図のST部に反映されるためであり、ST部の変化がどの誘導に生じたかによって、梗塞や虚血の部位をある程度診断することができる。
 心電図には、通常の体表面心電図以外に、食道から誘導したもの、カテーテル法で電極を心腔(しんくう)内に入れ、刺激伝達系の機能を診断するためのもの(ヒス束(そく)心電図)などがある。また、心電図の表示方法としては、体表面多数点で心電図を記録しておいて、これを体表面の電位マップ(等電位線)として表示するもの(体表面電位図)、心臓の電気的興奮を1個の双極子ベクトルとみなして、1心周期の興奮と消退の瞬時瞬時のベクトルの大きさと方向からループ(三次元の空間図形)として表示するもの(ベクトル心電図)がある。なお、ホルター型心電計とよばれるものがあるが、これは携帯型の心電計を患者に持たせ、24時間分の心電図を連続して磁気テープに記憶させておき、のちにこれを分析して日常生活時の心電図異常を発見しようとする装置である。[井上通敏]

出典:小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)
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精選版 日本国語大辞典

しんでん‐ず ‥ヅ【心電図】
〘名〙 心臓の筋肉の収縮に伴って発生する活動電流や活動電位差をとり出して記録した波形曲線。心臓に疾患がある場合には特有の波形が現われるところから、診断に用いられる。〔人体の機能(1952)〕
※春の落葉(1962)〈広津和郎〉「心電図は悪くなっているということであるけれども、見たところは、はまは前よりも寧ろ少し肥って」

出典:精選版 日本国語大辞典
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内科学 第10版

心電図(検査法)
 心臓の電気現象を体表面から記録した心電図は,心臓の解剖学的異常(肥大,梗塞など)や機能的変化(不整脈,虚血発作,電解質異常,薬剤の効果)などの診断に利用される.不整脈,心筋梗塞,虚血発作などの診断には不可欠である.ただし病態によっては,診断精度が高くなく(電解質異常,薬剤効果),また診断基準はあっても診断精度に限界(肥大など)がある.
 幼児期から成人への成長過程で心電図波形には生理的な変化が加わり,小児期の正常波形は成人のものと異なり,各種の診断基準も小児と成人とでは異なっている.
(1)心電図法の種類
 日常診療の場ではさまざまな心電図法(表5-5-1)があるが,本項では標準12誘導心電図を中心に述べる.
(2)誘導法
 心臓の起電力を体表面から記録するため,2点間の電位差を時間経過とともに記録する.2つの電極間の電位差を記録するのが双極誘導であり,標準肢誘導(Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ)や,Holter心電図・モニター心電図の誘導がこれに相当する.
 電位がゼロとなる点(中心電極)を人工的につくり出し,これとの差を記録するのが単極誘導で,記録電極(関電極)近傍の電位が記録される.胸部誘導(通常V1~6)と単極肢誘導(aVr,aVl,aVf)がこれに相当する.
a.標準肢誘導
 右手→左手(第Ⅰ誘導),右手→左足(第Ⅱ誘導),左手→左足(第Ⅲ誘導)の電位差を記録する.いずれの誘導も「□→△」の□の電位に比べて△の電位が大きい場合に陽性の振れとなる.Ⅰ~Ⅲの誘導を正三角形とみなし(Einthovenの正三角模型,図5-5-1),この正三角形の中心に起電力をもつベクトルを想定し,これがそれぞれの誘導に投影されたものが心電図波形となる.
b.胸部誘導
 単極胸部誘導はゼロ点と胸壁上の関電極との間の電位差を記録し,胸部電極直下の電気現象が比較的よく反映される.ゼロ点としてはWilsonの中心電極(5 kΩ以上の抵抗を介して右手,左手,左足の3つの電極を結合したもの)が用いられる.通常V1~6が記録される(図5-5-2).
