Rakuten infoseek

辞書

動機づけ【どうきづけ】

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

動機づけ
どうきづけ
motivation
人間やその他の動物に,目的志向的行動を喚起させ,それを維持し,さらにその活動のパターンを統制していく過程。したがってこれには,(1) 活動を喚起させる機能,(2) 喚起された活動をある目標に方向づける志向機能,(3) 種々な活動を新しい一つの総合的な行動に体制化する機能などが指摘される。
動機づけの過程には,動因または動機,道具的反応または手段,さらに誘因または目標の要因が含まれ,これらの機能的関連が行動傾向を決定する。
欲求と願望は人間のパーソナリティの主要な構成要素であると認められてきたが,C.ダーウィンの理論が環境への心理的適応に適用されはじめると,動機づけの問題が注目され,ダーウィンの理論と動機づけの間に,次のような2つの重要な関連が認められた。まず,動物界の一員として,人間は少くとも食物,水,セックスなどに対する本能に支配されている。次に,動機づけの能力のような行動的特徴は,肉体的特徴と同様に進化の目的に適している。
心理学界では 19世紀末から 20世紀初めまで,あらゆる行動は本能的なものであるとされていたが,その主張を証明する方法がないうえに,先天的と考えられていた行動の大半が,学習や経験で変えうることが実験で証明された。 20世紀初頭,イギリス系アメリカ人の心理学者 W.マクドゥーガルは,人間の行動を動機づけるのは基本的に本能であるとして,知覚や感情に対する動機づけの支配力を強調した。 S.フロイトも,人間の行動は不合理な本能的高まりに基づくものとし,人間を基本的に動機づけるのはエロス (生や性の本能) とタナトス (死の本能) であるとした。アメリカの心理学者 R.ウッドワースは,本能という議論の多い言葉に代え,人間やその他の動物に行動を喚起させる作用として,動因という用語を提起した。アメリカの神経学者 W.キャノンは,動機づけの主要機能を身体の調整と考え,ホメオスタシスという言葉を用いた。非生物学的動因は学習された動因と呼ばれ,生物学的動因とともに動機づけの力をもつと考えられた。その後,動因自体も恒常的,非目的的なエネルギー状態であるとの主張がなされた。緊張を軽減しようとするこうしたエネルギーの傾向は,過去の経験の強化を通じて学習された習慣に基づいている。 1920年代から 50年代までは動因理論が支配的であったが,やがて神経学の実験によって,緊張の軽減は本質的に学習による強化であるとの理論に反する覚醒状態が発見された。そのうえ,脳にはいわゆる快中枢があり,そこを人工的に刺激するとネズミは疲労で倒れるまで動き回る。また,新しい環境を探ったり,別の動物を見たりするような単純な刺激にすぎない報酬の場合でさえ,人間を含めて動物は学習することが証明された。
人間に力を与える仕組みの代りに,人間の欲求を研究した心理学者もいた。 H.マレーは一次的 (先天的) と二次的 (後天的) とに分けた欲求のリストを発表し,こうした欲求が人間の行動を目的志向的にする,とした。 A.マズローは,最下位に生理的欲求があり,安全の欲求,社会的欲求,自我欲求,そして最上位に自己実現や種々の認知や美的な目標を求める欲求があるとする,欲求段階説を説き,下位の欲求を満たされてから,上位の欲求が高まると考えた。行動の面からみると,動機づけには必ず目標を伴う。一般的に,人は目標を強く求めたり望んだりすればするほど,個人の気質や教育や自己イメージなどに邪魔されるものの,目標を達成しやすい。行動療法においては目標に対する態度の重要性を強調し,求める目標に対して人間が感じる両面価値感情,目標を明確に心に描く能力,目標をより小さな達成可能な課題に分ける能力という動機づけに影響する3要素が考えられた。認知心理学では,動機はそれに関連した認識領域において人を敏感にすることがわかった。成績に対して高い欲求をもつ人は,画面上に短時間映し出された成績に関連する言葉をすばやく認識できる傾向がある。苦手な科目は得意な科目より大きく見え,なんとかしたいと思っている科目に対して,より大きな刺激を受ける。心理学ではまた,動機づけは人の職業選択に大きく影響すると考えられた。たとえば,成績に対する高い欲求は,結果が明確に出て個人的な責任感を伴い適度な危険に挑戦できる企業家的な職業によって,最も満たされやすい。

