Rakuten infoseek

辞書

修辞学【しゅうじがく】

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

修辞学
しゅうじがく
ギリシア語では technē rhētorikē,ラテン語で ars rhetorica,eloquentia。思想感情を効果的に伝達するための原理を研究する学問。古代ギリシアではホメロス叙事詩の英雄たちの間で早くも「言葉の術」は「戦技」と並んで人たるものの素養と重視されているが,特に前5世紀アテネを中心として弁論・修辞の技術は政治演説や法廷弁論において不可欠の道具となり,当時のいわゆるソフィストたちはその技術の体系的研究と訓練指導に努めた。修辞学は言葉の分類と明確な把握に依存する点では文法学と不可分であり,論ずべき事柄の論理的分析と立論の面では論理学の基礎に立ち,また演説や弁論を通じて大勢の人間を説得する実際的技術としては詩人や俳優の芸と多分に共通する面をもつ。ギリシア・ローマではこうして修辞・弁論の技術はいわば彼らの「言葉の文化」のかなめとして位置づけられていた。それは古代の人文教育の中枢的位置を占めていたともいえ,事実,理想的な弁論家には人間として至高の英知と徳操が不可欠であるとする考えが,ギリシアのイソクラテス,ローマのカトー,キケロ,クインチリアヌスらに代表される弁論思想の根幹をなしている。修辞学・弁論術 (あわせて rhetoricaである) はまさしく人間の実践学の総称に等しく,歴史,法律,文学,哲学もまた,その素地とみなされる。修辞学は真理の究明,最高の徳の要請に反するにせ学問であるという批判もプラトンによってなされているが,アリストテレスはこれを説得の術という実践的技術として位置づけ,その対象と方法を明確にした。他方プラトンの同時代人で,やはりソクラテスの流れをくむイソクラテスは,真の修辞学の理想とするものが知徳一体の実践教育であり帝王の学であることを主張している。ギリシア最高の弁論家デモステネスがギリシアの自由のために熱弁をふるっていた時代である。ギリシアの弁論思想を全面的に受入れ,修辞学を知徳完成の人間教育の道として実践したのはローマ共和政時代の政治家たちであった。カトー,グラックス兄弟,M.アントニウス,カエサルらの弁論家としての名声は高い。キケロはローマ随一の雄弁家であり,古典古代における最大の修辞学者・弁論思想史家である。修辞学を人文教育の実践的な目標とみるキケロの思想は,クインチリアヌスに受継がれる。すでに帝政期なかば,政治を動かす力として弁論術の有効性は衰えていたが,クインチリアヌスは「言葉の術」の訓練を全人格的教育の問題として系統的に論じる。ルネサンス以降の人文教育の礎となったのがそれである。しかしローマでは修辞学や弁論教育が重視されすぎたうらみも大きい。複雑な規則や形式が過重となり,言葉の自由さが摘み取られたのである。西欧諸邦では 18世紀まで,修辞学は人文教育の基礎となっていた。今日でも各国語の記述文章文体論の基本には修辞学の基礎概念が抜きがたい痕跡をとどめている。

出典:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
Copyright (c) 2014 Britannica Japan Co., Ltd. All rights reserved.
それぞれの記述は執筆時点でのもので、常に最新の内容であることを保証するものではありません。

デジタル大辞泉

しゅうじ‐がく〔シウジ‐〕【修辞学】
修辞に関する法則や表現方法を研究する学問。美辞学レトリック

出典:小学館
監修:松村明
編集委員:池上秋彦、金田弘、杉崎一雄、鈴木丹士郎、中嶋尚、林巨樹、飛田良文
編集協力:田中牧郎、曽根脩
(C)Shogakukan Inc.
それぞれの用語は執筆時点での最新のもので、常に最新の内容であることを保証するものではありません。

世界大百科事典 第2版

しゅうじがく【修辞学】

出典:株式会社平凡社
Copyright (c) Heibonsha Limited, Publishers, Tokyo. All rights reserved.

大辞林 第三版

しゅうじがく【修辞学】
修辞に関する法則を研究する学問。読者の感動に訴えて説得の効果をあげるために言葉や文章の表現方法を研究するもの。美辞学。レトリック。

出典:三省堂
(C) Sanseido Co.,Ltd. 編者:松村明 編 発行者:株式会社 三省堂 ※ 書籍版『大辞林第三版』の図表・付録は収録させておりません。 ※ それぞれの用語は執筆時点での最新のもので、常に最新の内容であることを保証するものではありません。

日本大百科全書(ニッポニカ)

