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ヤナギ【やなぎ】

日本大百科全書(ニッポニカ)

ヤナギ
やなぎ / 柳
主としてヤナギ科ヤナギ亜科のヤナギ属Salix、ケショウヤナギ属Chosenia、オオバヤナギ属Toisusuなどの総称名であるが、ヤナギ属の1種シダレヤナギ(枝垂柳)をさすこともある。約300種あり、おもに北半球の暖帯から寒帯、少数が南半球にも分布する。落葉性の高木または低木で、雌雄異株。枝は普通は仮軸分枝で、単軸分枝もある。芽鱗(がりん)は前出葉2枚の片側が合着して1枚となり、腹側が重なり合うもの(A型)と、完全に合着して帽子状になるもの(B型)とがある。葉は互生、まれに対生し、披針(ひしん)形または円心形で縁(へり)に鋸歯(きょし)があるか、または全縁。多くは托葉(たくよう)があり、早落性か永存性である。花は尾状花序をなし、多くは直立または斜め上に伸びる。包葉は一般に永存するが、雌花ではまれに落ちるものもある。包腋(ほうえき)に花被片(かひへん)はないが、指状の腺体(せんたい)が1、2個あり、複数の腺体が合して環状の蜜腺(みつせん)になるものもある。虫媒花であるが、腺体を欠くケショウヤナギは風媒花である。雄花は雄しべ1ないし十数本であるが、多くは2本。雌花は雌しべ1本、子房は1室、2枚の心皮からなり有柄または無柄、柱頭は2個で花柱に長短がある。側膜胎座に倒生胚珠(はいしゅ)が1個または多数ある。果実は(さくか)で2~4裂する。種子は白色の絹毛(柳絮(りゅうじょ)という)に囲まれる。無胚乳で子葉は扁平(へんぺい)
 日本には上記3属が自生するが、ケショウヤナギは川岸に生え、長野県(上高地、梓川(あずさがわ)下流)、北海道、および朝鮮半島、樺太(からふと)(サハリン)、東シベリアに分布する。オオバヤナギは中部地方以北の本州、北海道、および千島に生える。ヤナギ属中で多くの原始的形質を示すマルバヤナギは宮城県以南の本州から九州、および朝鮮半島、中国に分布し、その仲間はアメリカ大陸、アフリカなどにもある。中国原産とされ、樹姿や枝ぶりに趣(おもむき)のあるシダレヤナギやウンリュウヤナギ、野生は不明であるが、枝や葉裏の銀白色毛がみごとなキヌヤナギ、大きな白い花穂の雑種フリソデヤナギ、花穂の黒いネコヤナギの変種クロヤナギ、枝で行李(こうり)やバスケットなどをつくるコリヤナギなどは広く植栽され、切り花にも使われる。各種の高木の材はパルプ、軸木、箱などの製造に利用する。
 なお、ヤマナラシ亜科のヤマナラシ属の中国名は楊(よう)である。[菅谷貞男]

文化史

福井県鳥浜貝塚から縄文前期の石斧(せきふ)の柄(え)などに使われたヤナギが出土している。ヤナギは簗木(やなぎ)に由来するとされ、漁労用具としても重要であったことを思わせる。『万葉集』では「青楊(あおやぎ)の枝伐(き)りおろし湯種蒔(ゆだねま)き……」(巻15)と歌われている。湯種(斎種(ゆだね))は、豊穣(ほうじょう)を祈って斎(い)み清めた種籾(たねもみ)である。現代も水田の苗床や水口にヤナギをさす風習が一部に残るが、これは田の神を勧請(かんじょう)するためとか、挿木でよく根づくところから、苗も根を張れとする類感呪術(じゅじゅつ)とみられる。さらに『万葉集』ではヤナギを蘰(かずら)にしたことが「青柳の上(ほ)つ枝(え)よぢとりかずらくは君が屋戸(やど)にし千年(ちとせ)寿(ほ)くとぞ」(巻19)などと詠まれている。これはヤナギが春真先に芽吹くため、生命力復活のシンボルとされた中国の考え方の影響がある。
 古代の中国では魔除(まよ)けやサソリの毒除けに用いられた。6世紀の『斉民要術(せいみんようじゅつ)』には、正月の朝戸上に挿して百鬼が家に入るのを防いだ習俗が載る。中国の清明節(せいめいせつ)にヤナギの冠を頂く習慣は唐代にさかのぼる。隋(ずい)の煬帝(ようだい)は黄河(こうが)と淮河(わいが)を結ぶ運河、通済渠(つうさいきょ)の堤防にヤナギを植え、唐の都長安ではヤナギが並木に使われた。中国のヤナギの利用法はシダレヤナギの導入とともに日本にも伝わり、『万葉集』では巻14に「小山田(をやまだ)の池の堤にさす柳……」、巻19に「春の日に萌(は)れる柳を取り持ちて見れば京(みやこ)の大路(おおち)思ほゆ」(大伴家持(やかもち))と歌われた。[湯浅浩史]

文学

カワラ(ネコ)ヤナギ(楊)、シダレヤナギ(柳)の双方をさしていったが、『万葉集』の用例はシダレヤナギの場合が多い。早春の景物として梅の花や鶯(うぐいす)と配合されて詠まれ、「青柳」「春柳」とよばれ、また、漢語の「柳糸(りゅうし)」「柳眉(りゅうび)」に倣って「糸」「眉」によそえられる。平安時代になると、「柳緑花紅」という漢語句があるように、色彩美が、『古今集』に「見渡せば柳桜をこきまぜて都ぞ春の錦(にしき)なりける」(春上・素性(そせい)法師)などと詠まれている。一方、枝のしなやかさが、『催馬楽(さいばら)』「大路(おおじ)」に「大路に 沿ひて上れる 青柳が花や 青柳が しなひを見れば 今盛りなりや」と歌われている。梅の香、桜の色、柳のしだれを、1本の木に兼ね備えさせようとした『後拾遺(ごしゅうい)集』の「梅が香を桜の花ににほはせて柳が枝に咲かせてしかな」(春上・中原致時(むねとき))は、王朝の自然美の極致を詠んだものであろう。『源氏物語』「若菜下(わかなのげ)」では、女三(おんなさん)の宮(みや)の容姿が「青柳」に、髪が「柳の糸」によそえられている。『徒然草(つれづれぐさ)』139段では、家にありたき草木の一つに数えられている。石川雅望(まさもち)の狂文『吾嬬那万俚(あづまなまり)』には、「柳を詠めるざれ歌のはし書」と題する戯文がある。季題は春。[小町谷照彦]

出典:小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)
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