出典:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
Copyright (c) 2014 Britannica Japan Co., Ltd. All rights reserved.
それぞれの記述は執筆時点でのもので、常に最新の内容であることを保証するものではありません。

世界大百科事典 第2版

どうきづけ【動機づけ motivation】
生物を行動に駆りたて目標に向かわせる内的な過程。モティベーションともいう。すなわち,(1)生物になんらかの不均衡状態が生じると,(2)これを解消しようとする内的状態(動機motiveまたは動因drive)が起こり,(3)目標に向かって行動がひき起こされる,という過程をさす。さらにこの用語は,そのような過程を効果的にひき起こすための操作の意味でも使われる。従来動機づけは,生物の不均衡状態にもとづき,外にある目標によってひき起こされると考えられてきたが,近年,行動自体に内在する推進力によるものもあることが指摘されるようになった。

出典:株式会社平凡社
Copyright (c) Heibonsha Limited, Publishers, Tokyo. All rights reserved.

日本大百科全書(ニッポニカ)

動機づけ
どうきづけ
motivation
行動を生じる内的機制について用いられる術語。動因と同じ意味で用いられることもあるが、動因―誘因の関連を総称する。動機づけは生理的要求から複雑な社会的要求に至るまで広くいわれ、その意味もどのような要求についてかで異なっている。あれが欲しい、そこに行きたい、その人に会いたい、その地位につきたいという数々の意図・目標をもった動機づけが日常行動を生じさせているが、動機づけは経験に基づいた予想・計画と結び付いて実行される。実行の結果が積極的結果をもたらせば、このような計画に従った行動が維持され、消極的結果をもたらせば変更される。動機づけは計画と実行との橋渡しをする機構でもある。[小川 隆]

認知的不協和

動機づけが諸動因―誘因間で矛盾する場合がある。愛煙家は喫煙が肺癌(はいがん)や心臓病の原因となることを聞くと、喫煙を続ける欲求とこれを抑制しようとする意図との間にたたされる。この状態を認知的不協和cognitive dissonanceというが、動機づけは不協和を低減するように働き、喫煙を続けようとすれば、その害を説く報告を信用しないとか、その反証を探すとか、それについての印刷物を見ないようにするとかする。喫煙という誘因は愛煙家にとって積極的価値と消極的価値とをもっているが、いくつかの誘因が積極的価値あるいは消極的価値を拮抗(きっこう)してもつ場合もあり、行動の選択が迫られることもある(葛藤(かっとう)conflict)。[小川 隆]

動機づけと自己制御

動機づけられた行動が停滞しないで実行されるには、自己制御self-controlが必要である。たとえば、翌朝、起床するために目覚し時計を用意し、時計のベルをじかに手で押し止められないように床から離れた棚に置くのは、睡眠を続けるよりも起床の価値が高いからである。翌朝、価値の逆転があるかもしれないが、睡眠を続けるには、かえって起床してベルを止めねばならないからである。
 要求に基づく動機づけが他の要求や外的障害によって阻止され、これが長期にわたる場合、すなわち要求阻止frustrationが生じると、これを脱却しようとして、攻撃aggression、転位displacement、代償substitutionなどの退行した行動が発生する。これは要求阻止を解消しようとする防衛機構defense mechanismの働きとみられている。
 動機づけの強弱は行動の達成要求achievement needを変化させる。学生に数学などの課題を解かせた実験で、達成要求の水準の高いものは、課題を重ねるにしたがってしだいに成績の改良を加えたのに対し、低いものはこの傾向が認められなかった。したがって、動機づけが学習の効果を制御することがわかる。[小川 隆]

出典:小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)
(C)Shogakukan Inc.
それぞれの解説は執筆時点のもので、常に最新の内容であることを保証するものではありません。

