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前立腺肥大症【ぜんりつせんひだいしょう】

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

前立腺肥大症
ぜんりつせんひだいしょう
benign prostatic hypertrophy; BPH
前立腺が病的に肥大すること。普通は 60歳以上で発病する。真の原因は不明だが,ホルモン平衡失調とされる。初発症状としては頻尿,特に夜間頻尿が多く,肥大が進行すると,排尿に時間がかかり,出にくくなる。寒冷や飲酒を誘因として,突然に尿閉となることもある。さらに進むと,腎機能が侵されて,生命にもかかわる。治療は,内服薬が無効ならば手術をする。普通の手術のほか,皮膚を切らずに尿道経由で膀胱鏡を使って電気メスで削る方法や,凍結法という方法もある。

出典:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
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知恵蔵

前立腺肥大症
加齢によるホルモン環境の変化に伴って起こる。尿道を取り囲む前立腺が肥大するため、最初は刺激により頻尿、排尿困難遷延性排尿などの症状から、やがて残尿、尿閉、血尿、尿路感染などを経て、腎機能障害、尿毒症になることもある。超音波検査、直腸内指診、尿道膀胱(ぼうこう)造影で診断を行う。初期であれば薬物療法、進行すれば内視鏡を用いた手術、レーザー治療などを行う。
(今西二郎 京都府立医科大学大学院教授 / 2007年)

出典:(株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」

デジタル大辞泉

ぜんりつせん‐ひだいしょう〔‐ヒダイシヤウ〕【前立腺肥大症】
前立腺が肥大して尿道を圧迫し、排尿障害を起こす病気。残尿があるために膀胱・尿管腎臓の機能に障害を起こすことが多い。

出典:小学館
監修:松村明
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家庭医学館

ぜんりつせんひだいしょう【前立腺肥大症 Benign Prostatic Hyperplasia】
◎肥大して前立腺が尿道(にょうどう)を圧迫
[どんな病気か]
◎おもな症状は排尿障害
[症状]
[検査と診断]
◎治療の基本は症状をとること
[治療]

[どんな病気か]
 前立腺は膀胱(ぼうこう)のすぐ下にあり、精液をつくるはたらきをしている臓器で、その中を尿道が貫くように通っています。前立腺肥大症とは、この前立腺が尿道を圧迫するように大きくなり、尿の通りが悪くなって、いろいろな症状をおこす病気です。
 前立腺肥大症は、前立腺の腫瘍(しゅよう)の一種ともいえますが、前立腺がんとはちがいます。肥大症では、より尿道に近いほうの組織がこぶのように大きくなります。このこぶは、専門的にいうと線維腺性(せんいせんせい)(分泌腺(ぶんぴつせん)とまわりの線維組織)の良性の過形成(細胞が増えた状態)です。
 このこぶは、ころころしたサトイモのような感じで、周囲の組織を少しずつ押しのけるように大きくなります。これに対して、がんでは攻撃的な異常な細胞が発生し、それがごつごつした集団となって周囲の組織を破壊したり、転移したりします。
 前立腺肥大症のこぶは、中高年のほとんどすべての男性にみられます。しかし、こぶが大きくなる程度には個人差があり、症状が出るほど大きくならないですむ人も多いのです。また大きくなったこぶが尿道のどの部分を圧迫するかでも、症状が出たり出なかったりします。小さいこぶでも、膀胱の出口のところを圧迫すると症状が強く出ますし、大きなこぶでも尿道と反対側のほうに押し出していけば、症状は軽くてすみます。つまり、大きくなったらかならず症状が出るというわけではありません。
 要するに前立腺にこぶができるのは、いわば男性の宿命ですので、それ自体は病気といえません。それが症状をおこしたときに病気となり、前立腺肥大症と呼ばれるのです。
●病気になりやすい人
 前立腺のこぶは50歳ごろからみられ、より高齢になるにつれて、ほぼ全員におこります。この原因は、50歳くらいから男性ホルモンの産生がだんだん少なくなるのに対して、女性ホルモン(男性にも、わずかですが女性ホルモンの分泌があります)の量はあまりかわらず、そのアンバランスが関係しているといわれています。
 しかし、前立腺の炎症や遺伝的な体質も肥大に関係していて、はっきりしたことはまだわかっていません。
 前立腺は、名称から男性の性的な機能と関係がありそうにみえますので、性的に盛んな人におこりやすいと思われがちですが、実際は、かならずしもそうでもありません。

