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心不全【しんふぜん】

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

心不全
しんふぜん
cardiac failure
心臓機能不全,循環不全ともいう。心臓自体に障害があってその収縮性が低下し,心臓が,全身の諸組織に必要なだけの血液を拍出できない状態をいう。呼吸困難,心悸亢進などを自覚症状とし,他覚的にはチアノーゼ,頸静脈膨隆,浮腫,静脈圧の亢進などもみることがある。強心剤や利尿剤の投与,トランキライザによるストレスの緩和,血圧の調整などが行われる。原因としては,心筋変性,高血圧症,動脈硬化,心膜炎,心臓弁膜症などが多い。

出典:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
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デジタル大辞泉

しん‐ふぜん【心不全】
心臓のポンプ機能が低下して、肺や全身に必要な量の血液を送り出せなくなった状態。原因は心臓弁膜症心筋梗塞高血圧・慢性肺疾患など。

出典:小学館
監修:松村明
編集委員:池上秋彦、金田弘、杉崎一雄、鈴木丹士郎、中嶋尚、林巨樹、飛田良文
編集協力:田中牧郎、曽根脩
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栄養・生化学辞典

心不全
 心臓の血液の拍出が不全になった状態.

出典:朝倉書店
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生活習慣病用語辞典

心不全
心臓のポンプ機能の障害により、体内細胞や組織の代謝に見合う十分な血液を供給できなかったり、血液が全身から心臓に戻れなかったりする状態をいいます。その重症度によって症状もさまざまですが、初期には息苦しさ、動悸、だるさなどの症状があります。

出典:あなたの健康をサポート QUPiO(クピオ)
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家庭医学館

しんふぜん【心不全 (Heart Failure)】
◎心不全とはどんな病気か
◎症状は3つに分けられる
◎心不全の原因と誘因
◎心不全の検査と診断
◎一般的な治療と原因別の治療
◎予防法には2通りある

◎心不全(しんふぜん)とはどんな病気か
 私たちのからだが活動を行なうためには、全身の組織において栄養分や酸素が必要です。心臓は、栄養分や酸素を含んだ血液を全身に送り出すポンプのはたらきをしています。このポンプのはたらきが低下して、全身が必要とする血液を十分に送り出すことができなくなった状態を心不全といいます。簡単にいうと、心不全とは、心臓が弱った状態のことです。
●心不全の種類
 心不全は、おこり方によって、①急性心不全、②慢性心不全、③慢性心不全の急性増悪(ぞうあく)、の3つに分けられます。
①急性心不全とは、急性心筋梗塞症(しんきんこうそくしょう)などの急性の病気が原因となって、それまで症状がなかった人に呼吸困難、起坐呼吸(きざこきゅう)(「症状は3つに分けられる」の肺うっ血症状参照)、血圧低下などの心不全の症状が急に出現するもので、緊急の入院治療が必要です。
②慢性心不全とは、心臓弁膜症(しんぞうべんまくしょう)や心筋症が原因となって心臓のはたらきが低下し、運動時の動悸(どうき)、息切れ、呼吸困難や足のむくみなどの症状が慢性的に持続しているものです。この場合、症状を軽くしたり、心不全の進行を食い止めるための検査や治療が必要です。
③慢性心不全の急性増悪とは、心臓のはたらきが低下しているけれども症状が軽くて安定していた慢性心不全の患者さんに、なんらかのきっかけで急に呼吸困難などの症状が出現するものです。この場合は急性心不全と同様に、緊急の入院治療が必要です。
 また心不全は、左心室(さしんしつ)と右心室(うしんしつ)のどちらのはたらきがおもに低下するかによって、左心不全(さしんふぜん)(左心室のはたらきが低下する)と右心不全(うしんふぜん)(右心室のはたらきが低下する)に分類することができます。表「心不全の分類と症状、原因、治療」に心不全を急性・慢性と左心・右心の4つに分類した際の症状、原因、治療をまとめました。

◎症状は3つに分けられる
 心不全の症状は、おおまかに、肺うっ血症状、体静脈(たいじょうみゃく)うっ血症状、心拍出量低下(しんはくしゅつりょうていか)症状、の3つに分けられます。
●肺うっ血症状
 左心室のはたらきが低下しておこる左心不全では、左心室から血液を送り出す能力が低下するので、その手前(上流側)に位置する左心房や肺静脈に血液の停滞がおこります(図「血液循環のしくみ」)。これを肺うっ血(「肺うっ血/肺水腫」)と呼びます。
 肺うっ血がおこると、吸い込んだ酸素が肺から血液中に十分入っていくことができないため、血液中の酸素濃度が低下して呼吸困難感がおこります。
 軽症の場合は、階段や坂道を登ったり、急いだときなどの運動時にのみ動悸、息切れ、息苦しさが出現します。
 中等症になると、夜間、床についてから呼吸困難が出現します。これは横(水平)になることにより、日中は重力のために下半身にたまっていた血液が急に心臓にもどり、肺うっ血が強くなるためです。横になると呼吸困難が出現するため、座っているほうが楽である状態を起坐呼吸(きざこきゅう)と呼びます。
 さらに重症になると、安静時にも呼吸困難が続き血液中の酸素濃度が低下するために、くちびるや爪(つめ)が紫色(チアノーゼ)になります。また、せきとともにピンク色の泡状のたんが出たり、呼吸にともなって、まるで気管支(きかんし)ぜんそくのように「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音が聞こえることがあり、心臓ぜんそくと呼ばれます。
「起坐呼吸」や「心臓ぜんそく」は肺うっ血のもっとも重い症状で、これらの症状が現われた場合には肺が水浸(みずびた)しになった状態、すなわち肺水腫(はいすいしゅ)であることが多く、急性左心不全の典型的な症状で、緊急の治療が必要です。
●体静脈うっ血症状
 右心室のはたらきが低下しておこる右心不全では、右心室の手前(上流側)に位置する右心房やさらには体静脈(全身から心臓へもどる静脈)にうっ血がおこります。
 軽症の場合は、体重増加や夕方に下肢(かし)(脚(あし))にむくみ(浮腫(ふしゅ))がみられる程度ですが、中等症になると1日中むくみがみられるようになり、おなかが張った感じ(腹部膨満感(ふくぶぼうまんかん))や肝臓が腫(は)れる(肝腫大(かんしゅだい))、食欲不振などの症状が出現します。さらに重症になると、下肢のみでなく全身のむくみが出現し、おなかに水がたまる(腹水(ふくすい))などの症状が出現します。
 体静脈のうっ血症状は、高度の左心不全が慢性的に持続した場合にも現われます。
●心拍出量低下症状
 心拍出量とは、心臓というポンプが全身に送り出す血液の量のことで、正常人の安静時では毎分5~7ℓです。心臓のはたらきが低下すると、心拍出量が、毎分2.5~4ℓ程度まで低下し、それによる症状が出現します。
 軽症では、疲れやすさやからだのだるさ(倦怠感(けんたいかん))が出現し、安静時の脈拍数の増加が現われます。安静時の脈拍数(心拍数)は、正常では毎分およそ50~80回ですが、これが安静時でも毎分80~110回に増加します。
 中等症では、手足が冷える感じや皮膚の蒼白(そうはく)、尿量の減少が現われます。
 さらに重症になると、冷や汗、無尿(むにょう)(尿がほとんど出ない)、意識がもうろうとなる、血圧低下(最高血圧が90mmHg以下、またはふだんより30mmHg以上低い)などの症状が出現し、これはショック状態と呼ばれ、ただちに治療しないと生命にかかわる状態です。心拍出量低下症状は左心不全と右心不全に共通する症状です。
 なお、これまでに述べた症状は、心不全のみで現われるものではないので、他の病気と区別する必要があります。
 たとえば、呼吸困難は肺気腫(はいきしゅ)や気管支ぜんそくといった呼吸器の病気でもおこりますし、浮腫はネフローゼや糸球体腎炎(しきゅうたいじんえん)といった腎臓の病気でもみられます。区別のためには医師を受診して、検査を受ける必要があります。