最新 心理学事典

どうきづけ
動機づけ
motivation
行動の理由を考えるときに用いられる総合的概念であり,行動を一定の方向に向けて生起させ,持続させる過程や機能の全般を指す。モチベーションともいう。ある行動がどのようなときに起こり,継続し,どの方向を向いているのかを説明するときに用いられる,行動の原因全般を示す用語である。それゆえ,知覚,学習,思考,発達をはじめとするすべての行動を理解しようとするときには欠くことのできない概念でもある。換言すれば,動機づけは行動を説明する諸概念の上位の概念としても把握することができる。ごく一般的には,行動は,主体がなんらかの要求(欲求)needをもち,同時に要求の対象(誘因incentive)が存在するときに生起すると考えられている。さらに,要求と誘因が出会うことによって生じ,行動の直接的な推進力となる動因driveの概念もこの過程に加えられることがある。動機づけの概念は,これら行動の発現と維持にかかわるすべての要因を含んだものと考えられる。

 ヘックハウゼンHeckhausen,H.は,このような動機づけの概念が必要とされる理由として,以下のような現象を挙げている。

⑴行動の個人差 われわれの行動は環境に支配されることが多い。しかし,同じ環境の中でもその行動を詳細に見るとさまざまに異なった様子が見られる。たとえば,電車の中では,居眠りをする人,本を読む人,メールをする人などさまざまな行動が見られる。このような行動の個人差は,性格の概念のみでは把握することに限界があり,人のもつ要求と環境との相互作用,すなわち動機づけの過程を考慮することによってより明らかになる。

⑵行動の持続性 いったん生起した行動は,完結を見るまで指向性と秩序をもって経過する。また,中断された行動に対しては強いかつ持続的な心的努力が傾けられる。これらより行動のエネルギー的な側面を理解する必要があり,動機づけの概念はこれを扱うことができる。

⑶行動の偏向 入浴中,洗髪をしたことを忘れてもう一度髪を洗いそうになるなど,われわれはつねに合理的な行動をするとは限らず,時には逸脱した行動をとる。

 このようにわれわれの行動はつねに環境に支配されるものではなく,また,つねに合理的なものであるとは限らない。自らの意志で,合理的であるかないかではなく,より満足のいく行動を行なおうとする現実の人間を考えるうえで,動機づけの概念は不可欠なものである。動機づけ概念はこのように広いものであるためそのとらえ方は,各研究パラダイムによって異なり,確定的なものはない。以下にさまざまな立場からの動機づけ研究について簡単に触れる。

【1次的動機primary drive】 摂食,飲水,睡眠など身体の維持に不可欠な欲求に支えられた行動を1次的動機に基づいた行動とよび,さまざまな研究がなされてきた。われわれの行動は本能instinctとよばれる生得的に与えられた動機づけ要因によって引き起こされるという考え方を,本能論instinct theoryとよぶ。精神分析学者フロイトFreud,S.は,自己保存および種の維持を目的とするエロスの欲動(本能)と自己や種を無機的状態に導こうとする死の欲動(本能)とが対立しながら行動を支配するという理論を提出した。また,マクドゥーガルMcDougall,W.(1908)は,社会的行動を含む人間の行動を本能から生じるものと考え,性,逃避,拒否,自己主張,群居などの本能のリストを提出している。この後さまざまな研究者によって数多くの本能のリストが示され,一時は数千種類の本能が仮定され(Bernard,L.L.,1924),「本能を信じる本能」という副題をもつ論文(Ayles,C.E.,1921)まで発表された。しかし,特定の本能を分類するのみでは行動発現のメカニズムを述べることにはならず,また容易に循環論に陥ることになるという理由から本能に関する研究はしだいに衰微した。

 動物を用いた研究により,本能の概念は再び注目されることになった。ローレンツLorenz,K.を中心とする比較行動学の研究者たちは,動物の行動を通じて解発刺激や転位あるいは真空行動などの概念を検討し,行動は生得的要因によって大いに影響を受けることを示した。生得的に行動が規定されるという本能論とは逆に,行動は生後の経験や学習によって規定されるという考え方を学習論learning theoryとよぶ。この考え方の基礎はパブロフPavlov,I.P.の条件反射の研究に始まり,行動主義心理学とよばれる分野において動物実験を中心に行動の学習過程が詳細に検討された。

 現在では両理論の折衷的な考え方が採用されることが多く,行動のある側面では遺伝的な要素が強い本能論的な考え方が支持され,また別の側面では経験的な要素が強い学習論的な考え方が支持されている。たとえば知能に関しては,両者がともに影響を与えるとされている。