[症状]
 尿道が圧迫されるわけですから、排尿のときに症状がおこります。つまり尿の流れが妨害されるので、尿線が細くなったり、勢いがなくなったり、出はじめが遅くなったり、おなかに力を入れないと尿が出なくなったりします。しかし、これだけではありません。
 尿の流れがじゃまされると、これに対抗して膀胱(ぼうこう)が尿を押し出そうとがんばるので、膀胱に負担がかかります。また、こぶが前立腺の中の神経を刺激して、それが膀胱に影響します。そのため、膀胱の筋肉が過敏ないらいらした状態になります。
 さらに尿が全部出ないで膀胱に残る(残尿(ざんにょう))ようになると、1回ごとの尿の量が減ります。
 このようなことからトイレの回数が増えたり、行ってもまたすぐ行きたくなったり、トイレまで間に合わないで尿が出そうになったり、尿がもれてしまうようになったりします。
 症状のなかでつらいのは、尿の出方が悪いことより、トイレの回数、とくに夜中の回数が増えたり、がまんがきかなくなるといったことのようです。
●症状だけではわからない
 注意しなければならないのは、前記のような症状は、前立腺肥大症以外の原因でもおこるということです。
 また、やっかいなことに、程度の差はあれ、前立腺のこぶは中高年男性のほとんど誰にでもありますので、ほかの病気があっても前立腺肥大症だと思いこみがちです。
 さらに、とくに病気がない場合でも、年をとるにつれて尿の勢いが落ちたり、排尿の回数が増えたりすることもわかっています。
 つまり、前立腺肥大症では、前記のような症状がおこりますが、症状があっても、前立腺肥大症がその原因となっているとはかならずしもいえないのです。もちろん複数の原因のうちの1つとなっていることもあります。
 これらの関係を明らかにするには、場合によっては、より専門的な検査を必要とすることがあります。前立腺肥大症の治療を受けるにあたっては、前立腺肥大症以外の原因でも、同じような症状がおこるということをよくふまえることがたいせつです。
●合併症
 尿が出にくいと、尿が全部出ないままで排尿を切り上げてしまい、あとに尿が残ります(残尿)。また膀胱の負担が長期間におよぶと、膀胱の筋肉は過敏な状態から疲労した状態になり、筋力が低下して、ますます尿が残るようになり、残尿の量が増加してきます。
 この残った尿の中では、細菌が増殖したり、石ができたりしやすく、膀胱炎や膀胱結石(ぼうこうけっせき)の原因となります。また、残尿がどんどん増えて、ほとんど尿が出なくなることがあります(尿閉(にょうへい))。こうなると、処置がかならず必要です。
 尿閉には、急におこる場合と徐々におこってくる場合とがあります。急におこるのは、寒さや強い緊張、お酒、刺激物を食べた、かぜ薬やおなかの痛み止めを飲んだといったときです。非常につらいので、病院にころがりこむことになります。
 しかし、尿閉がゆっくりおこった場合は、とくに症状がかわることもないまま、膀胱の中の尿の圧力がだんだんと上がってきます。すると、腎臓(じんぞう)から流れてきた尿が膀胱の中へ入れなくなり、腎臓に尿がたまって水腎症(すいじんしょう)(「水腎症」)になり、最悪の場合は腎不全(じんふぜん)(「腎不全」)や尿毒症(にょうどくしょう)(「尿毒症」)となって生命の危険にまでいたります。ゆっくりおこる尿閉は、かなり悪くなるまで自分ではわからないので、かえってやっかいです。大きくなった前立腺から出血して血尿(けつにょう)が出ることもあります。ただし、血尿は、ほかの病気が原因である場合も多いので、注意しなければなりません。

[検査と診断]
 診断の第一歩は、症状の観察です。症状にはいろいろなものがあります。それらをまとめて、症状の程度と、その症状についての不満の程度を表現するため、図「前立腺の症状のスコア・症状の不満度のスコア」のような点数表(スコア)が最近つくられました。
 この「症状のスコア」で、8点以上であれば症状がある、20点以上あれば重い症状がある、と考えます。また不満の程度も、「不満度のスコア」が2点以上は不満がある、5点以上は大きな不満がある、とします。
 診察では、直腸診(ちょくちょうしん)といって、肛門(こうもん)から指を入れ、前立腺の大きさや形やかたさをみることが基本です。しかし、より確実な検査としては、超音波検査により前立腺の肥大した像を確認することが勧められます。さらに尿の勢いを数字で表わす尿流検査や、残尿の量をみる残尿測定もあります。
 ほかに、尿検査はかならず行なわれますし、血液検査をして、腎臓の機能をみる血清(けっせい)クレアチニンの値を調べたり、がんと見分けるのに重要な前立腺特異抗原(とくいこうげん)の量を測定する場合も多いようです。
 これらに加えて、似たような症状をおこすほかの病気の可能性を考え、必要に応じた検査が追加されます。

