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ワキ

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

ワキ
能における,主役のシテに対する役。多くの場合シテの演技を受止めたり,引出したりすることを本分とする。脇とも書き,古くは脇の仕手と呼ばれ,室町時代末頃から,ワキ方専門の職として定まった。ワキに随伴する役をワキヅレという。ワキの役はのなかで,常に現実の男性として登場し,能面は使用しない。たとえば『安宅』の富樫や,『道成寺』『葵の上』の僧侶,『紅葉狩』の維盛などの役がそれである。ワキ方の流派には,進藤流春藤流高安流宝生流福王流の5流があったが,進藤,春藤の2流は絶えた。宝生流はシテ方と区別してワキ宝生,下掛り宝生とも呼ばれる。ワキ方は古くはシテ方の各座に流儀により専属が決っていたが,今日では独立して,どの流儀とも共演するようになった。その他の演劇でも一般に助演者は脇役といわれるが,三味線音楽の山田流箏曲でも,主奏者に対する第2奏者をワキという。この場合主奏者はタテと呼ばれることが多い。

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世界大百科事典 第2版

わき【ワキ】
能の役種。シテの相手役。脇とも書く。僧侶,神職朝臣武士などの役柄が多く,かならず男性であり,現実の生きている人間の役なので,面(おもて)をつけることはない。たとえば《井筒》の旅僧,《羽衣》の漁夫,《船弁慶》の弁慶などである。ワキの同僚,または従者として出る役はワキヅレと呼ぶ。夢幻能(むげんのう)の作劇法では冒頭にワキが登場して,時,所,劇的シチュエーションを設定することから話が始まる例が多く,シテ登場後は,シテの演技の引出し役に徹する。

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日本大百科全書(ニッポニカ)

ワキ
わき
能の用語。能の主役であるシテに対し、脇役(わきやく)を勤める専門職。女性や老人、また神や鬼などの異次元の存在に扮(ふん)することはまったくなく、現実の男性のみを演じ、つねに直面(ひためん)(素顔)で、能面を用いることはなく、舞を舞わない。『邯鄲(かんたん)』のワキだけは夢のなかの人物であり、また『楊貴妃(ようきひ)』のワキは、仙界に分け入る超能力者として描かれている。『安宅(あたか)』や『船弁慶(ふなべんけい)』など、シテと対立する役もあり、ワキのほうが激しく動いて主役の観のある『張良(ちょうりょう)』『羅生門(らしょうもん)』などの例もあるが、諸国一見の旅僧のような役が多い。しかし、能の導入部を担当したあと、舞台の一隅に座したままのワキの存在感は、能の成否を左右するほど重要である。ワキツレ(ワキに従属する役)を伴う曲目もあり、『小袖曽我(こそでそが)』『初雪(はつゆき)』のようにワキの役を欠く曲目もある。
 ワキ方は、室町末期にシテ方から独立して専門職となったとされている。江戸時代にはワキ方各流はシテ方各流の座付きの専属制であったが、明治以降は自由契約制度でシテ方の主催する舞台を勤める。ワキ方五流があったが、進藤(しんどう)流は明治初期に、春藤(しゅんどう)流は大正期に廃絶し、現在は高安(たかやす)流、福王(ふくおう)流、宝生(ほうしょう)流の三流である。宝生流はシテ方と区別するために下掛(しもがか)り宝生流とよばれる。高安流の謡(うたい)は金剛流、福王流は観世(かんぜ)流に酷似しているが、下掛り宝生流は独自のワキの謡と芸風を開発している。芸術院会員には故宝生新(しん)、故宝生弥一(やいち)、重要無形文化財各個指定(人間国宝)には故松本謙三(けんぞう)、故宝生弥一、森茂好(しげよし)が選ばれており、いずれも下掛り宝生流である。その後継者に宝生閑(かん)、鏑木岑男(かぶらぎみねお)、野口敦弘(あつひろ)、工藤和哉(かずや)、殿田謙吉らがある。長い時間ただ座っている役も多く、じみな役だけに後継者難に陥っている。なお、山形県の農民の継承する黒川能では、ワキ方は独立しておらず、シテ方から出るが、少年に演じさせる習慣もある。[増田正造]

出典:小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)
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