 V1~6以外の位置で胸部誘導が記録されることがある.まず右側胸部の情報を得たい場合(右胸心,右室梗塞)でV3rやV4r(胸骨を挟んでV3やV4の対称の位置)が記録される.Brugada症候群では,V1~3の1肋間高い位置で典型的なST変化が記録されることがある.
c.単極肢誘導
 単極胸部誘導と同様に中心電極と右手,左手,左足の電極の間の電位差を記録するのがWilsonの単極肢誘導で,それぞれVr,Vl,Vf誘導とよばれる.この誘導では波形がしばしば小さく見にくいため,Goldbergerの誘導法が考案された.この誘導法ではWilsonの誘導法で記録された電位差の1.5倍の電位差となる.これを増大単極肢誘導(augmented unipolar limb leads)とよび,aVr,aVl,aVfと表す(aVr=1.5×Vr).
 標準肢誘導,単極肢誘導(Goldberger),胸部誘導(V1~6)を合わせたのが標準12誘導心電図である.
(3)基本波形
 洞調律の1心周期でP波(心房興奮),QRS波(心室興奮),T波(心室再分極)が発生する.T波に続く波がU波である.QRS波とT波の間をST部分,QRS波からST部分への移行部をJ点とよぶ(図5-5-3).
 心室筋全体が均一に脱分極(興奮)している状況では外部に電場をつくらない(電位差が生じない)ので電位はゼロとなる.ST部分が基線にあるのはこのためである.脱分極した心室全体が同時に再分極すれば,やはり外部に対して電場をつくらないのでT波(再分極波)は生じない.しかし,部位によって心室活動電位持続時間に差があり(心内膜側のほうが心外膜側より長い),また心室各部で再分極過程に時間的差があるため電位差が生じ,T波が描かれる.
 健常者では心房の興奮(P波),心室の興奮(QRS波)のいずれも左・前・下方に向かい,心室興奮の消退過程(再分極)はQRS波とは逆方向に向かう.このためI,aVf,V5~6では,P波,QRS波,T波のいずれもが陽性となる.左室の興奮は心内膜側から心外膜側に進むため,左室上の電極では陽性のQRS波が記録される.活動電位持続時間は心内膜側に比べて心外膜側で短いため,再分極過程では心外膜に比べ心内膜の電位がよりプラス側にあり,T波は左室表面の電極では陽性となる.
(4)各波の判読
 心電図は通常,25 mm/秒の紙送り速度,10 mm/mVの感度で記録され,心電図用紙の1 mmは時間軸では0.04秒,波高では0.1 mVに相当する.異常の有無の判断は各波の持続時間(幅),高さ,極性,形状を基に行い,PQ時間やQT時間も考慮に入れる.異常所見の存在が直ちに臨床上重要な意味をもつとは限らず,病歴,身体所見,胸部X線写真(必要に応じて心エコー所見)などを総合して臨床意義を判断する.
a.P波
 心房負荷,心房調律(洞調律,異所性心房調律)の診断を行う.心房細動・粗動ではP波は消失し,細動波・粗動波に代わる.
1)正常所見:
I,aVf,V5~6で陽性で,幅は0.12秒未満,高さは0.2 mV未満.
2)右房負荷:
右房の直上にあるV1(~2)で高く(≧0.2 mV)尖ったP波(右心性P,P dextrocardiale)となる.慢性肺疾患に伴う右房負荷ではⅡ,Ⅲ,aVfで高く尖ったP波(肺性P,P pulmonale)がみられる.Ⅱ,Ⅲ,aVFで0.3 mV以上が基準とされるが,0.2〜0.3 mVの間であってもP波が尖っている場合には右房負荷の存在が示唆される.
3)左房負荷:
左房肥大・拡張があると左後方へ向かう電位が増大し,V1のP波後半の陰性成分が深くかつ幅が広くなる(左心性P,P sinistrocardiale).また左房肥大・拡張では左房内興奮伝導に時間を要するようになり,P波の持続時間が長くなる(>0.12秒).このためⅠ,Ⅱ,V5~6でP波は二峰性となり,後半の陽性成分(左房興奮の反映)が大きくなる(僧帽性P,P mitrale).