[治療]
 治療法は、大別して3つあります。まず第1は、経過をみること(無治療)です。前立腺の肥大はかならずしもどんどん進むわけではなく、まして尿毒症にまでなる人は多くありません。もし今の症状が前立腺肥大症によるものであって、ほかに治療すべき病気もないことがいろいろな検査で確認された場合であれば、患者さん自身が困らないかぎり、治療する必要もなく、定期的に、ほかの病気がひきおこされていないかなどの検査を受けるだけにするわけです。
 第2は、薬を用いた治療です。薬は作用からみて3つの種類に分けられます。前立腺を小さくする薬、前立腺をゆるめる薬、前立腺ではなく膀胱に作用して症状をとる薬の3つです。
 前立腺を小さくする薬は、いわば根本的な治療薬です。しかし男性ホルモンの作用を抑えるため、性機能に副作用が出ることがあります。前立腺をゆるめる薬は、尿道が圧迫される程度を軽くします。すると尿の通りもよくなり、合わせて膀胱の負担も軽くなるので、症状がとれてきます。また、膀胱に作用する薬は、過敏になった膀胱をなだめたり、疲労した膀胱を助けたりするはたらきがあります。
 これらの3種類の薬は、だいたいこの順番で、根本的な治療になるものから、症状をとるだけの薬になっています。しかし、肥大が別の病気をひきおこさないか、あるいは、おこしそうもないならば、当面困っている症状を軽くすることが前立腺肥大症の治療の原則です。したがって、これらの薬に、かならずしも優劣はつけられません。また、これらは作用もちがっているわけですから、組み合わせて使うこともよくあります。
 第3は、もう少し手のこんだ治療です。この治療を大きく分けると、前立腺を温めるもの(高温度治療)と手術の2つがあります。
 温める治療は、外来通院か1~2泊の入院で受けられるという気楽さがあります。とはいえ効果のほうは、やはり手術にかないません。薬では不満だとか、薬をもらいに通院するのが面倒だが、手術を受けるのも大変だという場合には、試みる価値があるかもしれません。
 手術は、中くらいまでの大きさの前立腺なら、尿道から内視鏡を入れてレーザーで焼いたり、電気メスで削りとったりする方法(経尿道的前立腺切除術〈TUR〉)が主流です。1~2週間の入院が必要です。最近は器械の進歩や技術の向上がめざましく、手術の危険性は低くなりました。しかし、かなり大きな前立腺では、おなかを切って取り出すほうが安全で確実な治療法であることもあります。この場合は2~3週間の入院が必要となるでしょう。
 手術の場合は、そう多くはないものの輸血が必要となることもあります。また後遺症として精液が出なくなることがよくあります。これは、勃起(ぼっき)しなくなる(いわゆるインポテンス)こととはちがいます。しかし、手術の後の性生活に希望があれば、治療法を選ぶうえで知っておくべきでしょう。
●専門医を受診する
 前立腺肥大症は、あまりにも平凡な病気なので、かえって目に止まらないものでした。しかし最近では、その重要性が再認識され、病気の取り扱いの方法も学会で基準化され、より患者さんの希望にそった治療が心がけられるようになっています。また、前立腺肥大症の診療にあたっては、前立腺がん(「前立腺がん」)と見分けるための検査や診断もかならずしなければなりませんので、症状があれば専門医を受診することをお勧めします。

出典:小学館
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世界大百科事典 第2版

ぜんりつせんひだいしょう【前立腺肥大症 prostatic hypertrophy】
前立腺が大きくなる疾患で,良性腫瘍(腺腫)の一種である。50歳以上の高齢者に多く,典型的な老人病の一つ。一種の老化現象で,性ホルモンのバランスがくずれたために起こると考えられている。正常の前立腺はクルミ大であるが,本症では鶏卵大から大きいものではリンゴ大に達することがある。肥大した前立腺によって尿道が圧迫されるため,尿が勢いよく出なくなり,排尿開始までの時間や排尿終了までの時間が長くなる。進行すると尿が線をなして飛ばなくなり,ぽたぽたと滴下するに至る。

出典:株式会社平凡社
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大辞林 第三版

ぜんりつせんひだいしょう【前立腺肥大症】
前立腺が病的に増大して、頻尿や排尿困難をきたした状態。高齢の男子に多い。

出典:三省堂
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日本大百科全書(ニッポニカ)

前立腺肥大症
ぜんりつせんひだいしょう
男性の加齢とともに前立腺が肥大し、排尿障害をおこす疾患。古典的には尿道に近い内腺とよばれる部分から発生する良性の腫瘍(しゅよう)と考えられていたが、現在では前立腺の内腺とか外腺という概念は解剖学的にも生理学的にも存在せず、膀胱頸部(ぼうこうけいぶ)下腺の異常増殖症と解釈されている。病理学的にはこの部の上皮性成分が筋線維性間質の増生を伴って異常増殖する現象で、尿道を圧迫し、膀胱の頸部から内面に突出する結果、排尿困難がおこる。一方、肥大した組織塊によって正常前立腺部は外側方の被膜下に圧迫され、ほとんど認識されない程度に薄くなり、肥大組織が大きな腫瘤(しゅりゅう)に発達する。
 原因は明らかにされていないが、加齢による内分泌環境、とくに男性ホルモンと女性ホルモンのバランスの異常が重要な役割を演じていると理解される。このほか、過度の性生活や前立腺の充血をきたすような食生活、排尿に関する習慣など、種々の要因が関係する。
 臨床的に証明されるか、あるいは自覚症状が発現するのは60歳以後に多いが、実際の病変の病理学的異常は40歳代の後半に始まり、徐々に進行している。したがって、病態の進行と自覚症状とはかならずしも並行しない。本来、欧米人に多く、東洋人には少ないとされていたが、日本でも高年齢層の増加に伴い高頻度にみられるようになった。症状としては、夜間頻尿、残尿感、尿線細小のほか、排尿しようと構えてもなかなかスタートしない遷延性排尿や、排尿が始まってもだらだらといつまでも終わらない苒延(ぜんえん)性排尿がみられる。この時期を第一期という。次に膀胱内に残尿が増し、ついに尿がたまったまま出ない状態、すなわち尿閉を繰り返す。この状態を第二期という。さらに進行すると、腎(じん)機能が障害されて第三期となり、尿毒症をおこす。
 診断は前立腺癌(がん)と同様、まず直腸診による触診で肥大した腺腫を触知することである。正常では栗(くり)の実大といわれる前立腺が、鶏卵大以上に肥大する。表面は平滑で弾力性があり、硬結は触れない。圧痛はほとんどなく、腎機能に障害がある場合は腎部に叩打(こうだ)痛が出現する。
 臨床検査では、残尿に尿路感染症を合併すれば白血球や細菌が証明される。ときに血尿をみることもある。血液所見では、腎機能が障害されている場合は血液尿素窒素(BUN)やクレアチニン値が上昇する。確定診断は、内視鏡(パンエンドスコープpanendoscope)を尿道より挿入し、前立腺部尿道の延長、閉塞(へいそく)の程度を観察する。超音波エコー、CTスキャンは鑑別診断のために重要である。
 手術療法として、膀胱内から肥大した前立腺を摘出する恥骨上前立腺核出術、恥骨の後方から直接前立腺に達する恥骨後前立腺核出術、会陰(えいん)部を切開する会陰式前立腺核出術などが行われてきたが、もっとも普及し一般的となっている方法は経尿道的切除術(TUR)である。これは、尿道より切除鏡を挿入し、これについている電気メスによって肥大した組織を細片に切除し、これをエバキュエータ(吸引器)で体外に洗い流すものである。TURはファイバースコープの進歩などにより、きわめて安全確実な手術方法となった。冷凍手術は、肥大の部分を超低温にして壊死(えし)に陥らせ脱落させる方法であるが、適応は限られる。前立腺癌を合併する症例も少なくないが、その場合の治療は複雑となる。前立腺肥大症の治療成績はきわめて良好であるが、一般に術後は膀胱のほうに逆行性射精をおこすことが考えられる。これは内括約筋が弛緩(しかん)した状態にあるためである。
 前立腺肥大症を予防する実用的方法はみいだされていない。また、肥大症に直接作用して縮小させる薬物もまだない。なお、日常生活上の注意としては、大量の飲酒、座位で長く排尿をがまんすること、冷えることは症状を悪化させる。[田崎 寛]