◎心不全(しんふぜん)の原因と誘因
 心不全の原因はさまざまで、ほとんどすべての心臓病が、最後には心不全をきたします(表「心不全の分類と症状、原因、治療」)。
 急性左心不全の原因としてもっとも多いのは、急性心筋梗塞症(きゅうせいしんきんこうそくしょう)(「心筋梗塞(症)」)です。一方、急性右心不全の原因としては、肺血栓塞栓症(はいけっせんそくせんしょう)(「肺血栓塞栓症」)があげられます。いずれも生命にかかわるので、緊急の入院・治療が必要です。
 また、慢性心不全も原因によって治療法が異なるので、やはり入院のうえ、検査と治療が必要です。
 一方、心不全には原因とは別に「誘因(ゆういん)」があります。誘因とは、心臓のはたらきの低下はあっても安定していた患者さんの病状が急に悪化するきっかけ(引き金)のことです。もっとも多いのは、呼吸器感染症、すなわち「かぜをこじらせて、気管支炎・肺炎となり、心不全が悪化」というパターンです。
 そのほか、塩分や水分のとりすぎ、服薬の中断、過度の労働や運動(オーバーワーク)、狭心症、不整脈などが引き金となり、心不全が悪化することもあります。
 もともと心臓のはたらきが低下している人は、これらの誘因を避けるよう注意する必要があります。

◎心不全(しんふぜん)の検査と診断
 心不全の診断は、症状、診察結果(心臓・肺の聴診、浮腫、肝腫大など)と胸部X線撮影(肺うっ血の程度や心臓の大きさを知る)や血液検査(動脈血の酸素濃度を調べる)、心電図(心筋梗塞や心肥大の有無を知る)などの基本的な検査により可能です。
 しかし、心不全の原因を明らかにするためには、さらに超音波(心エコー図)検査、運動負荷試験、RI(ラジオアイソトープ)検査、心臓カテーテル検査、冠動脈造影検査などの検査が必要です。
 RI検査とは、放射性同位元素(ほうしゃせいどういげんそ)(ラジオアイソトープ)を注射して、心臓の画像を撮影し、心臓の筋肉の血流状態やはたらきを調べる検査です。
 心臓カテーテルとは、直径1mm、長さ約1m程度の細いチューブを脚や腕の血管から差し込んで心臓まで入れ、心臓の中の圧力を測定したり、造影剤を注入してX線撮影を行ない、心臓の形や動きを調べる検査です。
 冠動脈造影検査とは、冠動脈に造影剤を注入して、狭窄(きょうさく)や閉塞(へいそく)の有無を調べる検査です。

◎一般的な治療と原因別の治療
 一般的な治療としては、安静、水分制限(軽症例では、1日1000~1300mℓ、重症例では1日800~1000mℓ)、塩分制限(1日7g)のほか、薬物治療として、ジギタリス製剤(ジゴキシンなど)、血管拡張薬(アンギオテンシン変換酵素阻害薬(へんかんこうそそがいやく)など)、利尿薬(りにょうやく)(フロセミドなど)があります。また拡張型心筋症に対して、最近、β遮断薬(ベータしゃだんやく)という脈拍を遅くする薬剤が保険適用となり、使用され始めました。さらに、安定している慢性心不全では、軽い運動療法も勧められますが、過度にならぬよう配慮が必要です。
 原因別の治療とは、心不全の原因となっている病気に対する根本的な治療のことです。たとえば急性心筋梗塞症で冠動脈が血栓(けっせん)でつまって急性心不全になった場合には、緊急に風船療法(経皮的冠動脈形成術(けいひてきかんどうみゃくけいせいじゅつ))を行ない、つまっている冠動脈を再開通させる必要があります。
 また心臓弁膜症による心不全の場合、安静や薬物治療も必要ですが、それ以上に、心不全の原因である心臓弁膜症(しんぞうべんまくしょう)に対して手術を行なうほうが重要です。
 心不全がいよいよ重症になると、薬物治療では限界があります。最近、拡張型心筋症に対して、「バチスタ手術」と呼ばれる左心室を縫い縮める手術が考案され、試みられています。
 また欧米では年間約2500例の心臓移植手術が行なわれています。日本では補助人工心臓が一時的に用いられていますが、心臓移植について法律はできたもののまだ一般化していません。
 心不全の治療について、表「心不全の分類と症状、原因、治療」に示しましたが、詳細についてはそれぞれの疾患の項目を参照してください。

◎予防法には2通りある
 1つは、心不全の原因となる疾患にならないよう予防すること、すなわち、心筋梗塞症などにならないよう、ふだんから禁煙、減塩、低脂肪、肥満防止、適度の運動を心がけることです。
 2つめは、いったん心不全になってしまったら、心不全の悪化の誘因を防ぐことです。すなわち、体重を毎日測定し、自分のベスト体重のプラスマイナス1kgの範囲内に保つこと、水分制限を守ること、塩分制限を守ること、オーバーワークを避けること、きちんと服薬すること、かぜをひかぬよう注意すること、心不全の症状出現に注意し、定期的に医師の診察を受けることなどです。

出典:小学館
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世界大百科事典 第2版

しんふぜん【心不全 heart failure】
心臓が全身の臓器や組織に十分な血液を循環させることが不可能となり,その結果,呼吸困難,水腫,疲労,乏尿などの重篤な身体症状が発現した状態をいう。心不全は高血圧性心臓病,弁膜症,心筋梗塞(こうそく)などのあらゆる心臓疾患によってもたらされるが,また心臓以外の全身性疾患,たとえば甲状腺機能亢進症,ビタミンB1欠乏症(脚気),貧血などによってもたらされる。したがって心不全とは,心臓のポンプ機能の低下が原因ではあるが,体液の異常貯留が体組織に発現して初めて呼称できる症状であって,器質的な心臓病の病名でないことに注意する必要がある。

出典:株式会社平凡社
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大辞林 第三版

しんふぜん【心不全】
心筋変性・心臓弁膜症・高血圧症・心膜炎などのため、心臓が身体の必要とする血液を十分に送り出せない状態。 急性-

出典:三省堂
(C) Sanseido Co.,Ltd. 編者:松村明 編 発行者:株式会社 三省堂 ※ 書籍版『大辞林第三版』の図表・付録は収録させておりません。 ※ それぞれの用語は執筆時点での最新のもので、常に最新の内容であることを保証するものではありません。

日本大百科全書(ニッポニカ)

心不全
しんふぜん
cardiac failure
心機能不全ともいい、心臓のポンプ機能(血液の末梢(まっしょう)組織への拍出)が障害されて静脈圧が上昇し、十分量の酸素を末梢に供給できない状態をいう。一般にはおもに慢性循環不全と同義に解される。心不全はあらゆる器質的心疾患に起因して生じるが、もっともしばしばみられるのは心筋梗塞(こうそく)、心筋変性、心臓弁膜症、高血圧症および心嚢(しんのう)炎(心膜炎)によるものである。左右どちらの心室機能がおもに障害されているかによって左心不全と右心不全に分類される。
 左心不全の病態は肺うっ血を主とし、このために呼吸困難を呈する。心不全が軽度の場合は運動時に発症するが、病勢の進行とともに安静時にも症状が発現し、ついには臥位(がい)をとれず起坐(きざ)呼吸を余儀なくされる。すなわち、横臥位になると呼吸困難が出現し、起坐位をとると軽快する。心不全に特有の呼吸困難の型として、夜間突然におこる激しい呼吸困難の発作、すなわち心臓喘息(ぜんそく)の発作があり、泡沫(ほうまつ)状の血痰(けったん)を出し、顕微鏡で調べると心臓病細胞が検出される。この心臓病細胞は慢性心疾患の患者の血痰中によくみられる血鉄素を多量にもつ球形の細胞で、血鉄素は、肺うっ血のため肺胞内に漏出性出血がおこり、食細胞が赤血球を貪食(どんしょく)し、その血色素から変化して生じた色素タンパク質である。また心不全は他覚的には心拡大、不整脈、肺野のラッセル音の聴取などが認められる。一方、右心不全の病態の特徴は、身体末梢部から心臓に血液を送り返す静脈の拡張と水および電解質の貯留であり、これらによって頸(けい)静脈や末梢静脈の怒張、肝腫大(しゅだい)、浮腫、腹水、チアノーゼなどが生じる。
 予後判定および治療のためには、心不全の要因となっている疾患のほかに心不全状態の軽重を知ることが必要であり、そのために種々の心機能検査が施行される。心不全の病態把握には、循環時間の延長をはじめ、末梢静脈圧や中心静脈圧、肺動脈楔入(せつにゅう)圧の上昇、心拍出量の低下、胸部X線検査における心臓陰影の拡大や肺うっ血像、心エコー図による壁運動の低下所見などが有用である。治療としては、絶対安静を守り、減塩食とし、強心剤のジギタリスをはじめ、利尿剤、モルヒネ、末梢血管拡張剤などがその病態に応じて適宜用いられる。心不全の予後は、原因となる基礎疾患、合併症の有無、心不全の軽重、治療の適否などにより異なる。基礎疾患が心筋梗塞や尿毒症の場合は予後不良であるが、僧帽弁狭窄(きょうさく)症などの心臓弁膜症に伴う左心不全などでは長期間軽症のまま経過することもある。[井上通敏]