 先述した学習論において採用されている動機づけに関する構想を動因低減説drive reduction theoryとよぶ。行動発現における生得的要因の影響を重視する点では本能論と同じ傾向をもつが,生理学的過程に注目することによって,本能論では言及されなかった行動発現のメカニズムについて考察しようとする立場である。キャノンCannon,W.B.は生理学的過程を中心とする個体内部の平衡状態が失われるとき,これを回復させるために行動が生起するというホメオスタシスhomeostasisの原理を提唱した。一方,行動主義心理学者のハルHull,C.L.は,ホメオスタティックな不均衡の状態を解消するために要求および動因が生起し,それに導かれた行動によって動因や要求が低減されることが当該行動を強化するための最も大きな要因であるとした。

 ハルの動因低減説は,基本的にはワトソンWatson,J.B.の刺激-反応理論(S-R説)を踏襲したものであるが,行動にホメオスタシスの概念を適用し,生体内の環境が平衡状態から遠ざかることによって動機づけが生じるとするのが特徴である。生体内に不均衡が生じると,それが動因となってまずは試行錯誤的な反応が生じるようになる。そして特定の反応の直後に動因が低減すると,その動因を引き起こした不均衡は刺激としてその反応と連合し,その反応がより多く生起するようになる。この繰り返しによって,反応が動因を低減させるごとに刺激と反応の連合は強化されてゆく。ハルはこの繰り返しの過程を重視し,特定の行動が引き起こされるためには動因()だけではなく,反応が習慣habitとなっていることが不可欠であるとして,習慣強度habit strength()の概念を提唱した。習慣強度は反応とそれによる動因の低減によって増大してゆく関数であり,行動が生起する確率すなわち反応ポテンシャルreaction potential()は,動因と習慣強度の積によって増減する。また反応を抑制する要因としては,蓄積される疲労など,反応が繰り返されることによって高まる負の要因として反応制止reactive inhibition(),その反応に対して苦痛(実験室においては電気刺激など)が生じる場合にその反応が抑制される負の要因として条件性制止conditioned inhibition()が考えられた。したがって反応ポテンシャルを表わす式は×--となり,動因と習慣強度のどちらが欠けても行動は生起せず,両者がともに高くかつ負の要因が少ないときに行動が生起すると考えられた。

 摂食,飲水,睡眠といった生体の維持に直結する1次的動機に基づいた行動の生起は,動因低減説によく合致するものである。これらのうち重要なものの一つは飲水の欲求であり,人間には口渇感として感じられる。飲水は血液の浸透圧を一定に保つうえで不可欠で,人間は3~4日の絶水で死に至るとされている。飲水の欲求は血液の浸透圧が高まることによって生じるが,血管中に保持できる水の分量には限界があるため,体重が水によって増加している場合は飲水の欲求は抑制され,尿の排出との兼合いで血液の浸透圧が調節される。

 摂食の欲求は主に血糖値の低下が刺激となって生じ,人間には飢えとして感じられる。摂食行動により体内の血糖が回復することで,摂食の欲求は収まる。血糖だけではなく特定のビタミンやミネラルの不足も摂食の欲求に影響していると考えられており,栄養学の知識のない幼児であっても,自由に食物を選べる環境において,ある程度栄養のバランスの取れた食物を選ぶことが知られている(カフェテリア実験)。

 睡眠は周期的に生じる意識の消失であり,その機能についてはよくわかっていない部分も多い。睡眠もまた生体の維持には不可欠であり,およそ7日間の睡眠の剝奪によって,人間は死に至るとされている。摂食,飲水,睡眠が生体の維持に直結しているのに対し,やはり1次的動機に分類される性の欲求については,生殖活動の欠乏は生体の維持には影響しないが,生体内のホルモンバランスが性の欲求に大きく影響を与えており,やはりホメオスタシスに基づくといってよい。