4)その他:
異所性心房調律では異所性中枢の位置によってP波形が変化する.下位心房調律の場合にはⅡ,Ⅲ,aVfで陰性P波となり,右胸心ではI誘導で陰性P波となる.
b.QRS波
 QRS波は心室の病態を反映し,心電図診断の際の重要な着目点で,高さ,幅,極性,形状について検討する.
1)正常所見:
幅は0.10秒以下で,胸部誘導ではV1からV5に向かってR波が次第に大きくなり,V6ではV5より減高する.S波はV1~2で最大で,V6に向かって次第に浅くなる.したがってV1ではR/S<1となり,V5~6ではR/S>1となる.このR/S比が逆転するところが移行帯であり,通常V3~4に存在する.
2)電気軸:
QRS波をベクトルと考え,前額面(肢誘導に反映される) でのその平均ベクトルの方向を電気軸とよぶ.厳密にはQRS波の面積から求めるが,臨床的には高さで代用する.正三角模型のⅠ~Ⅲ誘導について陽性成分(R波)と陰性成分(S波)の高さの差を計算し,作図して(それぞれの誘導に垂線をたらして)求める.
 生下時には電気軸は右方(+90度以上)に向かい,成長に伴い次第に左方に移動する.成人では+90度~-30度の範囲を正常範囲とすることが多い.+90度より右方にあるものを右軸偏位,-30度より左上方にあるものを左軸偏位とよぶ(表5-5-2).
 軸偏位の原因として重要なものは分枝ブロックで,左軸偏位(Ⅰにq波,ⅢにS波を伴う)の場合には左脚前枝ブロック,右軸偏位(ⅠにS波,Ⅲにq波)の場合には左脚後枝ブロックの可能性がある.これらは単独では臨床上問題はないが,右脚ブロックに合併した場合には二束ブロックとよび完全房室ブロックへ進展する可能性(<1%/年)がある.
3)高さの変化:
双極子が曲面上に均一に並んでいる二重層とみなすと,平均起電力(φ)をもつ小さい面電荷(面積S)がrだけ離れた観測点Pに与える電位の大きさ(V)は,以下のように求められる.
 ただし,ωはSが点Pに対して張る立体角,θは面電荷の中心とPを結ぶ直線が面の法線となす角,εは導電率.
 したがってPにおける電位が大きくなるのは,① 起電力φが大(心臓の肥大)② 面積Sが大(心臓の肥大・拡張)③ 距離rが小(胸郭の狭小)④ 導電率εが小という条件でみられる.一方,電位が小さくなるのは,① 起電力φが小(高度の心筋障害)② rに対するSの比が小(高度の肥満,高度の肺気腫)③ 導電率εが大(浮腫,心膜液,胸水)という条件でみられる.
 以上のように,QRS波高の増大は心臓自身の変化(肥大・拡張)ばかりでなく,心臓外の要因にも大きく影響されるので,心室肥大の心電図診断には偽陽性,偽陰性が避けられない.
 a)低電位差:肢誘導のすべてでQRS波全体の振れ(R波の頂点からS波の頂点まで)が0.5 mV未満となったものを低電位差とよぶ.胸部誘導の場合はすべての誘導で1 mV未満とする.心臓外への液体の貯留(浮腫,心膜液,胸水),粘液水腫,心筋障害(心筋梗塞,心筋炎,心筋症),肺気腫,高度の肥満などが原因となる.
 b)高電位差:左室肥大では増大したベクトルが左後方へ向かうため,左側胸部誘導(V5~6)やⅠのR波が増高する(鏡像変化としてV1~2やⅢのS波が深くなる).左室肥大の代表的な診断基準(Sokolow & Lyon)はこれを用いたものであり,① RV5(6)>2.6 mV② RV5(6)+SV1≧3.5 mV③ RI+SⅢ≧2.5 mVなどがある.電位差は心臓外の要因によっても変化するので,上述の電位差の基準にST-T変化(ST低下やT波の平低化や陰転)を加味すると偽陽性の割合が低くなる.上記の診断基準では小柄な日本人の場合は偽陽性が多くなり,上記基準①は3 mV,②は4 mVを用いる方がよいという意見もある.