出典:小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)
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内科学 第10版

前立腺肥大症(腎・尿路腫瘍)
(5)前立腺肥大症(benign prostatic hyperplasia:BPH)
 前立腺肥大は良性結節性過形成である.過形成は,腺上皮のみならず間質細胞にも起こる.前立腺癌がおもに辺縁域から起こるのに対して,前立腺肥大症は移行域より発生する.肥大の主体が腺上皮か間質かによって,腺上皮型と線維筋型があり,線維筋型の方が排尿困難をきたしやすい.
原因・病因
 前立腺肥大症の発生要因はなお不明である.前立腺肥大症が直接に癌に移行することはないが,両者の合併はしばしば認められる.前立腺の大きさは加齢によって増加し,60歳代で70%,80歳代で80%に肥大が認められる.前立腺の肥大があるとすべて排尿障害になるわけではない.前立腺の腫大,下部尿路症状(lower urinary tract symptom:LUTS),下部尿路通過障害(bladder outlet obstruction:BOO)が同時に存在して「前立腺肥大症」となる.臨床的に治療を要する状態になるのは全体の20%程度である.
臨床症状
 自覚症状としては,国際前立腺症状スコア(International Prostate Symptom Score:IPSS)が重要である.頻尿,尿意切迫感,夜間頻尿(蓄尿症状)と尿線途絶,尿勢低下,怒責排尿(閉塞症状),排尿後症状である残尿感の7項目からなる.また,患者の困窮度を表したものがQOLスコアである.
検査成績
 スクリーニングには腹部超音波検査が有用である.前立腺重量,残尿量の推定ができる.PSAは前立腺癌との鑑別に必要であるが,腺腫が大きい場合には高値となる.直腸診では,腺腫は弾性硬に触れ,左右対称で,表面は平滑である.尿流動態検査で,蓄尿,排尿機能を評価する.
診断
 上記のIPSSに加え,直腸診,超音波検査などによって前立腺の腫大を観察する.IPSS 8点以上が治療対象で,20点以上が重症とされる.尿流動態検査で,最大尿流率(Qmax)が10 mL/分以下なら下部尿路閉塞を疑う.排尿症状に神経因性膀胱,尿道狭窄,膀胱頸部硬化症などが関与していないか鑑別するが正確な評価は難しいことが多い.前立腺癌との合併に注意する.
治療
 症状の軽い初期の前立腺肥大症に対しては,α遮断薬,5α還元酵素阻害薬,抗アンドロゲン薬を中心とした薬物療法を行う.薬物治療が奏効しない場合,温熱療法や手術療法が行われる.手術療法は,高周波電流を用いた経尿道的前立腺切除術(transurethral resection of prostate:TUR-P)が主流であるが,近年レーザーを用いた蒸散術や核出術もよく行われている.リスクの高い高齢者には,尿道ステント留置も行われる.[山口雷藏・堀江重郎]

出典:内科学 第10版
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六訂版 家庭医学大全科

前立腺肥大症
ぜんりつせんひだいしょう
Benign prostatic hyperplasia (BPH)
(お年寄りの病気)

高齢者での特殊事情

 「尿の勢いが弱い」、「排尿に時間がかかる」、「排尿後に残尿感がある」、「頻尿」などの自覚症状を「国際前立腺症状スコア」という問診票で調べ、同時に排尿障害が日常生活(生活の質:QOL)に影響する程度も調べますが、高齢者では問診内容が十分理解できないことがあるので、評価は慎重を要します。