 これら1次的動機に基づく行動は,生体内に欠乏や過剰があるときに,食物や水を探索して摂取しようという欲求・動因が高まることで生起する。しかし,行動は生理学的な不均衡の存在のみでは生じない。生理学的な需要が満たされている状況であっても,好みの食物や飲料,また柔らかい布団などによって,摂食その他の行動が引き起こされることがある。動因低減説を発展させたスペンスSpence,K.W.(1956)の誘因動機づけ理論incentive motivation theoryでは,クレスピCrespi,L.P.によって見いだされた報酬の量によって行動が変化することを示唆するクレスピ効果Crespi effectなどの現象を用い,内的な動因(たとえば飢え)ではなく,誘因である外的な刺激や目標(たとえば食物)によって行動が引き起こされることが示されている。この場合,特定の食物に魅力を感じるためには,その食物は自分が好むものだといった知識が必要となるため,誘因動機づけにおいては経験が重要な要素となる。

【2次的動機secondary drive】 生得的ないし生理学的な過程とは,半ば独立に人間の発達過程での経験が2次的動機を作って行動を発現させる原因になるという立場である。ここでは人がどのように状況を理解するかという認知機能が重視され,行動は目標達成への期待と目標の価値(誘因価)との関数であると仮定するアトキンソンAtkinson,J.W.らの達成動機に関する期待-価値理論expectancy-value theoryや,入力された刺激となんらかの内的な基準とのずれが行動を発現させるというバーラインBerlyne,D.E.らの内発的動機づけ理論intrinsic motivation theoryがその例として挙げられよう。

 達成動機achievement motivationは,高い目標を設定し,その目標達成のために困難を乗り越えてやり遂げようとする行動の動機のことをいう。マックレランドMcClelland,D.C.ら(1953)は,マレーMurray,H.が考案したTAT(主題統覚検査法)によって達成動機の高低に関する個人差を測定する方法を開発し,これを契機として達成動機に関する研究は急速に進んだ。そして,一般に高い達成動機をもつ人の行動特性として,①適度の困難や危険を伴う課題に果敢に挑戦しようとする,②自分の活動の成果を知りたがる,③責任感が強く,自分のくだした決定に対しては潔く責任を負う,④一緒に働く同僚としては,親しい人よりも有能な人を選ぶ傾向にある,ことなどが明らかにされている。達成動機の高低に個人差を生み出す発達的要因の一つとして,ウィンターボトムWinterbottom,M.R.(1958)は,母親の養育態度に注目し,幼児期から児童期において,母親の要求的しつけ(~しましょうね)が制限的しつけ(~してはいけません)より子どもの達成動機を高めることを明らかにした。

 アトキンソンが提唱した動機づけモデル(期待-価値理論)では,達成状況における達成行動の強さ(傾向)は,個人のパーソナリティ要因である達成動機(成功を達成したいという欲求)から失敗回避動機(失敗を避けたいという欲求)を減じたものと,認知的要因である個人によって評価された課題遂行の成功確率および課題成功への魅力である誘因価の積によって定式化される。この式の予測に従えば,達成動機が一定で成功確率が0.5のときに達成行動が最も生起しやすくなる。このモデルの妥当性に関しては,多くの実験的研究による検証が試みられ,モデルを支持する実験結果が数多く報告されている。

 しかし,課題選択行動に関して,失敗回避動機の高い者が,簡単な課題を選択するだけでなく,極端に困難な課題も選択し,しかも粘り強く課題に取り組むという事実は,アトキンソンのモデルではうまく説明できない。これ以外にも,アトキンソンのモデルを支持しない研究結果も多く報告されるようになり,それに代わる達成行動の説明概念として,認知的な帰属理論に立脚するワイナーWeiner,B.の理論と後述するホーナーHorner,M.S.の成功回避動機の概念が登場した。

 達成課題での成功・失敗の帰属と動機づけに関するワイナーの理論では,成功・失敗という行動の結果そのものではなく,その結果を生起させた原因を何に求めるかが,次の行動を予測する重要な要因であるとされた。ワイナー(1972)は,ハイダーHeider,F.(1958)が達成課題での成功・失敗の原因として仮定した能力,努力,課題の困難さ,運の四つの要因を,統制の位置locus of control(内的-外的)と安定性stability(安定-不安定)の2次元でとらえるモデルを提唱した。その後ワイナーは,この2次元モデルにさらに統制可能性controllability(可能-不可能)の次元を加え,3次元モデルとして精緻化した。