 右室肥大では右前方に向かうベクトルが増大する.右室肥大の代表的な診断基準(Sokolow & Lyon)として,① RV1≧0.7 mV② V1のR/S>1③ +110度以上の右軸偏位などがある.以上の所見のほかに,V1~2のST-T変化,右房負荷所見を伴う場合に右室肥大の可能性が高くなる.
4)幅の変化:
健常者では0.08秒以下であることが多く,0.12秒以上は病的な延長である.QRS幅の延長は,①心臓の肥大・拡張,②心室内伝導障害(脚ブロックなど),③WPW症候群(心室の一部の興奮が早期に始まり全体の幅が延びる)による.
 a)右脚ブロック:右室の興奮が遅れることを反映し,① V1のrsR′,rR′パターン② V1~2の二次性ST-T変化③ Ⅰ,V5~6の幅の広いS波がみられる.
 左室内伝導は障害されないので,左室肥大や心筋梗塞の心電図診断は可能である.
 b)左脚ブロック:左室の興奮が遅れるため,① V5~6,I,aVlでM型のQRS波,ノッチのあるR波② 上記の誘導の二次性ST-T変化③ V1~2のQSパターンがみられる.
 左脚ブロックでは左室内伝導パターンが正常とは異なるため,左室肥大や心筋梗塞の心電図診断が困難になる.
 左右の脚ブロックともQRS幅が0.12秒以上の場合を完全脚ブロック,0.12秒未満の場合を不完全脚ブロックとよぶ.
 QRS幅が0.12秒以上であっても,左右の脚ブロックに特徴的なQRS波形を伴わない場合には,単に心室内伝導障害とよぶ.
5)波形の変化:
脚ブロック,WPW症候群の外に異常Q波がQRS波形の変化として重要である.Q波は正常でもみられるが,①深いもの(同じ誘導のR波高の25%以上の深さ),②幅の広いもの(≧0.04秒)は異常Q波と考えられる.本来Q波のない誘導(V1~3)にみられる場合も異常である.
 異常Q波は心筋梗塞以外にもさまざまな病態で出現し,疾患によって出現しやすい誘導がある(表5-5-3).
c.T波
1)正常所見:
一般に,QRS波の主棘と同じ方向で,同じ誘導のR波高の1/10より高い.V1~2のQRS波の主棘は下向きであることが多く,V1~2の陰性T波は生理的なこと(特に若年者)も多い.
2)増高:
増高の明確な基準はない.T波が増高する病態は限られており,①心筋梗塞(超急性期,純後壁梗塞のV1のT波),②異型狭心症発作,③高カリウム血症(底辺の狭い,尖ったテント状T),④心膜炎急性期,⑤肥大型心筋症(異常Q波のある誘導)などでみられる.明らかな病的原因のない例でもしばしば高い陽性T波をみるが,意義は不明である.
3)減高,陰転:
T波の減高,平低化,陰転はさまざまな病態(表5-5-4)で生じ,T波高がその誘導のR波高の1/10以下になった場合を減高,平低化とよぶ.これらの病態ではしばしばST低下を合併する.
d.ST部分
1)ST偏位の発生機序:
心室全体が一様な分極期(活動電位のプラトー相)にあれば外部に電場を生じないので,ST部分は基線にとどまる.しかし,分極の状態が異なる部位が心臓内に存在すると電場を生じてSTは基線から偏位する.
 傷害電流の概念を用いるとST偏位は図5-5-4のように説明できる.貫壁性虚血では,心外膜側の心筋細胞に傷害が生じ,プラトー相に健常細胞からここへ向かって傷害電流が流れるためSTは上昇する.
2)ST低下:
さまざまな原因(表5-5-5)でSTが低下する.T波の平低化~陰転を伴うことが多くST-T変化と総称される.心筋細胞の活動電位波形の変化(たとえば心筋虚血など)が原因で生じる変化を一次性ST-T変化,心室内伝導過程の変化(脚ブロックやWPW症候群など)によって生じる変化を二次性ST-T変化とよぶ.