 直腸診で前立腺を触り、前立腺がんかどうかと前立腺の大きさを調べます。排尿後の残尿量を計りますが、通常は超音波装置を用いて前立腺の大きさと同時に残尿量を計測します。また尿流測定をして尿の勢いを調べます。

治療とケアのポイント

 治療は自覚症状と「生活の質」の状態、尿の勢いの程度、残尿量、前立腺の大きさを総合的に評価して「軽症」「中等症」「重症」に分けて決めます。

 「軽症」では薬物療法を選択します。「中等症」以上で手術療法が適応されます。内視鏡手術(経尿道的前立腺切除術:TUR­P)や開腹による前立腺摘除術が行われます。尿がまったく出ない尿閉状態や重篤な合併症で手術ができない場合は、管(カテーテル)で尿を出すようにします。長期の尿道カテーテル留置になると尿路感染や尿道出血・尿道損傷などが生じるので、カテーテル管理が重要となります。

出典:法研「六訂版 家庭医学大全科」
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前立腺肥大症
ぜんりつせんひだいしょう
Benign prostatic hyperplasia
(男性生殖器の病気)

どんな病気か

 前立腺は膀胱(ぼうこう)の下部、尿道括約筋(にょうどうかつやくきん)の奥にあり(図2)、クルミ大(約15g)の臓器で、男性生殖器官のひとつです。ほぼ中央を尿道が貫いています。前立腺部の尿道には精巣から精子を運んでくる精管が開いています。

 射精の際には、精管、精嚢(せいのう)、前立腺からの液体が混ざり合った精液が、まず前立腺部尿道に流れ出してきます。次いで膀胱側へ精液が逆流しないように膀胱頸部および前立腺部尿道が閉じ、尿道から外尿道口に向けて、精液が射出されます。

 前立腺肥大症は前立腺の内側の部分が腫大(しゅだい)前立腺腺腫(ぜんりつせんせんしゅ))する病気です。前立腺腺腫は数十gのことが多いのですが、なかには100gを超す大きなものもあります。前立腺が腫大すると尿道が圧迫されて尿道抵抗が高まり、尿の勢いが悪くなります。また閉塞に伴う膀胱機能の変化により、排尿困難以外に頻尿、尿意切迫感、夜間頻尿などのいわゆる刺激症状も出現します。最悪の場合には尿がまったく出なくなってしまいます。この病態を尿閉(にょうへい)と呼びます。

原因は何か

 60歳以上の人に多くみられる疾患です。30~40代ではまずみられません。

 私たちの調査では、50~65歳の男性の約15%、65~80歳の男性の約25%が中等症以上の臨床症状を伴う前立腺肥大症の患者さんであることが想定されています。男性ホルモンの存在と加齢が前立腺肥大症の発生と進行に影響していることは疑いの余地のないところです。しかしながら、いくつかの仮説はありますが原因の詳細は明らかではありません。

症状の現れ方

①第1病期(膀胱刺激期(ぼうこうしげきき)

 尿道の奥や会陰部(えいんぶ)の不快感、夜間の排尿が2回を超える頻尿(ひんにょう)、尿意を感じるとがまんができない尿意切迫感、尿が出始めるまでに時間がかかる、尿線が細く、尿が出終わるまでに時間がかかるなどの症状がみられる時期をいいます。

②第2病期(残尿発生期(ざんにょうはっせいき)

 前立腺腺腫が大きくなり排尿困難の程度が増すと、膀胱にたまった尿を排出しきれなくなり、残ってしまいます。これを残尿と呼びます。残尿があると細菌感染が起こりやすくなり、また膀胱内に結石ができやすくなります。出血(血尿)することもあります。過度の飲酒や冷え、長時間座りっぱなしでいること、などにより突然尿が出なくなってしまう(尿閉)ことがあります。

③第3病期(完全尿閉期(かんぜんにょうへいき)

 さらに前立腺腺腫が大きくなると、膀胱排尿筋(ぼうこうはいにょうきん)の収縮作用では尿の排泄ができなくなってしまいます。膀胱は常に高度に拡張して残尿量が300~400ml以上になり、膀胱内圧に負けて尿が絶えず少量ずつもれ出してしまうようになります。このようになると腎臓からの尿の流れも妨げられて、腎機能障害を起こしてきます。

 このように前立腺肥大症では尿の勢いが悪くなることに伴い、さまざまな症状が現れます。1992年に米国泌尿器科学会で提唱された国際前立腺症状スコア(表1)に基づき、いろいろな自覚症状をアンケート形式で患者さんに聞いて点数化し、病気の重症度を評価します。

検査と診断

前立腺がんの除外診断

 50歳以上の人で排尿障害を訴える患者さんでは、まず前立腺がんの除外診断が大切です。血液中の前立腺腫瘍マーカー(PSA)の値を測定することが重要です。肛門から指を入れて、経直腸的に前立腺を触診することもがんの鑑別診断に大切な検査です。

②前立腺肥大症の評価

a.基本的評価

 全般的な健康状態の評価に加えて、脳梗塞(のうこうそく)脳出血(のうしゅっけつ)脊髄(せきずい)疾患や糖尿病など、排尿障害を来す合併症や既往症の有無、副作用として排尿障害を引き起こす薬剤(コラム)の服用がないかどうかを確認します。尿検査と腎機能検査を行います。

b.前立腺肥大症の重症度の判定

・国際前立腺症状スコア(IPSS)…7種類の自覚症状の強弱をそれぞれ点数化したものです。ひとつの症状につき6段階(0~5点)に点数化されています。合計点で評価します。最も症状の強い人は35点になります(表1)。