修辞学
しゅうじがく
ラテン語rhetoricaの訳語で、修辞法、美辞学ともいう。元来は古代ギリシア・ローマにおける口頭散文の表現技術をさしたので、この意味では雄弁術、弁論術、弁辞学などの訳語も用いる。広義の修辞学は紀元前5世紀、シラクサのコラックスCoraxに始まるとされ、ついでプロタゴラス、ゴルギアスらアテネのソフィストの活躍があり、前4世紀、アリストテレスの『修辞学』で初めて体系化された。その後継者テオフラストス、デメトリウスDemetriusらを経て、修辞学はことにローマ時代、バルロVarro、キケロ、セネカ、クィンティリアヌスらの手によって大きく発展した。
 古代の修辞学は、議会などにおける演説、裁判などにおける論争、ひいては日常の座談などで聴衆をひきつけ、相手を説得するための技術の研究で、初め多くは、発声法、身ぶり等を含む言語表現の様式の分類であったが、時代が下るにしたがって分類法も理解も精緻(せいち)となり、詩学との関連を密にしながら、霊感や話者の個性や聴衆に与える心理的効果などをも分析するに至った。中世に入ると修辞学は、文法、論理学、音楽、算術、幾何学、天文学とともに「自由七科」とよばれる中等教育の教科目の一つとなり、中世教養人、とくに僧侶(そうりょ)の基本的学問として重視されるようになった。この伝統は中世以後も長く西欧世界を支配し、20世紀初頭にまで及んだが、その後、修辞学という呼称は急速に用いられなくなってきている。とはいえ、先人たちが対象とした文章法そのものは、文法をはじめ、言語学、文体論、意味論、音韻論、ひいては文章作法のなかに部分的に生き続けており、逆に考えれば、これらの近代諸学の未分化の状態が修辞学であったともいえよう。またレトリックrhtorique(フランス語)、rhetoric(英語)ということばは、上記の意味合いのほかに、内容空疎な美辞麗句の羅列ないし詭弁(きべん)の意味に用いられることも多いが、これはギリシア時代の後期ソフィストや17世紀の修辞的作家集団にもみられたことで、修辞学の偏向した一面を示している。
 中世以降の伝統的な修辞学の内容は、(1)発想法、(2)比喩(ひゆ)的表現法、(3)統辞法、(4)音韻論などの研究に大別しうるが、そのうちもっとも特徴的なものは比喩的表現法で、直喩、隠喩、風喩(ふうゆ)、換喩、転喩、提喩、声喩、換称、反語、反用などに、手際よくみごとに分類整理されている。[小林路易]

日本

日本でも、明治時代になると、西洋修辞学の影響を受けて、文章を書くのに役だつような表現技法が研究された。最初のうちは、英米の修辞学の紹介であったが、しだいにそれを消化し、独自の体系を打ち立てるに至った。その代表は五十嵐力(いがらしちから)の『新文章講話』(1909)である。五十嵐がそこでもっとも重点を置いて説いているのが、文章修飾論、つまり修辞法(レトリック)である。彼は、独自の心理学的見地にたって、約50種の修辞法を、次のような八つの系統に分類している。(1)直喩法、隠喩法、風喩法などのレトリックで、たとえを用いることにより事物を鮮明に写し出す技法、(2)希薄法、美化法で、事物をおぼろに朧化(ろうか)して写し出す技法、(3)引用法、重義法(懸詞(かけことば)を用いる)などで、事柄に関係のある事物を付け加えることにより意味内容を豊かにする技法、(4)挙隅(きょぐう)法(一部分を提示して全体を推測させる)、省略法などで、言い尽くさずに一部を省いて、読者の想像に補わせる技法、(5)漸層(ぜんそう)法(一歩一歩クライマックスに向けて叙述を高める)、連鎖法(しりとり式に語句を続けて叙述を進める)などで、読者の心のなかに入りやすいように言い表す技法、(6)警句法、奇先法(まず奇抜なことばで人を驚かせ、あとに説明をつける)で、思いもかけない表現によって意表をつく技法、(7)反復法、対偶法(対句法)などで、口調がよく、人の感情に順応しやすい表現技法、(8)方便法(醜い事物をことさらに叙述することによって、主要部の美を際だたせる)、遮断法(他の事物を挿入して、文の流れを一時中断する)などで、本来は人の感情に逆らうような表現であるが、それを特別の場合に用いることによって効果をあげる技法である。
 このように、レトリックに焦点をあわせて体系的に研究した修辞学は、明治時代に隆盛を誇ったが、大正時代には早くも衰微の兆しをみせた。というのは、いかに巧みに文章を書くかということよりも、いかなる内容を述べるかということのほうが重要であると考えられ始めたからである。しかし、昭和に入ると、ふたたび文章表現に対する関心が高まり、旧修辞学を批判しつつ、新しい時代の文章に即した表現方法を研究する動きがおこった。波多野完治をはじめとするニュー・レトリックの模索である。旧修辞学の掲げた修辞法を、単なる文章の飾りとみるのではなく、自己の思想や感情をもっとも的確に表現する方法であるという観点からの見直しがなされている。[山口仲美]
『チェンバーズ編、菊池大麓訳『明治文学全集79 明治芸術・文学論集 修辞及華文』(1975・筑摩書房) ▽クルティウス著、南大路振一他訳『ヨーロッパ文学とラテン中世』(1971・みすず書房) ▽リチャーズ著、石橋幸太郎訳『新修辞学原論』(1951・南雲堂) ▽波多野完治著『現代レトリック』(1972・大日本図書) ▽佐藤信夫著『レトリック感覚』(1978・講談社)』

出典:小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)
(C)Shogakukan Inc.
それぞれの解説は執筆時点のもので、常に最新の内容であることを保証するものではありません。

精選版 日本国語大辞典

しゅうじ‐がく シウジ‥【修辞学】
〘名〙 修辞②に関する法則を研究する学問。読者を感動させるのに最も有効な表現の方法を研究する学問。話術にも適用される。美辞学。レトリック。
※思出の記(1900‐01)〈徳富蘆花〉三「其後修辞学の講義を聞ゐて」

出典:精選版 日本国語大辞典
(C)Shogakukan Inc.
それぞれの用語は執筆時点での最新のもので、常に最新の内容であることを保証するものではありません。

修辞学」の用語解説はコトバンクが提供しています。

修辞学の関連情報

関連キーワード

実践理性建築芸術テクネチウム弁証法ポイエシスディオニュシオス・トラクス弁証法ポイエシス教育学

他サービスで検索

(C)The Asahi Shimbun Company /VOYAGE MARKETING, Inc. All rights reserved.
No reproduction or republication without written permission.