 ST低下の形状はさまざま(図5-5-5)で,心筋虚血の際には水平型ST低下となることが多いが,ST低下の形状からその原因の病態を診断することは難しい.
3)ST上昇:
ST上昇は重大な心疾患が原因となるものが多い(表5-5-6).健常者にみられる生理的な上昇として右側胸部誘導の0.2 mV程度までのST上昇(下方に凸),早期再分極とよばれるV4~6(ときにⅡ,Ⅲ,aVf)のST上昇(下方に凸)がある.早期再分極は正常亜型と考えられてきたが,ときに心室細動を起こすことがわかってきた(早期再分極症候群).ただし,早期再分極例の心室細動リスクを推定することは難しい.
 左室肥大や左脚ブロックでは,左側胸部誘導のST低下の鏡像変化としてV1~2でST上昇をみる.ST上昇は経時的な変化を示すものが多いので,経過を追うことも診断を進める上で大切である(心筋梗塞,異型狭心症,心膜炎,心筋炎など).
 突然死の原因となるBrugada症候群ではV1~2で特徴的なST上昇を示し,経過中にST上昇の形態に変動がみられる.
e.J波
 QRS波とST部分の接合部がスラーあるいはノッチ状に上昇したものをJ波とよぶ.これをもつ例では心室細動を起こすことがあるが,そのリスクは不明である.全身性低体温でみられるJ波をOsborn波とよぶ.
f.U波
1)成因:
U波は,心室壁の中間に存在するM細胞とよばれる一群の細胞の活動電位持続時間が,心内膜側や心外膜側の心筋細胞の活動電位持続時間よりも長いため生じるという説が有力である.
2)増高:
一般に同じ誘導のT波よりも低く,その高さは0.2 mV以下である.大きな陽性U波は,①低カリウム血症,②ジギタリス,③QT延長症候群,④左回旋枝領域の虚血(虚血による左室後壁の陰性U波の鏡像変化で,V1~2に出現)などでみられる.
3)陰性U波:
陰性U波は異常所見であり,心筋虚血,肥大,高血圧が原因となる.狭心症発作時の陰性U波は強い虚血の存在を示唆する.
g.PQ時間
 P波の開始からQRS波の開始までの時間(心房内伝導時間と房室間伝導時間の和)で,正常では0.12秒から0.20秒の間にある.早期興奮症候群(WPW症候群およびその亜型)ではPQ時間が短縮する.PQ時間が延長したものが第1度房室ブロックである.
h.QT時間
 QRS波の開始からT波の終了時点までの時間で,心室の電気的興奮に相当する.臨床上はⅡ誘導で測定されることが多い.
1)正常所見:
正常値はおおよそ0.4±0.04秒とされるが,心拍数の影響を受けてQT時間は変動する.心拍数で補正して評価し,Bazettの式(QT/(秒))が繁用されている.女性の方が男性に比べてQT時間が長く,補正されたQT時間(QTc)が男性では0.42秒まで,女性では0.43秒までを正常とする.
2)短縮:
高カルシウム血症,ジギタリス(STの盆状降下を伴う),心筋虚血でみられる.QT時間が異常に短縮している例では,心室細動を起こしやすい(QT短縮症候群).
3)延長:
心筋梗塞や左室肥大,その他のさまざまな病態で延長する.torsade de pointesの発生原因となりうる【⇨5-4-3)-(1)】.
(5)心電図判読時の注意点:正常亜型
 正常波形から若干はずれた所見で,健常者にもしばしばみられ病的意義のないものを正常亜型とよぶ.V1のrsr′パターン(r>r′),若年パターン(V1~2の陰性T波),早期再分極(これの意義については上述した),V1の高いR波,ⅢのみのQ波と陰性T波,V1~3のR波の増高不良,SSSパターン(Ⅰ,Ⅱ,ⅢでR波≒S波)などである.
(6)特殊な心電図法
a.Holter心電図
 長時間の心電図記録をメモリー媒体(ICカードなど)に保存し,自動解析装置により不整脈や虚血発作の診断,定量的評価などを行う.