・QOLスコア…患者さんがどれほど日常生活に困っているかを7段階(0~6点)の点数により評価します(表1)。

・最大尿流量率…排尿時の尿線の勢いを調べる検査です。記録器械に接続された小用便器に排尿してもらうだけで、1秒間に最大何mlの尿が排出されたか記録されます。

・残尿量…排尿後にどのくらいの量の尿が排泄されずに残っているか、超音波で検査します。

・前立腺容積…前立腺が腫大しているか否かを超音波検査で調べます。前立腺の腫大が認められない場合は、膀胱の排尿機能の異常や尿道狭窄(にょうどうきょうさく)などの鑑別診断を行います。

 これら5つの項目から前立腺肥大症の重症度を判定します(表2)。

治療の方法

 前立腺がんとの区別が最も大切なことです。がんの可能性が否定されれば、前立腺肥大症に対していろいろな治療法があります。症状の程度とそれによってどのくらい患者さんが困っているかにより治療方法が決定されます。日常生活上、困っていなければ治療の必要はありません。すなわち治療しないで経過を観察するのも選択肢のひとつです。

①手術

 手術には大きく分けて2つの方法があります。下腹部を切開して腫大した前立腺腺腫を摘出する方法(開腹手術)と、尿道から内視鏡を挿入して前立腺腺腫を切除する方法(TUR­P、TUEB)があります。TUR­Pは前立腺をかんなで削るように少しずつ内視鏡で切除します。TUEBは前立腺腺腫を一塊として内視鏡で剥離摘出します。前立腺肥大症のために、繰り返す尿閉、膀胱結石の形成、出血を繰り返す、治療困難な尿路感染、腎機能障害のいずれかを認める場合は手術をすすめます。開腹手術は大きな前立腺腺腫に対して選択されます。

 手術により最大尿流量率は2~3倍になり、最も治療効果が期待できる治療法です。

<レーザー手術>

 レーザー手術は術中の出血が少なく、入院期間が短い、低侵襲(ていしんしゅう)な手術として考案されました。レーザー手術には、レーザー照射により前立腺腺腫を凝固壊死あるいは蒸散させる方法(ILCP、HoLAP、PVP、など)と、レーザーを用いて前立腺腺腫を摘出する方法(HoLEP)とがあります。いずれも内視鏡で行います。凝固あるいは蒸散させる方法では、出血が少なく入院期間が短いという利点はありますが、大きな前立腺腺腫には不向きです。HoLEPは手術の項に記載したTUEBをレーザーを使って行う治療です。

②薬物療法

 前立腺部の尿道の圧迫を(ゆる)める作用をもったα1ブロッカーと、腫大した前立腺を縮小させるアンチアンドロゲン薬と5α還元酵素阻害薬、植物製剤、漢方薬があります。

 α1ブロッカーはもともと降圧薬として使われていた薬剤から開発されました。効果がすみやかに発現しますが、立ちくらみ、射精障害などの副作用があります。アンチアンドロゲン薬は効果発現までに1~2カ月かかります。男性ホルモン値を若干低下させる作用があり、インポテンツなどの副作用があります。5α還元酵素阻害薬は男性ホルモンの活性化を阻害する薬剤で、性欲減少、勃起障害の副作用があります。しかし、いずれも安全性の高い薬剤です。

 植物製剤、漢方薬は切れ味は今ひとつですが、副作用の心配はほとんどありません。

③その他の治療法

a.尿道ステント

 心臓や肺の合併症のため麻酔をかけることが危険な患者さんのために、狭くなっている前立腺部尿道に筒状の形状記憶合金のメッシュ(ステント)を置いて、尿の通り道を確保する方法です。簡単に留置できますが、結石の形成、感染、出血などの合併症をみることがあります。

b.導尿(どうにょう)

 尿閉となって手術をすすめられたがどうしても手術はいやという方や、手術が危険で不可能という場合には、やむを得ずカテーテルという管を尿道から膀胱に通します。常時カテーテルを留置する方法と、間欠的自己導尿(かんけつてきじこどうにょう)といって尿意をもよおした時に自分で(あるいは介護者により)管を通して導尿する方法とがあります。

病気に気づいたらどうする

 場合によっては治療せずに経過観察でもよい病気です。自分のどのような症状をどの程度よくしてもらいたいのか、主治医とよく相談して治療方法を決めてください。しかし、まったく同じ症状でも前立腺がんのことがあるので、前立腺がんの除外診断だけは泌尿器科で受けておいてください。

 なお、日常生活上の注意点は次の7点です。

・排尿をがまんしないように。

便秘をしないように。

・適度な運動を。

・適度な水分を。

・過度のアルコールはひかえる。

・刺激の強い食事はひかえる。

・新しい薬をのむ時は医師に相談する。

野口 和美

出典:法研「六訂版 家庭医学大全科」
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EBM 正しい治療がわかる本

