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プロヴォーク【ぷろぼーく】

日本大百科全書(ニッポニカ)

プロヴォーク
ぷろぼーく
写真同人誌。季刊でプロヴォーク社から全3冊を、1968年(昭和43)11月1日、1969年3月10日、同年8月10日発行。創刊時の同人は写真家高梨豊中平卓馬(たくま)、評論家多木浩二(1928―2011)、詩人・美術評論家岡田隆彦(1939―1997)で、第2号から写真家森山大道(だいどう)が参加。雑誌の副題として「思想のための挑発的資料」と明記される。中平と多木を「起草者」とする創刊号の巻頭言には、「言葉がその物質的基盤、要するにリアリティを失い、宙に舞うに他ならぬ今、ぼくたち写真家にできることはすでに言葉ではとうてい把えることのできない現実の断片を、自らの眼で捕獲していくこと、そして言葉に対して、思想に対していくつかの資料を積極的に提出してゆくことでなければならない」とある。『プロヴォーク』創刊の1968年には、パリで五月革命があり、日本国内も70年安保改定や大阪・日本万博を前にして、政治闘争が激しく展開していた。同誌はそうした時代の空気を反映し、写真を中心とする視覚文化の制度に対して異議申し立てを行った。
 創刊号は多木、高梨、中平による「1968年・夏」と題した写真のほか、岡田によるエッセイ「見えない、せつない、翔びたい」、多木によるエッセイ「覚え書・1――知の頽廃」を収録する。第2号は「エロス(eros)」をテーマに同人が写真を競作。そのほか岡田のエッセイ「feticoに逆戻り」と詩「大股開きに堪えてさまよえ」を収めている。第3号には同人の写真と岡田の詩「点と線でいまを描くな」のほか、全巻を通じて唯一のゲスト執筆者となった、詩人吉増剛造の詩・エッセイ「写真のための挑発断章」を掲載。
 第3号出版後、多木・中平編による『まずたしからしさの世界をすてろ』(1970)を刊行し、同人組織は「解体」。「アレ・ブレ」「ブレ・ボケ」などと揶揄(やゆ)された、『プロヴォーク』の写真に見られる表現形式上の特徴、すなわちぼやけた焦点、粗(あら)い印画紙上の粒子、傾いた水平線などは、第二次世界大戦後の写真が拠(よ)り所としてきた、明快で客観的なリアリズムの価値を根底的に疑うものであった。同時にそうした表現は、撮影から伝達に至る、自明とされてきた既成の写真家の作業プロセスへの、端的な抵抗を意味していた。各ページに見られる、意味の脈絡を欠いた断片的な写真の提示方法には、複数の写真からまとまったストーリーを組み立てる作法、つまり伝統的なグラフ・ジャーナリズムが尊重してきた「組写真」の美学に対する強い否定が見られる。こうした反抗や否定の身振りには、日本の社会が高度な資本主義と情報化に向かうなかで、ともするとその流れに同調・加担してしまう、表現者としての写真家という主体(自己)とその職能に対する、強い危機意識がある。
 自主的なメディアである『プロヴォーク』は、それまで写真雑誌や総合雑誌のグラビアに登場することがステータスだった、日本の写真の制作と受容をめぐる制度に風穴を開けた。同人の写真やエッセイは、従来のグラフ・ジャーナリズムの制度の枠に収まらない表現を提示し、逆に既存の雑誌メディアの側も彼らから触発されて変化を余儀なくされた。いずれにせよ『プロヴォーク』は、現代写真の転換を促したものとして、特に後続する世代の写真家、写真評論家、研究者に多大な影響を及ぼした。多木、中平、岡田とゲストの吉増の綴(つづ)ったエッセイや詩は、同時代に対する荒々しくも鋭利な批評性を示し、同誌は一種の文芸批評的な運動体として捉えることもできる。
 雑誌休刊後、多木は実作から離れ、記号学的な知見をベースにしたユニークな文化批評の領域で活躍する。岡田は詩作や文芸評論・美術評論に専心する。写真家の中平、高梨、森山は、『来たるべき言葉のために』(中平。1970)、『写真よさようなら』『狩人』(ともに森山。1972)、『都市へ』(高梨。1974)など、彼らにとって初期の代表作となる写真集を発表、いずれも『プロヴォーク』における先鋭的な実験精神を、各自の資質に即して昇華した傑作である。[倉石信乃]
『『プロヴォーク』(1号=1968年11月1日、2号=1969年3月10日、3号=1969年8月10日・プロヴォーク社) ▽中平卓馬著『来たるべき言葉のために』(1970・風土社) ▽多木浩二・中平卓馬編、天野道映・岡田隆彦・高梨豊・多木浩二・中平卓馬・森山大道著『まずたしからしさの世界をすてろ』(1970・田畑書店) ▽森山大道著『写真よさようなら』(1972・写真評論社) ▽森山大道写真『狩人』(1972・中央公論社) ▽高梨豊著『都市へ』(1974・イザラ書房) ▽「特集『プロヴォーク』の時代」(『デジャ=ヴュ』No.14・1993・フォトプラネット) ▽西井一夫著『なぜ未だ「プロヴォーク」か――森山大道、中平卓馬、荒木経惟の登場』(1996・青弓社) ▽飯沢耕太郎著『戦後写真史ノート』(岩波新書)』

出典:小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)
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