急性心不全

心不全のうち急激に発症したものを急性心不全といい、急性心筋梗塞、急性心タンポナーデ(心膜内に血液などがたまって心拍出量が減少した状態)、心臓弁膜症(とくに大動脈弁狭窄症)などに起因して生じる。おもな病態は、低血圧、心拍出量の低下による末梢循環不全徴候および精神症状である。患者の皮膚は蒼白(そうはく)となり、脈は微弱で速く、また血圧は低下し、不穏や昏睡(こんすい)などのさまざまな精神症状を呈する。呼吸は速くて浅在性となり、尿量は減少し、静脈は虚脱して、重篤な場合にはショック状態に陥る。[井上通敏]

出典:小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)
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精選版 日本国語大辞典

しん‐ふぜん【心不全】
〘名〙 心弁膜症、心筋傷害、高血圧症、心嚢炎、慢性肺疾患などにより、心臓が静脈血を受け入れ、全身に動脈血を送り出す機能の遂行ができないために起きる一連の変化。呼吸困難、心悸亢進、チアノーゼ、浮腫、肝臓腫の肥大などの症状を示す。〔薬の効用(1964)〕
※司令の休暇(1970)〈阿部昭〉一「それをこの医者が心不全だと診断してだらだらと通院させてきたのは」

出典:精選版 日本国語大辞典
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内科学 第10版

心不全(循環器疾患の主要病態)
定義・概念
 心不全とは心臓に器質的および/あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻し,心室拡張末期圧の上昇や主要臓器への灌流不全をきたし,それに基づく症状や徴候が出現,あるいは悪化した病態ととらえられている(和泉ら,2011).
原因
 心不全の原因疾患は幅広く,心筋梗塞や心筋症のように心筋組織が直接的に障害を受ける場合,弁膜症や高血圧などにより長期的な機械的負荷が心筋組織に加わり機能障害により発症する場合,頻脈や徐脈などのリズム異常により血行動態の悪化を招く場合がある(表5-3-1).また,全身性の内分泌・代謝疾患,炎症性疾患,蓄積疾患や栄養障害や薬剤・化学物質などの外的因子による心筋障害から発症する場合など心臓以外の原因もある.ただし,実際の診療では虚血性心疾患と高血圧が最も多く,それに拡張型心筋症,弁膜症が続く.
分類
1)急性心不全と慢性心不全:
急性心不全(acute heart failure)は,①急性非代償性心不全(新規発症心不全と慢性心不全の急性増悪),②高血圧性急性心不全,③急性心原性肺水腫,④心原性ショック,⑤高拍出性心不全,⑥急性右心不全の6つの病態に分類される. 慢性心不全(chronic heart failure)とは,「慢性の心筋障害により心臓のポンプ機能が低下し,末梢主要臓器の酸素需要に見合うだけの血液量を絶対的また相対的に拍出できない状態であり,肺・体静脈系または両系にうっ血をきたし日常生活に障害を生じた病態」と定義される(松﨑ら,2010).
2)左心不全と右心不全:
左心不全(left-sided heart failure)では左心系に障害を認め,主として肺循環系に臓器うっ血をみる.一方,右心不全(right-sided heart failure)では右心系に障害を認め,主として体循環系にうっ血が現れる.両者が同時に出現する場合を両心不全(both-sided heart failure)という.
3)収縮不全と拡張不全:
心不全の多くは,心臓のポンプ機能の低下が心筋の収縮機能低下に基づく「収縮不全(systolic heart failure)」である.したがって,心不全における心機能評価は,従来より左室収縮機能に重点がおかれ,収縮機能の指標として左室駆出率(left ventricular ejection fraction:LVEF)が最も広く用いられている.しかしながら,心不全患者の30~40%では左室駆出率で評価される収縮機能は保持されていることが報告され,心不全症状の出現には収縮機能と拡張機能の両者の障害が寄与していることが明らかとなってきた.一般には収縮機能が低下した心不全を「収縮不全」,収縮機能が低下していない心不全を「拡張不全(diastolic heart failure)」と分類するが,臨床的な心不全では収縮機能も拡張機能もともに低下していることが多く,「収縮不全」と「拡張不全」を明確に区別することは容易ではない. そこで, 最近では「収縮不全」を「左室駆出率が低下した心不全heart failure with reduced ejection fraction(HFrEF)」,「拡張不全」を「左室駆出率が保持された心不全heart failure with preserved ejection fraction (HFpEFまたはHFPEF)」とよぶようになっている.「正常な左室駆出率」の診断は,一般的には40〜50%をカットオフ値とすることが多い. 「左室駆出率が保持された心不全」の基本病態は,心筋stiffness(硬さ)の増大と不完全弛緩を含む拡張不全である.このような患者は,高齢者の女性に多く,高血圧,糖尿病や心房細動を認めることが多い(表5-3-2).臨床的に拡張不全が重要視される理由には,人口の高齢化により,収縮不全に比し増加傾向にあること,決して予後が良好ではないこと,さらに治療の進歩にもかかわらず予後の改善が十分でないことがある.
4)高心拍出量性心不全と低心拍出量性心不全:
通常心不全では,心拍出量が低下している低心拍出量性心不全(low output heart failure)が多いが,高心拍出量性心不全(high output heart failure)では心拍出量は正常よりも増大している.末梢組織での酸素需要が増すために需要と供給のバランスが維持できず心不全をきたすもので,甲状腺機能亢進症や貧血,動静脈瘻などで認められる.
疫学
 心不全患者の平均年齢は約70歳と高齢である.人口の高齢化,生活習慣の欧米化に伴う虚血性心疾患の増加,急性冠症候群に対する急性期治療の普及・成績の向上などにより慢性心不全患者は増加の一途をたどっているが,今後もさらに増加していくと予想される.米国では約500万人の患者が心不全に罹患し,毎年50万人が新たに心不全と診断されている.また,30万人が心不全を原因として死亡し,死亡者数は年々増加している.一般地域住民を対象としたFramingham研究によると,年齢ごとの慢性心不全の有病率は,50歳代800,60歳代2300,70歳代4900,80歳以上で9100(人口10万対)と報告されている.わが国における心不全の有病率は報告されていないが,100万人前後の慢性心不全患者がいると推測されている.わが国でも,欧米同様に心不全患者が増加しており,今後この傾向はさらに強まると予想される.
病態生理
 心不全の病態形成には,心筋収縮不全,神経体液性因子の活性化および心筋リモデリングが重要な役割を果たしている.心筋に障害が加わると,収縮機能の低下に対する代償機転として心筋が肥大を形成して収縮を増加させる一方,交感神経やレニン-アンジオテンシン-アルドステロン(renin-angiotensin-aldosterone:RAA)系などの神経体液性因子の活性化が引き起こされる.また,炎症性サイトカインや活性酸素の過剰状態である酸化ストレスなども活性化される.神経体液性因子の過剰な活性化は,心筋リモデリングを引き起こし,さらに心筋障害や心ポンプ機能低下を助長させ,悪循環サイクルを形成する.このような悪循環サイクルが,心不全の病態の形成・進展において中心的な役割を担っている(図5-3-5).
1)心筋収縮不全:
心不全の主たる病態は心筋の収縮不全である.心筋の収縮不全は,心筋細胞レベルでの収縮機能の低下による.心筋細胞の収縮能は,収縮蛋白へのCa2供給量と収縮蛋白のCa2感受性とで規定される.したがって,収縮不全の成因としては,収縮蛋白へのCa2供給量の低下または収縮蛋白のCa2感受性の低下,もしくはその両者が重要な役割を果たしている.心筋細胞の細胞内Ca2濃度は,筋小胞体のCa遊離チャネル(リアノジン受容体),Ca2-ATPase,ホスホランバンなどのCa2制御蛋白によって調節されている.不全心筋では筋小胞体Ca2-ATPaseの活性の低下が認められる.筋小胞体のCa2保持量が減少すれば,細胞内Ca2トランジエントのピークが低下することから,収縮不全の発生機序として筋小胞体Ca2-ATPaseの重要性は理解しやすい.最近,Ca2放出チャネルであるリアノジン受容体の調節蛋白であるFKBP12.6の解離によるCa2リークが心不全の発症に関与することが明らかにされ,その意義が注目されている.
2)神経体液性因子の活性化:
心筋障害によって活性化され,心筋リモデリング・心不全の形成・進展に関与する神経体液性因子の代表はRAA系である(図5-3-5).心不全では,従来から知られている血中のRAA系のみならず,心筋や血管局所における組織RAA系が活性化される.心不全の初期におけるRAA系の活性化は循環動態を維持するための代償機転と考えられる.しかしながら,その持続的な亢進は心不全の病態の悪化をもたらす.すなわち,組織RAA系の活性化は心筋細胞を肥大させ,同時に心筋酸素需要の増大をもたらす.一方,血管壁内膜・中膜平滑筋の増殖や線維芽細胞の増殖・コラーゲン合成促進による心筋内血管周囲の間質線維化は冠予備能の低下をもたらし,ともに心筋虚血を助長する. 心房性ナトリウム利尿ペプチド(atrial natriuretic peptide:ANP),脳性ナトリウム利尿ペプチド(brain natriuretic peptide:BNP)は心臓から産生されるホルモンである.心臓局所でRAA系が活性化されると心筋組織でアンジオテンシンⅡが産生され,それが直接あるいは間接に心筋細胞におけるBNP遺伝子の発現を亢進させ,その結果として血中BNP濃度が上昇する.BNPはANPとともに心保護的に作用することから,RAA系の亢進に拮抗するものと考えられる.さらに,BNPは産生臓器がほぼ100%心臓であり,そのなかでも80%以上が心室であることから,心不全のバイオマーカーとして診断のみならず,予後の予知因子として臨床の現場で広く用いられている.
3)心筋リモデリング:
心筋細胞肥大には,圧負荷という物理的・機械的因子が最も重要である.血行力学的負荷といった機械的刺激は,細胞膜の圧受容体で感知され,細胞内に伝えられる.細胞は,接着斑でアクチン・インテグリンを介して細胞外マトリックスに接着している.したがって,インテグリンの活性化が,機械的刺激のシグナルの伝達に重要な役割を果たしている可能性があるが,その詳細な機序は不明である.肥大心では,コラーゲンなど細胞外マトリックスの増生により間質の線維化が生じる.コラーゲンは間質の線維芽細胞において産生される.コラーゲン産生を促進するシグナルとしても,アンジオテンシンⅡが重要な役割を果たしている.アンジオテンシンⅡは線維芽細胞の増殖を引き起こし,さらにⅠ型やⅢ型コラーゲンの生成を増加させる.また,アンジオテンシンⅡは線維芽細胞からエンドセリンやTGF-βなどの分泌を誘導する.これらの因子は,線維芽細胞自体にオートクライン・パラクライン的に作用し,心筋線維化を助長する.また,アルドステロンも,線維芽細胞のコラーゲン産生を増加させ心筋線維化をきたす.間質の線維化は,コンプライアンスを低下させ,拡張機能障害を助長すると考えられる.
臨床症状
1)自覚症状:
心不全における症状は,呼吸困難や浮腫など臓器うっ血による症状と全身倦怠感,易疲労感など心拍出量低下に基づく症状とに大別される(表5-3-3). a)呼吸困難(dyspnea):心不全における呼吸困難は,労作時の息切れ(shortness of breath)から始まるが,重症になるとごく軽度の労作や安静時にも呼吸困難を生じるようになる.COPDなどの呼吸器疾患による呼吸困難との鑑別は病歴やほかの症状や身体所見から可能であるが,困難なことも少なくない.肺うっ血が高度になると,呼吸困難が臥位1〜2分で出現するため,患者は水平に寝ることができなくなり,起坐呼吸(orthopnea)を呈する.これには,臥位による静脈還流の増加や横隔膜の挙上が関与する.さらに,発作性夜間呼吸困難(paroxysmal nocturnal dyspnea:PND)は,夜間就寝数時間後に発症する高度の呼吸困難であり,ピンク色泡沫状痰や喘鳴を伴うこともある(心臓喘息,cardiac asthma).これには,起坐呼吸と同様の機序に加えて下肢・腹部の間質水分の静脈内への移行,就寝中の交感神経緊張の低下や呼吸中枢の感度の低下が関与する. 呼吸困難を含む自覚症状の重症度評価にはNYHA心機能分類が用いられる(表5-3-4).NYHA心機能分類は,簡便であり,実際の臨床ばかりでなく大規模臨床試験の患者の選択基準なども含め最も広く用いられているが,あくまで患者の自覚症状の指標であり,客観性・定量性に欠けるという限界がある. b)末梢浮腫(peripheral edema):浮腫は足背や下腿に認めることが多く,体重増加を伴う.長期臥床例では仙骨部や背部に出現する.浮腫が長期間持続すると皮膚は光沢を帯びて硬化し,赤色の腫脹や色素沈着を伴ってくる. c)消化器症状:腸管,肝,膵などの臓器うっ血による症状として,食欲不振,悪心などがみられ,腸管の浮腫が著しいと下痢や嘔吐をみる.右心不全では,肝うっ血による右季肋部ないし心窩部痛が出現することがある. d)全身倦怠感・易疲労感:心拍出量の低下に基づき骨格筋への血流が低下することによる. e)尿量減少・夜間多尿:腎血流の低下は,尿量減少を引き起こす.昼間立位で活動しているときは,腎血流が低下するが,夜間臥位をとり安静にすると腎血流が増加するため,夜間多尿が生ずる.
2)身体所見:
 a)心拡大:心拡大は,視診・触診・打診によっておおよその見当がつくが,定量的に評価するには胸部X線や心エコー図が必要である.
 b)Ⅲ音:Ⅲ音は,心尖部で聴取される.奔馬調律(Ⅲ音ギャロップ,gallop)ともよばれ,心不全の重要徴候の1つである.これは,心不全で左室容積が増加することによって,心室拡張早期に心房から心室へ急速に血液流入が生ずるために聞かれる.
 c)異常呼吸音(副雑音,肺雑音,ラ音):肺うっ血の自覚症状としての呼吸困難および胸部X線での肺うっ血所見に伴って出現する.吸気時に捻髪音 (fine crackles)として,当初は肺底部に聴取するが,心不全の進行につれて全肺野で水泡音(coarse crackle)として吸気・呼気時ともに聴取される.間質性浮腫によって細気管支浮腫が生じ気道が狭くなると,喘鳴(wheeze)を聴取する.
 d)頸静脈怒張(jugular venous distension):頸静脈が怒張し,ときに拍動も観察される.患者の体位を水平より45度の半座位とし,右心房の高さと頸静脈怒張の最上部との垂直高差から中心静脈圧を推測する.頸静脈圧上昇が明らかでない場合には,肝・頸静脈逆流が有用である.患者に静かに呼吸を行わせ,45度起坐位で右季肋下の肝を手掌で約1分間静かに圧迫し,頸静脈の拍動性怒張が明瞭化となるのを観察する.頸静脈怒張は,右室拡張期圧の上昇が右房圧,末梢静脈圧上昇として観察されるもので,右心不全の代表的な徴候であるが,左心不全でも認められる.これには,Na・水貯留による循環血液量の増加,心不全の代償機序としての交感神経活動性亢進による肺静脈緊張増加などが関与する.
 e)肝腫大・黄疸:肝腫大は右心不全に限らず種々の疾患で起こるが,うっ血肝による肝腫大は右心不全の特徴的徴候の1つであり,しばしば圧痛や体動時の右季肋部痛を伴う.黄疸はうっ血肝による肝機能の障害のほか,肺,脾,腎などでの反復塞栓に伴う赤血球の破壊によるビリルビン生成の亢進が関与する.いずれにせよ,心不全でみられる黄疸は予後不良の徴候である.
 f)胸水・腹水:右心不全では,濾出液として漿膜腔内に貯留し,胸水,腹水,心膜液などとして認められる.胸水は,葉間胸膜や肋骨横隔膜角に少量の胸水貯留像として胸部X線上で認められる.三尖弁閉鎖不全や収縮性心膜炎など高度の肝腫大をきたす疾患では,末梢浮腫があまり顕著でなくても高度の腹水貯留をみることがある.
検査成績
1)検尿・血液検査:
検尿・血液検査は,症状・身体所見から慢性心不全が疑われた場合に,その診断の妥当性の検討および他疾患の除外診断に有用である.血漿ANPやBNP濃度は血行動態とよく相関するが,BNPのほうが左室拡張末期圧をよく反映し,感度,特異度ともすぐれている.BNPが心不全の補助診断法として特にすぐれているのは,心不全の存在,重症度,予後の診断である.慢性心不全,特に代償期心不全や,プライマリーケアにおける心不全の診断は必ずしも容易ではなく,収縮不全ではBNPのカットオフ値を100 pg/mLとすると,呼吸器疾患などとの鑑別に有用である.また,血漿BNP濃度はNYHA分類に並行して上昇する.さらに,予後とも相関し,退院時のBNP値が低いほど心事故の発生が低率であり,200~250 pg/mLが予測指標になる.ただし,BNPを利用した心不全診断と重症度評価では,年齢,性別,腎機能などの影響を考慮しておく必要がある.わが国ではおもにBNPが用いられているが,欧米ではBNP前駆体のNT-proBNPもよく使用されており,NT-proBNPには生理活性がないこと,半減期が長いこと,腎機能の影響を受けやすいなどの違いがある.
2)心電図
: 心電図は,心不全の基礎疾患の診断や心房細動,心室性不整脈など不整脈の診断,さらにはQRS幅の測定に必須である.
3)胸部X線写真:
胸部X線写真では,肺うっ血・胸水・心陰影などを評価する.心不全が重症になると,肺静脈陰影の増強,間質性浮腫,肺胞内水腫と進行する(図5-3-6).当初,肺静脈圧上昇によって拡張した肺静脈が,鹿の角状の陰影増強として認められ,同時に肺血管周囲の組織間浮腫によって肺血管の走行が不明瞭となり,かつ増強する.また小葉間リンパ管ないし小葉隔壁のうっ血像が,下肺野と横隔膜上方に,胸膜に直角方向に走行する長さ1~2 cmの線状陰影として認められる(Kerley B line).肺胞内水腫では,小斑状陰影の集積像として認められる.
4)心エコー:
心不全における心機能評価には心エコーが最も広く用いられるが,心エコーでは同時に原因疾患の診断,弁や左室形態の観察なども合わせて行うことができる【⇨5-5-3】.  a)収縮機能:収縮機能の指標として,最も広く用いられるのは左室駆出率である.しかしながら,左室駆出率は,左室収縮機能ばかりでなく心拍数,血圧,左室容積などの影響も受けるため,その解釈には注意が必要である.特に僧帽弁閉鎖不全や高血圧性心疾患, 肥大型心筋症など左室壁肥厚を有する場合に過大評価されやすい.虚血性心疾患では,局所壁運動の評価も必要である.また,心臓再同期療法の適応を検討するためには非同期収縮(dyssynchrony)の有無と程度を評価する.収縮予備能や心筋バイアビリティの評価には安静時のみでは不十分であり,ドブタミン負荷あるいは運動負荷心エコーが有用である.心不全例の半数以上において,機能性・虚血性僧帽弁逆流を認める.この逆流は,左室が拡大し乳頭筋が外側へ変位し僧帽弁尖を異常に強く牽引 (テザリング)するために弁尖の閉鎖位置が左室心尖方向へ変位することによって弁尖の閉鎖が不十分となり生ずる. b)拡張機能:心筋の拡張機能自体の障害ばかりでなく,右室拡大,収縮性心膜炎,心タンポナーデなどに基づく圧迫によっても左室拡張・流入が制限される. 現在,拡張機能として広く用いられる非侵襲的指標は,直接的な左室拡張機能指標ではなく拡張機能障害のために二次的に生じた左房圧や形態変化などである.
 ⅰ)左室駆出率が低下している場合:パルスドプラ法を用いて左房から左室への血液の流入動態,すなわち拡張早期流入血流速波形E波,心房収縮期流入血流速波形A波を測定する.この両波のピーク血流速の比E/Aが低下し,E波の減速時間(deceleration time: DT)が延長した「弛緩障害型」がまず拡張機能障害初期に現れる.拡張機能障害が進行し左房圧が上昇するとE/Aが増加しDTが短縮し,正常波形と類似した「偽正常型」となり,さらに拡張機能障害が進行し左房圧がより上昇するとE/Aのさらなる増高とDTのさらなる短縮により「拘束型」となる(図5-3-7).左室駆出率が低下している症例ではE/Aが高値でありDTが短縮しているほど左房圧が上昇している.ただし,加齢とともにE/Aは低下しDTは延長するため注意が必要である.
 収縮不全における拡張機能評価は,病態把握ばかりでなく予後予測にも有用である.すなわち,十分な治療を行った後におけるE/A高値あるいはDT低値は,左室駆出率の低値,進行した左室拡大と左室肥大,血中BNP高値,肺高血圧などとともに予後不良の指標である.  ⅱ)左室駆出率が保持されている場合:左室駆出率が保持されている場合,E/AやDTは左房圧や左室拡張末期圧と相関せず,左室流入血流速波形のみによる拡張機能評価は困難である.組織ドプラ法を用いて測定した僧帽弁弁輪部運動を観察した拡張早期のe′波と左室流入血流速波形E波の比E/e′は,左室駆出率の影響を受けず左房圧と相関することから心不全の診断に有用である(図5-3-7).
5)CT,MRI,核医学:
近年CT,MRI,核医学などの循環器画像診断の進歩は著しく,原因疾患の診断や左室形態の観察に用いられるようになっている.左室駆出率は左室造影でも測定可能であるが,心臓カテーテル検査が必要であり,最近は一般的ではない.左室駆出率の測定や左室形態の観察はCT,MRI,核医学でも可能である.
6)心臓カテーテル検査:
血行動態や冠動脈病変の評価,さらに心筋生検のために心臓カテーテル検査が心不全の診断においていまなお必要な検査であることは間違いないが,心エコー,CT,MRI,核医学など非侵襲的検査の進歩により,これらに取って代わられることが多くなりつつある.
7)運動耐容能(exercise tolerance):
運動耐容能の評価法には,6分間歩行試験と運動負荷試験による最大酸素摂取量の測定がある.6分間歩行試験は,6分間の最大努力による歩行距離を測定するものであり,特殊な設備が不要で簡便な方法であり,およその運動能力を推定し得る.6分間歩行距離は身長と体重および年齢に関連しており,日本人の正常域(m)は[454-0.87×年齢(歳)-0.66×体重(kg)]±82(2標準偏差)に身長(m)を乗じたものとされる. 運動耐容能を定量的に評価する標準的方法は,トレッドミルや自転車エルゴメータを用いた症候限界性漸増負荷法による動的運動負荷試験である.標準化したプロトコールによる運動時間,最大運動時の仕事率と最大酸素摂取量により評価されるが,必然的に運動可能な患者に対象が限定される.最大酸素摂取量は最大心拍出量の第一次近似であり,心血管系の最大酸素輸送能および末梢の最大酸素利用能を反映する.さらに,嫌気性代謝閾値(anaerobic threshold:AT)は,運動時の酸素需給バランスの破綻を示すポイントであるが,客観性,再現性にすぐれた定量的指標である.しかしながら,心不全患者では低い負荷量でATに到達したり,oscillatory ventilationのためATの検出が容易でないことがある.呼吸困難や易疲労による運動制限が心不全によるものか,それ以外によるものかを鑑別するのに有用である.
診断・鑑別診断
 急性心不全ではきわめて短時間のうちに患者の容態が悪化するおそれがあり,初期の迅速な診断(重症度と原因診断)と初期治療のためのトリアージ(優先順位)を念頭におく.全身状態の観察とともに,バイタルサインのチェック・静脈ラインの確保,動脈血ガス分析・採血検査(心筋障害マーカー,肝・腎機能,電解質,CRPなど)・12誘導心電図・ポータブル胸部X線撮影を短時間に並行して行う. 重症度評価には,Killip分類が用いられる(表5-3-5).さらに,Swan-GanzカテーテルによるForrester分類があるが,ルーチンには推奨されず,非侵襲的評価方法であるNohria-Stevenson分類が有用である(図5-3-8). 慢性心不全の診断も症状・身体所見に始まる(図5-3-9).慢性心不全の主たる症状は,呼吸困難,浮腫や易疲労感である.ただし,これらは呼吸器疾患,腎不全,貧血など他臓器疾患でも認められることがあり鑑別を要する.身体所見では,心雑音やⅢ音奔馬調律,ラ音や頸静脈怒張がないか確認する.心電図と胸部X線は必須の検査であるが,血漿BNPの測定も有用である.BNP 100 pg/mLあるいはNT-proBNP 400 pg/mL以上であれば心不全を想定して検査を進める.
 心エコーを用いて左室駆出率が低下した心不全か,左室駆出率が保持された心不全かを診断することは,病態の理解ばかりでなく,治療法の選択においても有用である.心不全と診断されれば,基礎疾患の診断,治療法の決定に必要な検査,さらに治療効果判定・重症度評価を進める.左室駆出率が保持された心不全(HFPEF)が疑われる場合,心エコーで弁膜症などを除外し,拡張機能障害の所見を認める場合,心不全と診断する.
経過・予後
 わが国の慢性心不全の増悪による入院患者の退院後1 年死亡率が11%であるのに対し,心不全増悪による再入院率は26%と死亡以上に高率である.拡張不全の生命予後も不良であり収縮不全と差を認めない.さらに,収縮不全と拡張不全の生存率の経年的変化を1987年から2001年にわたって観察したMayo Clinicの研究によると,収縮不全では生存率の改善がみられたが,拡張不全では認めなかった.このように慢性心不全の長期予後は,収縮不全と拡張不全とにかかわらずきわめて不良である.
治療 (急性心不全の治療は【⇨3-2】救急治療) 
慢性心不全の治療目標は,血行動態の改善により自覚症状およびQOLを改善するばかりでなく,増悪による入院を抑制し,生命予後を改善することである.基礎疾患に対する治療が可能な場合は,まず基礎疾患の是正が根本的治療となる.心不全を伴う虚血性心疾患では冠血行再建により左室機能が改善することが期待できる.弁膜症や先天性心疾患では外科的修復により心機能の回復が得られるが,心筋不全が不可逆的障害に陥る前に手術時期を逸しないことが必要である.
1)収縮不全に対する薬物治療