前立腺肥大症
どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 前立腺(ぜんりつせん)は男性にのみある臓器で、精のうとともに精液をつくる働きをするところです。栗(くり)の実のような大きさで、尿道を取り囲むようにしてあります。
 この前立腺がこぶ状に肥大して尿道を圧迫し、さまざまな症状を引きおこすのが前立腺肥大症(ひだいしょう)です。中高年の男性のほとんどにみられる病気ですが、こぶの大きさには個人差があり、自覚症状のないまま終わる人もいます。
 症状としては、尿がでにくくなる、たびたびトイレに行く頻尿(ひんにょう)、夜間頻尿、残尿感、尿漏れ、脚の付け根の不快感などが現れます。
 最初の症状は夜間頻尿や、トイレに行っても排尿までに時間がかかる、いきまないと尿がでないといったものです。病気が進んでくると、残尿感が次第に強まります。また膀胱(ぼうこう)にたまった残尿のなかで細菌が繁殖し、結石(けっせき)の原因となることもあります。
 さらに悪化すると、自力での排尿ができなくなり、膀胱が尿で一杯になって漏れだす溢流性尿失禁(いつりゅうせいにょうしっきん)になるとともに、尿が逆流してしまい腎臓(じんぞう)まで達することとなります。そのため腎臓の働きが悪化したりします。まったく尿がでなくなる尿閉(にょうへい)をおこすと慢性腎不全など危険な合併症を引きおこすこともあり、早めの処置が必要です。
 ほぼ同じ症状を引きおこす前立腺がんとの区別が非常に大切で、症状のある人は医師の診断が欠かせません。
 前立腺肥大症が悪化して前立腺がんになることはありませんが、両者を合併していることはしばしばあります。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 発症には男性ホルモン(アンドロゲン)と加齢が関係していると考えられています。また、前立腺の炎症、遺伝子、ウイルスなどとの関係も指摘されています。

●病気の特徴
 60歳代の男性の約半数、70歳を超えるとほぼすべての男性に前立腺肥大症が認められます。ただし、症状を訴える人はそのうちの10パーセント程度です。


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

[治療とケア]α遮断薬を用いる
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 頻尿、残尿感、排尿困難などの症状を改善する効果があるということが、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。(1)(2)

[治療とケア]5α還元酵素阻害薬を用いる
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 前立腺の体積を減少させ、症状を改善させることが非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。(3)

[治療とケア]抗アンドロゲン薬を用いる
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 抗アンドロゲン薬はその有効性を支持する根拠は十分ではありませんが、海外で有効性が確認されている5α還元酵素阻害薬と同等の効果があるという報告もあります。(4)

[治療とケア]植物エキス製剤やアミノ酸製剤を用いる
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 自覚的な症状を改善させるという報告もありますが、臨床効果ははっきりしません。他剤との併用により有効であるという報告があります。専門家の意見や経験から支持されています。

[治療とケア]漢方薬を用いる
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 有効性を支持する根拠は十分ではありませんが、他剤との併用により有効であるという報告があります。

[治療とケア]前立腺被膜下摘除術(ひまくかてきじょじゅつ)を行う
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] おなかを切って前立腺を切除する方法をとることがあります。術後の合併症の頻度が高いですが、特に前立腺が大きい場合には有効であることが報告されています。 (2)(5)

[治療とケア]経尿道的(けいにょうどうてき)前立腺切除術(TURP)を行う
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 尿道から内視鏡を入れ、レーザーなどで前立腺を切除する方法で、薬物療法など保存的治療と比較して、排尿障害が改善する割合が大きいことが非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。(2)(5)

[治療とケア]生理食塩水灌流(かんりゅう)経尿道的前立腺切除術(bipolar-TURP)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 通常のTURPと同じ手技ですが手術による副作用を軽減するため、生理食塩水を用いる方法です。非常に信頼性の高い臨床研究によって有効な治療法であることが確認されています。(6)

[治療とケア]経尿道的前立腺切開術(TUIP)を行う
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 前立腺を被膜の深さまで切開することにより前立腺尿道部を開大させる方法で、比較的小さい前立腺に対して治療効果があることが非常に信頼性の高い臨床研究によって示されています。(7)

[治療とケア]レーザー前立腺蒸散術(じょうさんじゅつ)
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 経尿道的に挿入した内視鏡のもとで高出力のレーザーを照射する治療法です。出血のリスクが少なく、大きな前立腺に対しても施行可能です。その有効性については信頼性の高い臨床研究によって示されています。

[治療とケア]ホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP)を行う
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 経尿道的に挿入した内視鏡のもとでホルミウムレーザーを照射し、前立腺を核出する方法です。その有効性については非常に信頼性の高い臨床研究によって示されています。(8)


よく使われている薬をEBMでチェック

排尿障害治療薬
[薬用途]α遮断薬
[薬名]ハルナール(タムスロシン塩酸塩)(1)(2)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]フリバス(ナフトピジル)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]ユリーフ(シロドシン)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]バソメット/ハイトラシン(テラゾシン塩酸塩水和物)(1)(2)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]エブランチル(ウラピジル)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 頻尿、残尿感、排尿困難などの症状を改善する効果について、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。
[薬名]ミニプレス(プラゾシン塩酸塩
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 排尿障害を改善する作用は弱いようですが、効果のあることは臨床研究で確認されています。

[薬用途]5α還元酵素阻害薬
[薬名]アボルブ(デュタステリド)(3)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 前立腺の体積を減少させ、自覚症状を改善させることが、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。