1)適応:
①不整脈や狭心症を疑わせる所見のある場合(診断,定量的評価)②不整脈を合併する可能性のある病態(WPW症候群,QT延長症候群,Brugada症候群,心筋梗塞,心筋症など)③ペースメーカ機能の評価④治療効果判定(不整脈,狭心症)など.
2)誘導:
一般に記録は2チャネルが用いられるので,情報量が多い誘導を選択する(ただし12誘導が記録できるものもある).NASA誘導(不関電極を胸骨柄,関電極を剣状突起におく.V1に近似)とCM5誘導(不関電極は胸骨柄,関電極はV5の位置におく.V5,Ⅱに近似)が繁用される.
3)診断の際の注意点:
不整脈:①アーチファクト:さまざまな要因でアーチファクトが発生し,あらゆる不整脈に似た波形が生じる.②自動診断の精度:解析器の性能による.③健康と病気の境界:心室期外収縮は心疾患のない例にも見られ,Holter心電図を記録すればほとんどの例で不整脈が記録される.Holter心電図のみで健康と病気の境界を決めるのは難しい.④治療効果判定:不整脈の場合,自然変動の存在を考慮する必要がある.日常的には一定の不整脈減少率(たとえば75%)を有効性の基準とすることが多いが,必ずしも意見の一致をみていない.
虚血発作:①個々の症例でST変化が出やすい誘導を選択する.②非虚血性ST変化(体位変換,食事,過呼吸,心拍数増加,精神的緊張など)との鑑別が必要である.体位変化に伴うST変化(低下,上昇とも)では,ST変化の時間的経過が急峻,基線の揺れや筋電図の混入,心拍数の変化が少ない,QRS波形の変化を伴うこと,などの特徴がある.③1 mm以上のST低下が1分間以上持続する場合に陽性と判断される.しかしCM5では通常のV5に比べると波形の大きさが約1.5倍となるので,軽微なST変化を重視すると偽陽性が多くなる.
b.運動負荷心電図
 運動による負荷を心臓に加え,その際に出現する心電図変化を評価する.
1)目的:
①労作性狭心症の診断と治療効果の評価②心機能,運動耐容能の評価と治療効果の評価③労作誘発性不整脈の診断と治療効果の評価④冠動脈疾患の予後推定⑤T波交互脈の検出(心室性不整脈のリスク評価)⑥心疾患のリハビリテーション⑦スポーツ検診など
2)種類:
運動負荷の方法として,①Masterの二段階試験,②トレッドミル負荷試験,③エルゴメーター負荷試験がある.二段階試験は設備が簡単で手軽に行えるが,負荷量が一定であり,強制負荷ではないため十分な負荷がかけられない.負荷中の心電図や血圧監視ができず,高齢者には向かない.トレッドミル負荷試験は装置が高価であるが,多段階負荷が可能で強制運動であるため最大負荷に到達することができ,負荷中に心電図や血圧の監視ができる.高齢者にも安全に行える.負荷プロトコールとしてはBruce法が繁用される.自転車エルゴメーター負荷試験は,外的仕事量を定量でき,多段階負荷を掛けることができる.おもに大腿の筋肉に負荷がかかり,高齢者には不向きである.
3)虚血の診断:
ST低下,上昇を心筋虚血の診断基準とする.トレッドミル負荷試験の場合,ST低下は水平型あるいは下行型では負荷前に比べ1 mm以上,上行型ではJ点から60(あるいは80) msec後で2 mm以上の低下を有意とする.ST上昇はaVR以外の誘導でみられた場合に陽性とする.ただし,心筋梗塞例ではQ波のある誘導でのST上昇は壁運動異常によることがあり,必ずしも虚血の所見とは限らない.
 U波の陰性化は虚血の所見としてよいが,T波の変化(陰性T波の陽転やその逆の変化)は虚血の所見とはしない.
 左室肥大,ジギタリス服用例,心室内伝導異常(WPW症候群,左脚ブロック),女性,低カリウム血症,僧帽弁逸脱症で偽陽性が生じやすい.[井上 博]

出典:内科学 第10版
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