 行動結果をどのような要因に帰属するかに関しては,個人によってかなり固定的・安定的な傾向が認められ,それは原因帰属様式causal attribution styleとよばれる。これによれば,達成動機の高い人は,成功・失敗の原因を内的に帰属させる傾向が強く,一方,達成動機の低い人は外的帰属傾向が強いことが知られている。このような原因帰属様式の違いによって,達成動機の高い人は高い動機水準を維持することが可能になり,低い人はいつまでも達成行動が低いレベルに止まることになる。バンデューラBandura,A.は,達成課題の目標を現実的かつ具体的に決められるかどうかと達成動機および課題の成績が密接に関連していることを指摘し,目標達成のために必要な行動を効果的に遂行できるという確信を自己効力感self-efficacyとよんだ。自己効力感は課題遂行における実行性を高める要因であり,逆に学習性無力感の研究が示すように,自分の外界への働きかけが効果をなさず統制が無効であると感じられると,効力感が失われ達成動機が低下する。

 研究初期の主として男性を研究対象とした達成行動の研究から,しだいに女性を対象にした達成行動の研究が増えるにつれて,従来のアトキンソンのモデルが予測する結果と一貫しないという報告が見られるようになり,達成動機の性差に注目が集まるようになった。その中でホーナー(1972,1974)は,男女間には達成動機の構造において基本的な差異が存在しており,伝統的に「男性の場」と考えられてきた職場での達成行動を予見するために生み出された,男性中心の達成動機のモデルでは,女性の達成行動は理解できないと主張した。そして,達成動機の中に,従来の成功への欲求,失敗を回避する欲求に加えて,成功恐怖fear of successを組み入れるべきだと主張した。この成功恐怖とは,成功することを恐れ,成功することを回避しようとする動機であるが,これは男性優位の社会で男性に伍して競争し,その結果として勝ち取った成功に付随するであろう「女らしくない」という否定的なラベルや,仲間外れのような社会的拒絶といった不都合な結果を予期し,それを恐れる一種の不安傾向ということができる。

 女性の達成行動を説明する動機としてホーナー(1968)によって提唱された成功恐怖を仮定する成功回避動機motive to avoid successの概念は,1960年代後半から70年代前半にかけてアメリカで吹き荒れたウィメンズ・リブ運動の影響もあって,社会的に大きな関心をよび,その後さまざまな側面からその妥当性に関する検討が行なわれた。しかし,その結果は必ずしもホーナーの仮説を支持するものではなく,成功回避動機における性差はあまり明らかではなかった。そして最近は,この成功恐怖を女性に特有なものとして限定するのではなく,男性にも女性にも等しく見られる「性にそぐわない成功への恐怖fear of gender inappropriate success」という概念で広くとらえた方がよいとする考えが主流になってきている。

 親和動機affiliation motivationとは,他の人に近づき,好意を交わし,友好的関係を取り結び,それを維持しようとする動機である。他者に対する好意的な感情や態度をその基盤としており,それが対人間の物理的近接を生起させ,集団形成の至近要因の一つになっている。母親や養育者など特定の対象との近接を求め,これを維持しようとする個体の傾性であるアタッチメントattachment(愛着)は,親和動機の進化生物学的起源ととらえることが可能であり,アタッチメントの充足を通して得られる「安全であるという感覚」あるいは「安心感felt security」は,人間に限らず広く動物の生存にとって大きな適応的意義を有している。シャクターSchacter,S.(1958)は,不安が親和動機を高める重要な要因になっているという仮説について,実験的研究による検討を行なった。その結果,他者と近接し一緒にいることで不安の低減を試みたり,自己の情動的反応の適切性を他者の反応との比較によって評価するために親和性が高まることを明らかにした。

 アメリカの研究では,親和動機と達成動機は志向する方向性が相反するものとしてとらえられ,親和動機の高い者は達成動機は低いという関係にあることが指摘されている。しかし日本の研究では,必ずしも両者は相反する動機とはされていない。