[薬用途]抗アンドロゲン薬
[薬名]プロスタール/ルトラール(クロルマジノン酢酸エステル)(4)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 有効性を支持する根拠は十分ではありませんが、海外で有効性が確認されている5α還元酵素阻害剤と同等の効果があるという報告もあります。
[薬名]パーセリン/ペリアス(アリルエストレノール)(9)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 前立腺の容積は変わりませんが、最大尿流速度は改善するということが、臨床研究で確認されています。

[薬用途]植物エキス製剤・アミノ酸製剤
[薬名]エビプロスタット(オオウメガサソウエキス・ハコヤナギエキス配合剤)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 自覚的な症状を改善させるという報告もありますが、臨床効果ははっきりしません。他剤との併用により有効であるという報告があります。
[薬名]パラプロスト(L-グルタミン酸・L-アラニン・アミノ酢酸配合剤)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 有効性を示す根拠は十分ではありませんが、専門家の意見や経験から支持されています。

[薬名]セルニルトン(セルニチンポーレンエキス)(10)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 夜間頻尿などの症状を改善させることが示唆されていますが、他覚的所見の改善効果はないことが報告されています。

[薬用途]漢方薬
[薬名]八味地黄丸(はちみじおうがん)、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 有効性を示す根拠は十分ではありませんが、他剤との併用で症状が改善したという報告があります。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
手術が必要なことも
 前立腺の肥大の程度が高度で、尿閉状態(尿意があるにもかかわらず、尿がまったくでない状態)になったり、排尿後も膀胱に尿が残り、管を入れて導尿(どうにょう)する必要が生じたりする場合には、尿の通り道を圧迫している前立腺を除去し、尿道を改善する手術が必要になります。現在行われている一般的な手術方法は、経尿道的前立腺切除術ですが、最近ではホルミウムレーザーを用いた核出術なども行われています。

排尿障害治療薬も用いる
 頻尿、残尿感、排尿困難などの症状があるものの、ただちに手術が必要ではないと判断された場合には、まずハルナール(タムスロシン塩酸塩)、フリバス(ナフトピジル)、ユリーフ(シロドシン)、バソメット/ハイトラシン(テラゾシン塩酸塩水和物)、エブランチル(ウラピジル)、ミニプレス(プラゾシン塩酸塩)といったα遮断薬のいずれかを用いて、症状が改善するかどうか経過を観察します。前立腺が大きい場合には5α還元酵素阻害薬の併用を考慮します。
 これらの治療で改善が不十分な場合には外科的治療を行うことになります。
 抗アンドロゲン薬については効果を疑問とする臨床研究や、前立腺がんの早期発見に役立つPSA値を低下させるとするガイドライン(「前立腺肥大症診療ガイドライン」日本泌尿器(ひにょうき)科学会、2011年)もあり、検討が必要な薬でしょう。

がんとの区別が大切
 この病気でもっとも重要なポイントは、前立腺肥大症と同じような症状をおこす前立腺がんを見逃さないことです。
 前立腺肥大症が悪化して前立腺がんになることはまず考えられませんが、前立腺肥大症と前立腺がんの両方が併存する可能性は否定できません。
 そこで、手術しない場合には、定期的に泌尿器科医の診察を受け、血液検査を行うことが必要です。

(1)McVary KT, Roehrborn CG, Avins AL, et al. Update on AUA guideline on the management of benign prostatic hyperplasia. J Urol. 2011; 185:1793.
(2)Madersbacher S, Alivizatos G, Nordling J, et al. EAU 2004 guidelines on assessment, therapy and follow-up of men with lower urinary tract symptoms suggestive of benign prostatic obstruction. Eur Urol. 2004 Nov; 46(5): 547-554.
(3)Tsukamoto T, Endo Y, Narita M. Efficacy and safety of dutasteride in Japanese men with benign prostatic hyperplasia. Int J Urol. 2009; 16: 745-750.
(4)阿曽佳朗,本間之夫,熊本悦明,他. 5α-reductase阻害剤MK906の前立腺肥大症に対する臨床Ⅲ相試験(第2報)-酢酸クロルマジノン徐放剤との臨床効果の同等性の検討. 泌尿器外科. 1996;9:335-342.
(5)Thiel DD, Petrou SP. Erectroresction and open surgery. Urol Clin North Am. 2009;35:461-470.
(6)Erturhan S, Autorino R, Quarto G, Damiano R, et al. Plasmakinetic resection of the prostate: versus standard transurethral resection of prostate: a prospective randomized traial with 1-year follow-up. Prostate Cancer Prostatic Dis. 2007;10:97-100.
(7)Yang Q, Peters TJ, Donovan JL. et al. Transurethral incision compared with transurethral resection of the prosutate for bladder outlet obstruction; a systemic review and meta-analysis of randomised controlled traials. J Urol. 2001;165:1526-1532.
(8)Wilson LC, Gilling PJ, Williams A, et al. A randomised trial comparing holmium laser enucleation versus transurethral resection in the treatment of prostates larger than 40 grams: results at 2 years. Eur Urol. 2006; 50: 569-573.
(9)Noguchi K, Harada M, Masuda M, et al. Clinical significance of interruption of therapy with allylestrenol in patients with benign prostatic hypertrophy. Int J Urol. 1998;5:466-470.
(10)MacDonald R, Ishani A, Rutks I, Wilt TJ. A systematic review of Cernilton for the treatment of benign prostatic hyperplasia. BJU Int. 2000;85:836-841.

出典:法研「EBM 正しい治療がわかる本」
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