(図5-3-10): 無症状(NYHAⅠ度)から重症(NYHA Ⅳ度)までの幅広い患者に対してアンジオテンシン変換酵素(angiotensin converting enzyme:ACE)阻害薬を投与する.ACE阻害薬が使用できない場合,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(angiotensin Ⅱ receptor blocker:ARB)を用いる.NYHAⅡ度以上の患者では,ACE阻害薬またはARBに加えてβ遮断薬を投与する.体液貯留に対してループ利尿薬,サイアザイド系利尿薬を用いる.さらに,抗アルドステロン薬やジギタリスを併用する.NYHA Ⅳ度では,通常入院治療が必要である.利尿薬,硝酸薬,PDEⅢ阻害薬,カテコールアミン,hANPなどの非経口投与を行い状態の安定化をはかる. a)ACE阻害薬:ACE阻害薬は,数多くの大規模臨床試験により生命予後に対する改善効果が証明されており,心不全治療の第一選択薬に位置づけられている.したがって,ACE阻害薬は,心不全の重症度にかかわらずすべての収縮不全の患者に投与すべきである.ACE阻害薬は高用量のほうがより効果が大きいことが報告されており,患者が耐えうる限り増量する.投与後2~3週間以内に空咳が生じることがあり,最も頻度の高い副作用であるが,薬剤を中止することで消失する.
 b)ARB:
ARBはACE阻害薬と同等の臨床的有用性を有すると考えられており,空咳などのためにACE阻害薬が投与できない場合はARBを用いる.ARBも高用量のほうがより効果が大きい.さらに,ACE阻害薬とARBの併用の有効性も証明されているが,実際に併用療法の対象となるのは重症例である. 心不全に対してRA系抑制薬を投与する際には,特に低血圧,腎機能低下,高カリウム血症に注意が必要である.心不全では,このような副作用が高血圧に用いるときよりも起こりやすい.血圧低下は,投与後2~3日で起こりやすく,利尿薬併用によって助長される.RA系抑制薬は,予後の改善を期待して投与しているため,収縮期血圧が80 mmHg台であっても,ふらつきなどの症状がなければ,そのまま継続する.また,開始後は,血清クレアチニンや血清Kを2週間~1カ月以内に測定し,その後もモニターを継続する.血清クレアチニンの上昇が,前値の30%までか1 mg/dLまでなら,そのまま投与を継続する.ただし,血清Kが5.5 mEq/L以上に上昇すると不整脈を誘発することがあり,Kの補正とともに投与を見合わせる. c)β遮断薬:β遮断薬はその陰性変力作用により心不全患者への投与は禁忌であると考えられていた.しかし,数多くの大規模臨床試験によって,幅広い重症度の患者の生命予後を改善することが明らかにされており必須の薬剤である. β遮断薬投与の対象となる患者は,収縮機能障害による慢性心不全患者である.NYHA Ⅱ~Ⅲ度を対象とするが,Ⅰ度,Ⅳ度の患者も対象となり得る.ACE阻害薬を含む標準的治療を受けていること,著明な臓器うっ血所見がなく比較的安定していることが必要である.少量から導入し,患者の状態をみながら徐々に増量していくが,導入時期は特に心不全の増悪,低血圧,徐脈の出現に注意する.心不全増悪の際には,できるだけβ遮断薬を中止せず利尿薬を中心とした心不全治療を強化する.心不全が改善しない場合や血圧低下を伴う場合は強心薬としてPDEⅢ阻害薬を投与する.β遮断薬の中断は,心不全改善後に再導入が必要となり,再導入を行わないと心不全増悪さらには死亡リスクを高めることになり,できるだけ行わないようにする. d)利尿薬:利尿薬は,臓器うっ血を軽減するために最も有効な薬剤であり,おもにループ利尿薬を使用する.ただし,低カリウム血症や低マグネシウム血症などの電解質異常は,ジギタリス中毒ばかりでなく致死性不整脈を誘発することがあり注意を要する.うっ血が消失したら,減量・中止やサイアザイド系利尿薬への切り替えを行う.抗アルドステロン薬は,NYHA Ⅱも含む幅広い重症度の慢性心不全患者の生命予後を改善することが示されており,K保持を兼ねて併用される. e)ジギタリス:ジギタリスは,心筋細胞膜におけるNa-K-ATPaseを阻害し陽性変力作用を示す.また迷走神経活性を亢進させ,房室結節の不応期を延長させて,心室レートを低下させる.したがって,ジギタリスは心房細動を伴う慢性心不全患者において心室レートをコントロールし運動耐容能を改善する.しかしながら,高齢,腎障害,電解質異常(低カリウム血症,低マグネシウム血症)などはジギタリス中毒の誘因となるので注意を要する.また,血中濃度に影響を与えるような相互作用を有する薬剤の併用にも注意する. f)経口強心薬:経口強心薬の予後改善効果は大規模臨床試験によってことごとく否定され,米国では経口強心薬は慢性心不全治療薬としては推奨されていない.しかし生命予後の改善のみが治療の最終目的ではないとの見解に立てば,その臨床的有用性についても再考慮すべきであるという立場もある.特に,QOLの改善,非経口強心薬からの離脱,β遮断薬導入などの際に経口強心薬が有効な患者が存在する.ただし,催不整脈作用があるため細心の注意が必要である.
2)拡張不全に対する薬物治療(図5-3-11):
数多くの大規模臨床試験によって収縮不全に対する薬物治療が確立されてきたのに対し,拡張不全に対する薬物治療は確立していない.うっ血の軽減には利尿薬が最も有効である.ただし,利尿薬による左室充満圧の過度の低下は,心拍出量を減少させ低血圧を引き起こす危険性があるため,投与量を調節することが重要である.高血圧の頻度が高いことから血圧の管理,心房細動のレートコントロール,さらに虚血の改善も重要である.ACE阻害薬やARBは,収縮不全における生命予後の改善効果は確立している一方で,拡張不全の予後に対する有効性については心不全による入院が減少したにとどまっており,あきらかな生命予後の改善効果は証明されていない.β遮断薬やCa拮抗薬は拡張機能を改善すると期待されるが,その臨床的有用性は確実には証明されていない.
3)非薬物療法:
薬物治療で十分なコントロールができない場合,非薬物療法の適用が考慮される.新規の薬物療法の開発が難渋している中で,非薬物療法の進歩には目覚しいものがある. a)植え込み型除細動器(implantable cardiac defibrillator:ICD):心不全患者の死因の約40%は突然死であり,特にNYHA Ⅱ〜Ⅲ度では50〜60%に上る.突然死の80〜90%は致死性不整脈すなわち持続性心室頻拍や心室細動による.このような致死性不整脈に対してはICDの植え込みが有用であり,大規模臨床試験で予後改善効果が証明されている. b)心臓再同期療法(cardiac resynchronization the­rapy:CRT):NYHAⅢまたはⅣで左脚ブロック主体の左室内伝導遅延を伴う心不全では,CRTの両心室ペーシングによる左室収縮の非同期収縮(dyssynchrony)の是正,さらにICD機能付きCRT(CRT-D)が有効であり,自覚症状・運動耐容能や心機能ばかりでなく予後を改善する.さらに,最近ではNYHAⅡの軽症例でも有効であることが証明され適応が拡大している.
 c)運動療法:運動療法は安定した慢性心不全患者の運動耐容能や生活の質(QOL)ばかりでなく,心血管死や再入院を含む心事故を減少させる.
予防・疾患管理
 心不全の治療にあたっては,心不全の基礎疾患となる高血圧・糖尿病・脂質異常症などの管理を徹底することにより,その発症・進展を予防することも重要である.
 慢性心不全患者は高齢者が多く,その生命予後が不良であるばかりでなく,心不全増悪による再入院を反復する.心不全増悪には誘因(増悪因子)が存在する場合が多く,感染症,不整脈,高血圧,虚血,貧血などの医学的要因があるが,塩分制限の不徹底,活動制限の不徹底,内服薬の中断など予防可能な因子も多い.したがって,心不全増悪の防止には,予防可能な誘因の除去も必要である.慢性心不全に対する薬物治療の効果を最大限引き出し,再入院を減少させ,症状・QOLを改善するには,疾患管理(disease management)が必要である.心不全の病態や治療内容に関する知識に加えて,治療薬を規則的に服用し,自己判断で中止しないように指導する.塩分,水分制限とともに,体重を定期的に測定し心不全の早期発見に努める.症状のモニタリングについては,呼吸困難や浮腫などの主要症状とともに,増悪時の症状とその対処方法を十分に説明しておく必要がある.特に,心不全増悪の症状を認めた場合,利尿薬の増量,さらに必要に応じて速やかに受診することにより入院を回避することができる.[筒井裕之]
■文献
和泉 徹,他:急性心不全治療ガイドライン,2011年改訂版,日本循環器学会,2011.http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_izumi_h.pdf松﨑益德,他:慢性心不全治療ガイドライン,2010年改訂版,日本循環器学会,2010.http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2010_matsuzaki_h.pdf筒井裕之他編:心不全に挑む・患者を救う.文光堂,東京,2005.