【内発的動機づけintrinsic motivation】 われわれの行動は,なんらかの目標に達するための手段であることが多い。しかし,そのような目標をもたない行動,たとえばテレビを見たりゲームをしたりするような,とくに何かを得られるわけでもないのに好んでする行動も生活の中では頻繁に見られる。遊びや芸術活動に代表されるこのような行動を引き起こす動機づけは内発的動機づけとよばれ,行動それ自体のための行動や当の行動以外には明白な報酬がまったく存在しない行動を支える動機づけと定義されている。この定義に従えば,勉強や仕事のような何かの手段であることの多い行動も,本人が,もし,そのためのみに自発的に行なうと理解していれば,内発的動機づけに基づいた行動であると考えることができる。1950年代以降,内発的動機づけがどのようなときに高まるかについて,主に次の二つの立場から研究が行なわれてきた。

⑴認知論的研究 行動は1次的要求を満足させようとする動因によって起こるとする動因低減説への批判のかたちで現われた認知論的研究は,知的好奇心に代表されるような認知的側面を内発的動機づけの決定因と考えた。バーライン(1957)は,人が環境をどのように認知したときにその環境を自発的により長く見るのかを検討するために,さまざまな実験室実験を行なっている。たとえば,頭部はゾウ,胴体部分はイヌの形をした絵を提示し,そのような現実とは異なった絵がより長く被験者の注視を導くことを確認した。彼はこれらの実験により,新奇さ,複雑さ,変化,不調和,曖昧さなどの認知的特性が内発的動機づけを高める要因であるとした。さらにハントHunt.J.McV.(1965)は,これらの特性は生活体のもつ知識構造と取り入れられた情報との間のズレによって引き起こされると考え,適度なズレをもつ情報に生活体は引きつけられ内発的動機づけが高められるとした。すなわち,理解できそうで理解できない対象に対して内発的動機づけが高まると考えたのである。

⑵実験社会心理学的研究 1970年代に開始された接近法では,内発的動機づけと報酬との関係について斬新な実験的検討が行なわれた。ディシDeci.E.L.(1971,1972)は,SOMAとよばれるブロックパズルを課題とし,金銭的報酬,社会的報酬(褒める),無報酬の三つの条件間において内発的動機づけの高さがどのように異なるかについて検討した。その結果,金銭的な報酬を与えられた被験者はそうでない被験者に比べて内発的動機づけが低く,社会的報酬を与えられた被験者は内発的動機づけが高くなった。この結果は,金銭的報酬によって動機づけが高まると考えられていた従来の考え方に真っ向から対立するものであったため,多くの追試が行なわれた。しかし,その結果はほぼディシの研究を支持するものであった。

 ディシ(1975)は,以下に挙げる認知的評価理論cognitive evaluation theoryを用いて,この一見不思議な現象についての考察を行なっている。彼によれば,すべての報酬は二つの機能をもつ。一つは受け手の行動を制御する統制的機能であり,一つは受け手にコンピテンス(有能さ)などの自己に関する情報を提供する情報的機能である。統制的機能は,受け手が認知した自らの行動の原因を内部から外部へと変化させる。すなわち,その行動を自己自身で行なっていると考えていたにもかかわらず,統制的機能が導入されることにより,だれかにさせられた行動であるという考え方に変化させられ,内発的動機づけが低下したというプロセスが考えられる。

 ディシはこの論を発展させ,内発的動機づけを高める最も重要な要因としてコンピテンスと自己決定性を挙げている。すなわちその行為が,統制的なものではなく自己決定的に行なわれ,良い情報的機能によってコンピテンスがもたらされるときに内発的動機づけが高くなると考えている。また,この両者の中では自己決定性がより重要なものであるとされている。勉強を自らしようとしているときに人からそれを言われると内発的動機づけが下がるのは,この自己決定性が阻害されるために起こると考えられるのである。 →アタッチメント理論 →達成動機 →欲求
〔赤井 誠生・安藤 明人〕

出典:最新 心理学事典
Copyright (c) Heibonsha Limited, Publishers, Tokyo. All rights reserved.
それぞれの記述は執筆時点でのもので、常に最新の内容であることを保証するものではありません。

動機づけ」の用語解説はコトバンクが提供しています。

動機づけの関連情報

他サービスで検索

(C)The Asahi Shimbun Company /VOYAGE MARKETING, Inc. All rights reserved.
No reproduction or republication without written permission.