出典:内科学 第10版
©Asakura Publishing Co., Ltd. All rights reserved.
それぞれの用語は原書刊行時(2013年)の時点での最新のものです.常に最新の内容であることを保証するものではありません。また,権利関係の都合で一部表示できない図や画像があります。

心不全(心・肺疾患に伴う神経系障害)
(2)心不全
 心拍出量低下によるショック状態で脳循環不全や,低酸素血症脳症)をきたした場合に種々の程度の意識障害をきたす.脳波で徐波化がみられる.診断は意識障害,脳局所症状の有無と血圧,血液ガス,画像診断による.上矢状静脈洞血栓症などと鑑別する.ショックが改善すれば通常回復する.神経細胞は低酸素に感受性が高く,無酸素状態が数分続くと非可逆的となり,心臓が停止した場合には4~6分以内に心蘇生術を施す必要がある.蘇生直後に瞳孔反応のみられない症例では植物状態となる可能性が高い.[高 昌星]

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EBM 正しい治療がわかる本

心不全
どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 心臓は一定のリズムで収縮と拡張をくり返して、全身に血液を送りだす役割を果たしています。このポンプ機能がうまく働かなくなった状態を心不全(しんふぜん)といいます。
 心不全に陥ると、血液を全身の臓器に送りだせなくなって、血流が滞(とどこお)るため、さまざまな臓器でうっ血がおこります。
 おもな症状は息苦しさやむくみですが、程度が軽いうちは体を動かしたときだけ息苦しさを感じます。症状が悪化すると安静時でも息苦しくなり、横になって眠ることができなくなります。これは立っていたときには下半身に行っていた血液が、横になると心臓に戻ってくるためで、肺がうっ血しているとこのような症状がおこります。
 重症になると、呼吸困難によるチアノーゼ(唇などが青紫色にみえる状態)や、「ぜいぜい、ヒューヒュー」という呼吸音を伴う心臓喘息(ぜんそく)がおこります。
 そのほか、動悸(どうき)、尿量の低下、腹部膨満感(ふくぶぼうまんかん)、食欲不振などの症状がみられます。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 心不全は心筋梗塞(しんきんこうそく)や心筋炎、心筋症、心臓弁膜症などの心臓の病気に、感染症や水分・塩分の摂取過多などの危険因子が加わっておこります。また、高血圧で長年、心臓に負担がかかっていると、しだいにその働きが低下し心不全の原因となります。
 また、心不全は症状が安定しているかどうかで、大きく二つに分類されます。心臓の機能が急激に低下する場合を急性心不全、心臓の機能が低下しているものの、なんとかバランスを保ち状態が安定している場合を慢性心不全といいます。
 慢性心不全は、いつ急性心不全に移行してもおかしくない状態です。慢性心不全から急性心不全に移行することを慢性心不全急性増悪(ぞうあく)ということもあります。心臓の機能低下を招いた病気の治療を行って、急激に悪化しないようにコントロールすることが大切です。

●病気の特徴
 心不全患者は年々増加を続けており、厚生労働省の2014年の「患者調査」では30万2000人と推計されています。これは、高齢化と心疾患に対する治療の多様化、つまり、薬物治療だけではなく、高齢者にも適応できる負担の少ないカテーテル治療などの開発により、以前は救えなかった命を救えるようになったことが影響していると考えられています。


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

[治療とケア]できるだけ早急に心臓リハビリテーションを行う
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 心臓リハビリテーションはできるだけ早急に行います。心臓リハビリテーションには、退院後の生活に関する教育や病気に対する受け入れ、社会復帰を円滑にするためのカウンセリングも含まれます。(1)(2)

[治療とケア]心不全の悪化を抑える薬を用いる
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 心不全では、おもに心臓を拡張する機能が低下している場合と、収縮する機能が低下している場合があります。現時点で研究が進んでいるのは、収縮機能が低下した心不全であり、拡張機能の低下した心不全に対する治療に関してはまだ研究段階です。
 収縮機能が低下した心不全において、現在のガイドラインで使用が推奨されている薬は、ACE阻害薬(そがいやく)、AⅡ受容体阻害薬(ARB)、β遮断薬(べーたしゃだんやく)、抗アルドステロン薬、アミオダロンです。このほか効果が期待されるのは、利尿薬、血管拡張薬、ジギタリスです。心不全の状態においてその推奨の度合いは違いますので、適切な評価を経て、薬を選択する必要があります。(3)~(12)

[治療とケア]原因となっている病気の治療を行う
[評価]☆☆
[評価のポイント] 心筋梗塞や高血圧、心臓弁膜症など、背景に原因となる病気があるときには、その病気を治療することで心不全がおこりにくくなります。

[治療とケア]塩分を制限する
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 塩分のとりすぎは心不全を悪化させる原因(増悪因子)として知られています。塩分7グラム以下に制限することで、心不全がおこりにくくなることが知られており、重症の心不全では1日の塩分摂取を3グラム以下にするよう推奨するガイドラインもあります。心不全に関する減塩の効果は、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。(1)(13)

[治療とケア]禁煙する
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 喫煙は、多くの心疾患の危険因子です。禁煙により死亡率や再入院率が低下することも非常に信頼性の高い臨床研究によって示されており、喫煙者には禁煙が推奨されています。(1)(14)(15)

[治療とケア]インフルエンザの予防接種を行う
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] インフルエンザの予防接種をすることで冬季の死亡率の低下が示唆されているため、心不全がある場合には、予防接種が望ましいと考えられています。(1)

[治療とケア]体重と尿量を管理する
[評価]☆☆
[評価のポイント] 心不全の状態が悪化しているときは利尿薬を用います。その際は尿量と体重をモニタリングする必要があります。心不全が落ち着いた後も毎日体重を測定し、心不全が再び悪くなっていないかどうかを確認する必要があります。これは再入院を予防するための自己管理の一つとして推奨されています。(1)


よく使われている薬をEBMでチェック

ACE阻害薬
[薬名]レニベース(エナラプリルマレイン酸塩)(3)~(5)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]ロンゲス/ゼストリル(リシノプリル水和物)(3)~(5)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]カプトリル(カプトプリル)(3)~(5)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] いずれの薬剤も数多くの非常に信頼性の高い大規模臨床試験で心不全の患者さんの生命予後を改善することが確認されています。左室機能の低下した心不全の患者さんだけではなく、症状のない心不全の患者さんにもその有効性は確認されており、使用が推奨されています。現時点では心不全の第一選択薬と考えてもよい薬剤ですが、電解質異常(カリウムの上昇)や腎機能低下などには留意する必要があります。

AⅡ受容体阻害薬(ARB)
[薬名]ブロプレス(カンデサルタンシレキシチル)(6)(7)
[評価]☆☆☆☆
[薬名]ニューロタン(ロサルタンカリウム)(6)(7)
[評価]☆☆☆☆
[薬名]ディオバン(バルサルタン)(6)(7)
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] ACE阻害薬と同等の臨床的な有効性が確認されているものもあり、副作用でACE阻害薬が使用できない心不全の患者さんに対しておもに用いられています。

利尿薬
[薬名]ラシックス(フロセミド)
[評価]☆☆
[評価のポイント] 利尿薬は、尿量を増やし水分の排出を促進することで心不全の症状を改善します。ループ利尿薬のどれが一番予後に改善効果があるのかというエビデンスは、まだありません。
[薬名]サムスカ(トルバプタン)
[評価]☆☆
[評価のポイント] ループ利尿薬よりも臓器のうっ血を取りのぞく作用が強いといわれています。慢性心不全の患者さんの体重の減少や症状の改善には有効といわれていますが、予後の改善効果に関してはまだ明らかになっていません。

抗アルドステロン薬
[薬名]アルダクトンA(スピロノラクトン)(8)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] スピロノラクトンは、重症の心不全で全死亡率、心不全死亡率、突然死のいずれをも減少させることが確認されていますが、血中のカリウム上昇効果があり、ほかの薬剤と併用する場合には慎重を期す必要があります。

利尿薬
[薬名]ハンプ(カルペリチド)(9)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] カルペリチドは、心機能が急に悪化した時に使用されます。死亡・再入院が抑制されるとの報告はありますが、大規模な臨床試験はありません。

β遮断薬
[薬名]アーチスト(カルベジロール)(10)~(12)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]メインテート(ビソプロロールフマル酸塩)(10)~(12)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]セロケン/ロプレソール(メトプロロール酒石酸塩)(10)~(12)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 重症心不全患者が多く参加した研究は少ないですが、軽度から中等度までの心不全患者へのβ遮断薬の効果は、非常に信頼性の高い大規模な臨床試験で確認されています。

ジギタリス製剤
[薬名]ジゴシン(ジゴキシン)
[評価]☆☆
[評価のポイント] ジゴキシンは、心房細動をもつ心不全患者に対して、その症状を改善する目的で使用されますが、慢性心不全における予後改善効果は確認できていません。

抗不整脈薬
[薬名]アンカロン(アミオダロン塩酸塩)(16)(17)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 心不全患者の突然死において問題になるのが不整脈ですが、この死亡率を減らす効果が期待されている抗不整脈薬です。ただし、複数の臨床試験での結果は必ずしも一致しておらず、ばらつきがみられています。

強心薬
[薬名]アカルディ(ピモベンダン)
[評価]☆☆
[評価のポイント] 強心薬の心不全に対する長期生存率の改善効果を示した大規模な臨床試験はありませんが、状況によっては使用を考慮されます。

硝酸薬
[薬名]ミリスロール(ニトログリセリン)
[評価]☆☆
[薬名]ニトロール(硝酸イソソルビド)
[評価]☆☆
[評価のポイント] 心臓の機能が急激に悪くなったときに使用されることが多い薬ですが、その生命予後の改善効果は不明です。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
急性期の治療をまず行い、慢性期の治療につなげる
 心不全は心臓のポンプ機能が低下し、体が必要とする血液を送りだせなくなった状態です。したがって、治療は心不全状態そのものに対する治療と、原因となっているさまざまな病気ごとの治療に分けて進められます。心不全に対する治療は、さらに急性期の治療と慢性期の治療に分かれます。
 急性心不全に対する治療は、まず安静にして酸素吸入(必要があれば人工呼吸器管理)によって低酸素状態を改善させ、血管拡張薬や利尿薬を用いてうっ血を減少させます。これにより心臓への負担を減らします。心不全の状態が落ち着いたら、ACE阻害薬、ARB、β遮断薬、利尿薬などを状態に応じて用いることになります。並行して心臓を悪くしている原因となっている病気が何なのかを検査し、治療を行います。

原因となる病気で多い心筋梗塞では禁煙、生活習慣病のコントロールを
 原因となる病気でもっとも多いのは心筋梗塞で、心筋梗塞をくり返したあとに生じます。その場合には心筋梗塞と同じ治療が行われます。喫煙者は禁煙し、ACE阻害薬や硝酸薬、アスピリンなどの服用を続け、脂質異常症や肥満の改善、糖尿病や高血圧のコントロールなどを行います。
 弁膜症や心筋炎、心筋症、腎不全、甲状腺疾患などが原因となっている心不全では、それぞれに特有の治療を行う必要があります。

(1)循環器病ガイドシリーズ. 慢性心不全治療ガイドライン (2010年改訂版). http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2010_matsuzaki_h.pdf
(2)循環器病ガイドシリーズ. 急性心不全治療ガイドライン (2011年改訂版). http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_izumi_h.pdf
(3)Effects of enalapril on mortality in severe congestive heartfailure. Results of the Cooperative North Scandinavian Enalapril Survival Study (CONSENSUS). The CONSENSUSTrial Study Group. N Eng J Med. 1987;316:1429-1435.
(4)Effect of enalapril on mortality and the development ofheart failure in asymptomatic patients with reduced leftventricular ejection fractions. The SOLVD Investigattors. N Eng J Med. 1992;327:685-691.
(5)Effect of enalapril on survival in patients with reduced left ventricular ejection fractions and congestive heart failure. The SOLVD Investigators. N Eng J Med. 1991;325:293-302.
(6)Granger CB, McMurray JJ, Yusuf S, et al. Effects of candesartan in patients with chronic heart failure and reduced left-ventricular systolic function intolerant to angiotensinconverting-enzyme inhibitors: the CHARM-Alternative trial. Lancet. 2003;362:772-776.
(7)Pfeffer MA, McMurray JJ, Velazquez EJ, et al. Valsartan, captopril, or both in myocardial infarction complicated by heart failure, left ventricular dysfunction, or both. N Eng JMed. 2003;349:1893-1906.
(8)Pitt B, Zannad F, Remme WJ, et al. The effect of spironolactone on morbidity and mortality in patients with severe heart failure. Randomized Aldactone Evaluation Study Investigators. N Eng J Med. 1999;341:709-717.
(9)Hata N, Seino Y, Tsutamoto T, et al. Effects of carperitideon the long-term prognosis of patients with acutedecompensated chronic heart failure: the PROTECT multicenter randomized controlled study. Circ J. 2008;72:1787-1793.
(10)Packer M, Bristow MR, Cohn JN, et al. The effect of carvedilol on morbidity and mortality in patients with chronic heart failure. U.S. Carvedilol Heart Failure Study Group. N Eng J Med. 1996;334:1349-1355.
(11)Effect of metoprolol CR/XL in chronic heart failure:metoprolol CR/XL Randomised Intervention Trial inCongestive Heart Failure (MERIT-HF). Lancet. 1999;353:2001-2007.
(12)Packer M, Coats AJ, Fowler MB, et al. Effect of carvedilol on survival in severe chronic heart failure. N Eng J Med. 2001;344:1651-1658.
(13)Konstam MA, Dracup K, Baker DW, et al. Heart failure: evaluation and care of patients with left ventricular systolic dysfunction. J Card Failure. 1995;1:183-187.
(14)Evangelista LS, Doering LV, Dracup K. Usefulness of a history of tobacco and alcohol use in predicting multiple heart failure readmissions among veterans. Am J Cardiol. 2000;86:1339-1342.
(15)Suskin N, Sheth T, Negassa A, et al. Relationship of current and past smoking to mortality and morbidity in patients with left ventricular dysfunction. J Am CollCardiol. 2001;37:1677-1682.
(16)Massie BM, Fisher SG, Radford M, et al. Effect of amiodarone on clinical status and left ventricular function in patients with congestive heart failure. CHF-STAT Investigators. Circulation. 1996;93:2128-2134.
(17)Doval HC, Nul DR, Grancelli HO, et al. Randomised trial of low-dose amiodarone in severe congestive heart failure. Grupo de Estudio de la Sobrevidaen la InsuficienciaCardiacaen Argentina (GESICA). Lancet. 1994;344:493-498.

出典:法研「EBM 正しい治療がわかる本」
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